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第1話
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彩は頭の中が真っ白だった。
何でここに、美希がいるの?
翔さんが、美希の婚約者ってどういうこと?
美希も驚愕の表情を浮かべたまま、呆然として彩を見つめていた。
「まさか、アヤが……私から東雲を奪った張本人だなんて……!!」
「み、美希……翔さんは、私の交際相手だよ?」
その彩の言葉に、みるみるうちに美希の表情は悪魔の化身と化す。
「ふざけんじゃないよっ、このドロボウ猫がっ!! アンタごときが東雲と交際できるわけないでしょうがっ!! 私から婚約者を横取りしようなんて、100年早いんだよっ!!」
美希はどこから持ってきたのか、『バールのようなもの』を振りかざしながら、彩に向かって突進してくる。
すると、すっとふたりの間に入った東雲が、がっしりと美希のその右腕を掴み上げ、『バールのようなもの』を叩き落とした。
「なにすんのよ! 離してよっ!!」
「もうよせ、美希」
「冗談じゃないわよっ! 全てはアンタのせいじゃないっ!!」
ビシッ!!
美希は左手で、東雲のほおを思いっきり平手打ちした。
だが、東雲は表情ひとつ変えず、ぴくりとも動じない。
「何度でも殴ればいい。それで気が済むなら」
「なによう!! あんたなんか……あんたなんかっ……!!」
美希はその場に崩れ落ちて、おいおいと泣き始めた。
彩はシーツをからだに巻き付けたままベッドから立ち上がると、呆然とその様子を見つめるしかない。
「か、翔さん……これって、どういうことなのか説明してください」
東雲は足下にうずくまる美希に目を落としたまま、あくまで冷静に答えた。
「彩さん、すまない。こうなる前に、もっと早く言っておくべきだったよ。渡来美希さんが、まさか、彩さんの知り合いだとは思わなかった。実は彼女は……元婚約者なんだ」
ええっ!
じゃあ、美希が結婚するって言ってた相手って、翔さんだったの!?
「誓って言うが、今は婚約解消している」
「美希との婚約を解消したんですか……?」
「ああ。俺は誰でもいいから、とにかくすぐに結婚したかった。彼女とは大手の結婚相談所で出会って、お見合いでは性格も良さそうだったから、早々に婚約したんだが……」
「それが、いったいどうして?」
「いざ付き合ってみたら、彼女の態度が急変したんだ。高価なプレゼントばかりを要求するし、他人に対しては傲慢な態度を取る。話すことと言えば人の悪口だらけだ。自分勝手な我が儘ばかりで謙虚さがまるでない。さすがに俺も結婚するのは無理だと判断した。彼女にそう伝えたが、どうしても納得しなくてね」
「そんな……」
「別れたのに毎晩家に押しかけてくるから、別の家を借りた。それでもストーカー行為を辞めないので、一度だけ会って、約束させたんだ。俺が1ヶ月以内に結婚すれば、全て諦めると」
それを聞いて、彩ははっとした。
だから翔さんと最初に会ったとき、どうしても1ヶ月以内に結婚したいって言ってたんだ……。
「あ、あんたが全て悪いんじゃないのお~!!」
美希は号泣しながら、東雲の足にしがみついた。
その顔は涙で化粧もすっかり落ちてしまい、今や実年齢以上に醜く変貌していた。
「だったらなんで、結婚するって言ったのよお~!! わたしの人生を償いなさいよお~!!」
東雲はまったく動じもせずに、すっかり冷めた目で美希を見つめた。
「君には本当に申し訳なかったと思っている。それはもう、何度も伝えたはずだ。結婚を急いだ俺が悪かったんだ」
「そんなこと言わないでえ~!! なんで彩なのよお~!! こんな単純バカで、ぶくぶく醜く太った女のどこがいいのよ~!!」
「彩さんは君とは全く違う。素直で慎ましく、そして友達想いでもある。俺が選んだのは彩さんだ」
突き放した言葉に、ふたたび美希は泣き崩れる。
そんな修羅場を見つめながら、彩はどこか冷静になっていた。
これって……なんか、おかしくない……?
何でここに、美希がいるの?
翔さんが、美希の婚約者ってどういうこと?
美希も驚愕の表情を浮かべたまま、呆然として彩を見つめていた。
「まさか、アヤが……私から東雲を奪った張本人だなんて……!!」
「み、美希……翔さんは、私の交際相手だよ?」
その彩の言葉に、みるみるうちに美希の表情は悪魔の化身と化す。
「ふざけんじゃないよっ、このドロボウ猫がっ!! アンタごときが東雲と交際できるわけないでしょうがっ!! 私から婚約者を横取りしようなんて、100年早いんだよっ!!」
美希はどこから持ってきたのか、『バールのようなもの』を振りかざしながら、彩に向かって突進してくる。
すると、すっとふたりの間に入った東雲が、がっしりと美希のその右腕を掴み上げ、『バールのようなもの』を叩き落とした。
「なにすんのよ! 離してよっ!!」
「もうよせ、美希」
「冗談じゃないわよっ! 全てはアンタのせいじゃないっ!!」
ビシッ!!
美希は左手で、東雲のほおを思いっきり平手打ちした。
だが、東雲は表情ひとつ変えず、ぴくりとも動じない。
「何度でも殴ればいい。それで気が済むなら」
「なによう!! あんたなんか……あんたなんかっ……!!」
美希はその場に崩れ落ちて、おいおいと泣き始めた。
彩はシーツをからだに巻き付けたままベッドから立ち上がると、呆然とその様子を見つめるしかない。
「か、翔さん……これって、どういうことなのか説明してください」
東雲は足下にうずくまる美希に目を落としたまま、あくまで冷静に答えた。
「彩さん、すまない。こうなる前に、もっと早く言っておくべきだったよ。渡来美希さんが、まさか、彩さんの知り合いだとは思わなかった。実は彼女は……元婚約者なんだ」
ええっ!
じゃあ、美希が結婚するって言ってた相手って、翔さんだったの!?
「誓って言うが、今は婚約解消している」
「美希との婚約を解消したんですか……?」
「ああ。俺は誰でもいいから、とにかくすぐに結婚したかった。彼女とは大手の結婚相談所で出会って、お見合いでは性格も良さそうだったから、早々に婚約したんだが……」
「それが、いったいどうして?」
「いざ付き合ってみたら、彼女の態度が急変したんだ。高価なプレゼントばかりを要求するし、他人に対しては傲慢な態度を取る。話すことと言えば人の悪口だらけだ。自分勝手な我が儘ばかりで謙虚さがまるでない。さすがに俺も結婚するのは無理だと判断した。彼女にそう伝えたが、どうしても納得しなくてね」
「そんな……」
「別れたのに毎晩家に押しかけてくるから、別の家を借りた。それでもストーカー行為を辞めないので、一度だけ会って、約束させたんだ。俺が1ヶ月以内に結婚すれば、全て諦めると」
それを聞いて、彩ははっとした。
だから翔さんと最初に会ったとき、どうしても1ヶ月以内に結婚したいって言ってたんだ……。
「あ、あんたが全て悪いんじゃないのお~!!」
美希は号泣しながら、東雲の足にしがみついた。
その顔は涙で化粧もすっかり落ちてしまい、今や実年齢以上に醜く変貌していた。
「だったらなんで、結婚するって言ったのよお~!! わたしの人生を償いなさいよお~!!」
東雲はまったく動じもせずに、すっかり冷めた目で美希を見つめた。
「君には本当に申し訳なかったと思っている。それはもう、何度も伝えたはずだ。結婚を急いだ俺が悪かったんだ」
「そんなこと言わないでえ~!! なんで彩なのよお~!! こんな単純バカで、ぶくぶく醜く太った女のどこがいいのよ~!!」
「彩さんは君とは全く違う。素直で慎ましく、そして友達想いでもある。俺が選んだのは彩さんだ」
突き放した言葉に、ふたたび美希は泣き崩れる。
そんな修羅場を見つめながら、彩はどこか冷静になっていた。
これって……なんか、おかしくない……?
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