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第1章 似て非なるは表裏一体
1.最凶の武神⑦
しおりを挟む場にそぐわない底抜けに明るい声。
軽い目眩に、のろのろとそちらへ目をやる。
炎を固めたようなルビーのそれと目が合い、ニパッと笑みを向けられた。
この場のテンション分かってんだかどうなんだか、非常にリアクションに困る。
「どうした?朱雀。何か、意見でも?」
朱恢の問いに、朱雀が前に歩み出た。
ツイと俺を指差し、朱雀が口を開いた。
「その子、僕、欲しい!」
簡潔だ。
とても分かりやすいが、言ってる意味はとても理解しがたい。というか、理解したくない。
唖然となり返答もできない俺と、困ったように微苦笑する朱恢、苛立ちと呆れに、眉間に盛大に縦じわを刻み、額を片手で押さえる青龍。阿呆らしいとばかりに関わりを放棄する匂陣。無反応のまま静かに目を閉じたままの騰蛇。誰もかれもが反応出来ず(反応せず)、微妙な空気が場を包む。
「欲しいと言われてもねぇ、、、物ではないのだし、はいどうぞとはいかないよ?この者、ヒナタの意見もあるし…」
「流人を見張る役も必要、、、でしょ?」
「まぁ、そうだね。それでも……」
最初に我に返ったのは朱恢で、さすがに取り乱したりせず朱雀に冷静に相対したが、間髪入れずの朱雀の返しに若干たじろぐ。
「欲しいとはどういう意味だ?朱雀」
言い淀む朱恢の代わりに、青龍が凄味のある声で問いを投げた。
「やだなぁ、欲しいはそのまんまな意味だよ。流人は見張らなきゃならないんなら、僕がヒナタをもらうよ。僕はヒナタを可愛く思ってるから全然構わない。迷惑に思わない者が引き取れば得じゃない?」
「損得の問題ではない!流人はそんな軽々しく扱ってよいものではない!貴様の好き嫌いに合わせる必要があろうはずがなかろう!!」
「こっわいなぁ~。頭が硬いよ」
「ふざけているのか!痴れ者が!!」
激昂する青龍とは裏腹に、朱雀は相変わらずヘラヘラのらりくらりで、一向に堪えた様子はない。
「仲良うしとるとこ申し訳ないけど、俺からもいいか?」
「仲良くあるか!それに天后!何だ、そなたまで」
「うん?別に掻きまわそうとかいうんやあれへんよ。ただ……」
「ただ?」
ちらっと天后の視線が俺に寄越された。
悪戯っぽいそれは妙に意味深だ。
あまり、いい予感がしないんですけど……
「流人を丁重に扱うんやろ?やったら、朱雀には悪いけど、もっと適任おるやん」
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
「…………………………………………ここまで聞いて、何も説明らしい説明が出てこないという事は、そういう事なのですね?」
少年に益々胡乱な目を向けられる。
いや、だから!何で俺が責められてるみたいになってんの⁈
おかしくね?????
ハァッと小さく溜め息をつき、少年が卓上に料理と共に置かれた茶器を取り上げ、手慣れた仕草でお茶を煎れてくれた。
溜め息吐きたいのは俺の方だ。
釈然としないものを感じるが、爽やかな香りの茶葉の匂いに、ささくれ立った気が鎮む。
無意識に感じていた緊張が解れ、急に喉の渇きを覚えた。
コクリと上下する喉に、少年がどうぞとお茶を差し出してくれ、ゆっくりと飲む。
ふっと、詰めていた息を吐く。
「まったく、何の為に皆お集まりになったのか……肝心な事が話し合われていらっしゃらないとは」
呆れたように言われるが、俺には返せる言葉はない。
少年の言葉通り、結局、肝心な話はなされず、俺の当面の落ち着き先だけが決まって終わった。
場が修正不可能なくらいに混乱・険悪になり、それ以上の話は無理と判断され、詳しくは俺の落ち着き先の者が説明するとなったのだ。
なった……………………のだけど、、、、、ね。
その落ち着き先の者も、結局、ここに連れて来るだけ連れて来て、一切、説明もなしに今に至る。
「私が説明するしかないようですね……」
再度溜め息をつき、少年が居ずまいを正す。
「改めまして。私の名は阿秀と申します。流人殿のお世話を言付かっておりますので、何かあれば私に申されませ」
「あぁ……うん、、、ども」
しっかりした子だ。得体が知れないだろう俺にも丁寧に接してくれる。
「話をする前に……」
「?」
「まずはお食事を召されませ。詳しくはその後に」
箸を差し出されると同時に、俺の腹が盛大に鳴った。
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