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第4章 白花の聖女
4.使者、来訪④
しおりを挟む皇太子殿下の所からほぼ逃げるようにマヒロを連れ出した。
文字通り、逃げ出したようで釈然としないが、あれ以上居れば、あの喰えない皇太子を喜ばすような醜態を晒しかねない。
ひとまずよしとしよう。
「屋敷、帰る?」
伺うようにマヒロが聞いてくる。
俺の仕事は騎士を率いる者、隊長だ。王族の地位は得たが、やる事は今まで通りと頼んである為変わらない。
が、それも今は別の任に就いて居る為……
「いや……騎士の宿舎へ行く。キリアンとジディも戻っているだろうし、使者が来るなら、その警備の采配も2人に出さなきゃならない」
実際、今の俺の最重要事項は別にある。右腕と言っても過言ではないあの2人になら、安心して任せられるが、それでも、ある程度指示は出さなきゃ動けないのも事実。
と言うか、動かない。
ジディは特に。キリアンですら、いい加減そうに見えて、隊律命令違反はしない。
必要と判断した場合の、先んじて動く事はあれども、、だ。
優秀すぎて、居なくなる事態を恐れるぐらいだ……
「采配って、、カイザーが警備すんじゃねぇの?」
「俺はやらん」
小首を傾げてマヒロがこちらを見てくる。
仕草は可愛いが、そんなどころではなく呆れてしまう。
まさかとは思うが……
「お前は……俺が今、何に対して何をしてるのか忘れたのか?」
俺の問いかけに、マヒロの顔に戸惑いが浮かぶ事で、疑問が確信に変わった。
呆れるを通り越して怒りが湧きそうだ。
自分を過大評価する奴も困るが、過小評価し過ぎる奴ほどタチが悪い。
マヒロの場合は後者。
頼むから、自分が何者であるのか自覚をして欲しい。
「えっ、、、と??」
空惚けてるわけじゃなく、本気だから、こちらもまた、頭を抱えたくなる。目眩を起こしそうだ。
「……………………もう、いい。お前に期待した俺が阿呆だ」
あまりの疲れと落胆に盛大な溜め息が漏れた。
時々、というか、こいつを得てから不安になる事が増したのは気のせいだろうか?
俺の想いは伝わっているのだろうかと度々考えてしまうくらいに……………………鈍い。
気が強く、変に無鉄砲で、正義感もあり、他人への思いやりも人一倍あり、機微にも聡いのに、、、
どうしてこうも、自分の事となると鈍いんだ?
「ごめん、、、なさい?」
「何で疑問形なんだ?………ったく、もういいと言ったろ?」
「だっ、てさ……」
目に見えて、しょげ返った顔をされ、俺の中に気不味さが募った。
これでは俺が追い詰めたかのようで後味が悪い。
自分でもバツの悪さに複雑な感情を持て余し、盛大に溜め息を吐いた後、それを誤魔化そうと、些か乱暴に目の前の痩身を引き寄せ抱き竦めた。
相変わらず細っそりとした体は、俺の腕に収まっても余るくらいに頼りない。
不健康とは言わないが、ややもすると壊してしまいそうな錯覚を起こしそうだ。
「お前……それは、卑怯だろ。俺が……あぁ!もう!!所詮、先に惚れた者が負けか?…………」
気後れしつつ、胸元に縋り付いてくる体に、頭を掻きむしりたいくらいに感情を刺激される。
この俺をいいように振り回すなど、こいつくらいのものだ。
「あ、のさ、、怒って、る?」
「……………………怒ってない。あと、その顔やめろ」
こちらを伺うように、おずおずと見上げてくる顔に、若干怯みつつ、努めて顔を顰めながら返した。
自覚しているのかいないのか、マヒロは……
してないんだろうな、これの場合は……
俺の返しに、案の定、自分の顔をペタペタ触りだし首を捻る始末だ。
良くも悪くも素直且つ鈍すぎる反応に、溜め息と微苦笑を禁じ得ない。
「本当に…随分な違いようだな」
思わず言葉が漏れた。
沈寂の森で出会ってから早数ヶ月。始めの頃の警戒心はなりを潜め、今では無防備な姿を見せる。心を明け透けに、こちらへ惜しげも無く晒される隙は危うくもあり……
身も背もなく組み伏せ征服したくなる。
些か、暴力的な気を起こさせるマヒロの危うさと無防備さに、内心、狼狽が止まらない。
「な、に?」
訝し気にこちらを見てくる幼さに、分かってやっているのかと思わず疑いたくなる。
まぁ、それはないと分かってもいるが……
胡乱に見つめた後、不意に視線をやった小さな唇に釘付けになった。
触れたい。
自然にマヒロを見つめる目に熱が宿るのを自覚した。
戸惑いに揺れる瞳を、自分と同じ熱に沈めたくなる。
吐息ごと奪って、俺しか見えなくしてしまいたい。
抱き寄せる細腰にかかる腕に自然力が入った。
「カイ……」
小さく俺を呼ぶ口が開く。
「何の冗談だ?カイザー!」
マヒロの声音を破るような声が響き、一気に空気が一変した。
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