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第4章 白花の聖女
4.使者、来訪②
しおりを挟む「白の…………………ーーーーーーーーーー聖女だ」
聞いた瞬間、思考が停止した。
アウランゼが聖獣妃を得た時点で、赤と翠が動いたのだ。当然、その他の国も動く事は、火を見るより明らか。
が、心の隅では、そうでなければいいとも思っていた。
つくづく、考えが甘い。
未だ、どこかでこのまま消え去ってしまえばいいと考えていたのか……
そんな、都合のいい話があるはずもない。
ゆっくりと目を閉じ、小さく長く溜め息をつく。
「カイザー……?」
ふと名を呼ばれ、隣に目をやる。
光を弾く、稀有な黒色がこちらを見ている。
出会った頃と、その光は変わらない。
まさか自分が、歳下の、それも同じ性を持つ青年に捉われる事になるとは夢にも思わなかった。
「どうかしたのか?」
若干の戸惑いを含むマヒロの言葉に、小さく首を振り、頰へと伸ばした手の甲でやんわり撫でてやる。
目を瞠り、次いで、マヒロの目元がカッと朱を履き染まった。
「な、な、何ッ⁈急、に!」
羞恥を誤魔化すよう慌てて言い募るが、吃っていては台無しだ。
このまま、慌てる様子を愛で楽しみたいところだが……
「仲睦まじいのは喜ばしいけど、そういう戯れは、屋敷へ戻ってからしてくれるかな?ここは、一応、私の部屋なわけだしね」
皇太子の苦笑交じりの言葉に、マヒロの顔が一気に茹る。場所を考えず、触れてしまったのは俺の落ち度だ。
マヒロにも恨みがましく拗ねたようにじっとり睨まれた。ここは素直に、自分が全て悪いという態度に出るのが得策。軽く肩を竦め、大人しく手を引っ込める。
短い遣り取りの間で、胸の騒つきは治まっている。
「使者が到着するのはどのくらいに?」
「明後日だよ。念の為聞くけど、大丈夫かな?」
「どういう意味でおっしゃっているのか分かりませんが、大丈夫、とだけ答えます」
「そ?まぁ、私はアウランゼに不利にならなければ構わないよ」
ニッコリ微笑んで優雅にカップを持ち上げる皇太子に、苦々しい顔しか返せない。
確認したかっただけとしか思えない遣り取りに、呆れるしかない。分かってはいたが、主君ながら喰えない皇太子だ。
これ以上は話はなさそうだ。
「それだけでしたら、もう、辞しても?」
「うん。どうぞ。呼び立てて悪かったね?」
「……………………いえ」
不満ありありに答えるが、クスクス笑われるだけだ。
主従にあった頃には許されない受け答えだが、今は立場も違う。多少の反抗は許されるし、意趣返しできると思ったが、リステアには毛ほどにも感じなかったらしい。
せめてもと、あからさまに溜め息をつくに留め、礼をとる。
「では、これにて御前、失礼します」
「うん。次はもう少し砕けてくれたら嬉しいかな。一応、皇室に連なる者になったんだし。同じ血の繋がり同士なわけだし?」
「……………………努力、します」
得るものの為の苦肉の策だ。取りたくて、取り戻したわけじゃない。
マヒロの為でなければ、誰が好き好んで……
感情が面に出ていたらしい。
堪え切れないとばかりに皇太子が吹き出した。
「ふはっ!!カ、カイザーにそんな顔ができるなんてね。結構結構!どうやら、マヒロの存在は、聖獣妃以上らしいね?素晴らしいよ!」
涙を滲ませながら笑う皇太子。
これ以上居れば要らぬ腹を探られ墓穴を掘るだけだ。揶揄いの種を与えるのも御免だとばかり、自分でも、騎士隊長としては取ったこともない不調法さだと自覚しながらも、1人わけが分からず困惑気味なマヒロの手を掴み、足早に部屋を辞した。
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