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第2章 聖獣妃
3.危険な接触 君子危うきに近寄らずとは言うけれど…④
しおりを挟む閉じていた目を開ける。
見慣れない部屋。肩へ目をやるが、ルーウェンは居なくなっている。
「カイザーの屋敷の部屋、、じゃないな。転送できたって事か?」
ジオフェスに頼み、ルーウェンの力でレーヴェの元に転送させてもらったが、肝心な相手が目の前に居ないんじゃ、成功したのかどうか分からない。
本当は、自分でもこのやり方が危険で間違っているのは分かっていた。
大神官長レーヴェが、皇太子やカイザーとは対極にある第一皇子派の者なのは分かっている。
血脈と思われている俺がどうにかなってしまえば、カイザー達に不利な状況を招きかねない。それでも、敢えて、危険を冒したのは……
「お待ちしてましたよ?貴人マヒロ様」
「ッ!!」
不意に後ろから声がかかり、慌てて振り返る。
ソファに優雅に座り、レーヴェがニッコリ微笑んだ。
相変わらず、ふわふわと掴み所のない空気が漂う。
考え事をしていたとはいえ、まったく気配を感じなかった。それに……
「待ってたって…まるで、俺がここへ来るのが分かってたみたいな言い方だな?」
「ええ。分かってましたよ。というか、むしろ、そうなるように仕向けましたから」
「な、んだよ?それ……あんた、一体なにを…」
クスクスと笑いながら、何でもない事のように言うレーヴェに、俺の背筋に意味の分からない寒気が走る。
目の前で、柔らかく、邪気など一切ないとしか思えない笑みを浮かべる相手に恐怖と嫌悪が止まらない。得体の知れない何かを相手に、ただ無意味に立ち向かっているかのような……
今更ながらに、ここへ来たのは失敗だったと後悔が湧いた。
会えば、話を聞ければ分かると思っていたが、考えが甘かったかもしれない。
最初に会った時の違和感。それが、今はハッキリとしてる。
この男……危険すぎる!!
「おや?なるほど…これはこれは」
警戒を強め、睨む俺を見やった後、レーヴェが楽しそうにクスクス笑う。
第一皇子派の者とはいえ、神官でこの国に仕える臣下である以上、(一応)血脈である俺に、おいそれと不敬な事は出来ないだろうと、ジオフェスには転送だけを頼んだ。だから、帰りは普通に帰ればいいだけだと思ったが……
早まったかもしれない。
とりあえず距離をとろうと、ジリジリと移動するが、元々移動できるだけの距離もない。
「力を得つつあるようですね」
「力?言っとくけど、俺は……」
「血脈でないのは知ってます」
言を取るように言われ息を飲む。しかも、そんな事はどうでもいいとばかりに、さらっと受け流された。
こいつ…やっぱり、何か知ってる!
「悪いけど、俺はあんたが思ってるモンでもない!だから……ッ」
「それはそれは……ですが、貴方がそうである事は紛れも無い事実」
「何を根拠に?あんたは何を知ってんだよ⁈俺が神殿で知りたかった事って、あのメモの事なのか⁈あれ、何なんだよ!あんたは何か知ってるんだろ?聖獣妃って何なんだ⁉︎俺は元の世界に帰れ……」
食ってかかる俺に、レーヴェがニコと笑う。相変わらず得体の知れない怖気しか受けないそれに怯む。
「私が何を知ってるか、、ですか?まぁ、知ってはいますよ」
「それ、は……ッ」
「ただ…教える気はありません。貴方は知らなくて良い。知る必要はない。力を得るのは大歓迎ですが、それ以上はいただけません。私が欲するのは……」
そこまで言いかけて、レーヴェが開いていた口を静かに閉じ、ふんわりと口元に笑みを浮かべる。
「聖獣妃の魅力は絶大ですね。危うく口を滑らせるところだ。まだ、抑えられる内に退散としましょうか」
「何?退散って……逃げる気か⁉︎」
「ええ。今の貴方ならまだ可能ですから。ああ、先程、教える気はないと言いましたが、教えられる事はありますよ。貴方が元の世界へ帰れるか、否か…答えは帰られません。というより、帰さないが正解ですね」
ニッコリ微笑んで、レーヴェがソファから立ち上がる。
「レーヴェ!!話はまだ……ッ⁈」
詰め寄りかけた俺の膝が、ガクンと力をなくして崩折れた。
「申し訳ありませんが、これ以上は危険なのでね。貴方には……………ます。…………い、……は、…………ない。聖獣……ん、のみ…………全、た…………らない」
頭がフワフワする。レーヴェの言葉が揺らいで、切れ切れで聞き取れない。
頭の中に靄がかかって、意識を保てない。
グラグラする体を必死に立て、霞んでいく目を向ける。
変わらず柔らかな笑みを浮かべたままレーヴェが口を開く。
「お休みなさい、聖獣妃様。目覚めれば全て忘れます。全て、、、ね。まぁ、もっとも……ーーーーーーーー」
聞こえたのはそこまでで、俺の意識が急激に暗転。
闇に一気に沈んだーーーーーーーーーーーー。
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