上 下
58 / 119
第2章 聖獣妃

3.危険な接触 君子危うきに近寄らずとは言うけれど…②

しおりを挟む



動くなら、動いた方がいい。
それに、神殿があんな事になってしまった以上、もうそれしか方法はない。
そう。あの男に、直接聞くしかないのだ。

「絶対、何か知ってる!じゃなきゃ、あんな事言わないはず…」

聞いて、帰り方が分かれば良し。分からなければ分からないで、あの意味深な言葉と、変なメモ。何故、俺の居た世界の言葉で書かれていたのかは聞きだす。
帰り方……聞いて分かったら、俺、どうすんだろ?
神殿に招かれた辺りまでは絶対、帰る気満々だった。

でも、今は?

考えがどんどん深まりそうになり、慌てて首を振り、考えを振り払う。

「今はそれは後回し!とりあえず、レーヴェに会って、話聞いてからゆっくり考えよ!」

深呼吸し、気持ちを鎮めた。
差し当たっては、屋敷からどうやって抜け出すか?

「あんな事の後だしな…絶対、何もないわけ、、、ないよな?」
「ないね」
「だよなぁ……ッッッ⁈」

呟きに返された言葉に応えてから、ハッと我に帰る。
バッと振り返る俺が叫ぶ……前に、口が手で塞がれた。見開いた目に、苦笑する整った顔。
また⁉︎
眉を顰めて睨む俺に、手で口を塞いだまま、ジオフェスが指を立てた。

「2回目。静かにね?」

目を怒らせ、思いっきりガンつける俺に、ジオフェスが溜め息をつく。
溜め息つきたいのは俺だ。

「どうしてここにいるのだとか、どうやってだとかは説明するから。騒がないでくれる?」

今となっては、こいつに関しての信用性は、ゼロどころかマイナスだ。
本音で言えば、騒いで兵を呼んでもらい突き出してやりたいが、先に言われた二つに関しては確かに気になる。
赤の皇国に関しては、それなりの沙汰が下ったはずで、今現在、その当事者であるジオフェスがここに居るのは腑に落ちない。
ジッと見つめてみるが、ジオフェスがこの状態でそれ以上何か言うつもりはないらしい。
静かにゆっくり頷くと、手が外される。

「安心して、と言っても無理か?まぁ、心配しなくても、もう何かするつもりないから大丈夫だ。というか、できないんだけどね」
「どういう事だ?」
「これ」

と言って、ジオフェスが自分の右手首を見せる。青色の複雑で凝った紋様が、ぐるりと手首を一周し、ブレスレットのように見える。

「何、これ?」
隷属印れいぞくいん。蒼の皇国の持ちものの証。これがある限り、俺は蒼の皇国に仕える者。特に皇族や、それに属する者に害は為せない」

手枷だ。ペナルティ付きの手錠みたいなもの。

「何でそんなモン付けられてんだよ?」
「元々、赤の皇国から密命受けてさ、それ実行する為に来たんだけど失敗したからな。まぁ、失敗したのは、俺が欲出したせいでもあるし?自業自得なんだろうけど。成功して、血脈を手に入れれば良し。失敗すれば切り捨てられるは当然。だから、赤の皇国は俺を政治犯扱いして切り捨てたわけ。でもって、俺の家、ラインハルト家も、俺とは無関係って絶縁ね。赤の皇国に不利益になる俺は、あの国の領土に一歩でも足を踏み入れれば、その場で殺されても文句は言えない。投獄されてさぁ。帰る場所なくして、これからどうするかなぁって考えてたら、蒼の皇太子に腕を買われて、しばらく隷属して大人しくするなら引き立ててくれるっていうから?まぁ、悪い話じゃないしで乗ってみました」
「……………………」

呆れて二の句が継げない。
言える事はただ一つ。

あの腹黒皇太子!何してくれてんだ⁉︎ーーーーだ。
ヤバい…あまりの事に、頭がクラクラする。

「で?その、あんたが何でここに?最初もそうだけど、どうやって入ったんだよ?」
「あぁ、それは」

ジオフェスが笑い、その肩に白い蛇が現れる。

「あんたの聖獣?ルーウェンだっけ?」
「そ。ルーウェンは聖獣なんだけど、魔物の性もあるんだ。空間を移動する力を持ってるんだよ」
「魔物……」

そういえば、カイザーが魔物の中にはそういう力を持つものがいるって言ってたような?
ジッと見つめる俺に、ルーウェンが色違いの目で俺を同じく見つめる。邪悪な気配は感じない。どちらかと言えば、澄んだそれで、白い鱗に覆われた体はツルツル綺麗。
思わず出を伸ばした俺の腕に、ルーウェンがジオフェスの肩から降りて絡みつく。
俺の肩に移ったルーウェンが、頬にスリスリしてくる。きめ細やかな鱗は肌に引っかかる事もなくつるつるスベスベ。
蛇と思ってちょっと怖かったが、ヤバい。可愛い……
自分に構わず、主人でもない俺に甘えまくるルーウェンに、ジオフェスが苦笑する。

「そういうの見たら、マヒロはやっぱりって思うなぁ」
「………俺は、違うって!だって、、、」
「そうなら、そうじゃなくても、マヒロは魅力的だよね。カイザーのモノって分かってても、諦めるのは惜しいなぁ」
「俺は……」

カイザーのモノという言葉に、心臓がドキとなる。
カイザーの事は好き。でも……

「マヒロ?」
「何でもね……それより、ジオフェス。頼みがある」














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)
BL
 舞台は、魔法大国マグレイン王国。  男しかいないこの世界には、子供を孕ませる側のシードと、子供を孕む側のフィールドが存在する。  クラプトン伯爵家の第四子として生を享けたジェイミーは、初めて母を呼んだことをきっかけに、自分が転生者であると自覚する。  時折ぽろぽろと思い出す記憶に戸惑いながらも、ジェイミーは優しい家族に囲まれ、すくすくと成長していく。  そのなかで『誰も食べたことのないアイスを作る』という前世の夢を思い出したジェイミーは、アイスの無い世界で、夢のアイス屋さんを作るべく奮闘するのだが。 小説家になろうにも掲載しています。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【完結】廃棄王子、側妃として売られる。社畜はスローライフに戻りたいが離して貰えません!

鏑木 うりこ
BL
 空前絶後の社畜マンが死んだ。   「すみませんが、断罪返しされて療養に出される元王太子の中に入ってください、お願いします!」 同じ社畜臭を感じて頷いたのに、なぜか帝国の側妃として売り渡されてしまった!  話が違うし約束も違う!男の側妃を溺愛してくるだと?!  ゆるーい設定でR18BLになります。 本編完結致しました( ´ ▽ ` )緩い番外編も完結しました。 番外編、お品書き。  〇セイリオス&クロードがイチャイチャする話  〇騎士団に謎のオブジェがある話  ○可愛いけれどムカつくあの子!  ○ビリビリ腕輪の活用法  ○進撃の双子  ○おじさん達が温泉へ行く話  ○孫が可愛いだけだなんて誰が言った?(孫に嫉妬するラムの話)  ○なんかウチの村で美人が田んぼ作ってんだが?(田んぼを耕すディエスの話)  ○ブラックラム(危なく闇落ちするラム)  ○あの二人に子供がいたならば  やっと完結表記に致しました。長い間&たくさんのご声援を頂き誠にありがとうございました~!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...