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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
17.世の中、平穏無事には済まないようです(大汗)
しおりを挟むハァ~、、と、自分でも重苦しいと分かる溜め息が漏れた。
触れられた、唇を指で触る。
部屋からは出ない、出る気はないと言って、レネットには化粧は直してもらわなかった。
不自然にハゲた唇の色は落とした。
「馬鹿、カイザー……なんで、触るんだよ……」
自覚したてだ。
気持ちに整理がついてない。
不用意に、動けない。第一……ーーーーーーーーー
「そうだとしたって、帰んなきゃいけないのにどうしようもできねぇじゃん」
カイザーの事は……多分好き。男相手っていうのが、いまだに信じられないが、そういう意味で好きなんだろう。
認めるしかない事実と、『なんで⁈』という今更ながらの疑問に溜め息すら出ない。
「駄目だ!ここに居たら、なんか知らんが、よくないマズい方向に行きそう!もう、悠長に帰り方とか調べてる場合じゃないじゃん」
人を(100歩譲って男なのは考えないことにする)好きになるのは悪くない。
ただ、異世界でが問題だ。
俺とカイザーでは住む世界が違う。
お互いがそうだったとしても、結局、世界が別れたら……
「離れなきゃ……今なら、まだ勘違いで済むし。訳分かんない世界で助けられて、善意を好意と間違えた的な?」
自分で言って自分にツッコミ、ツキンと走った胸の痛みに自己嫌悪。
ブルブルと首を振り、溜め息をついた。
「最初の森……なんて言ったっけ?ち、沈静?じゃないな?え~っ、、、と………あ!鎮寂だ!!」
最初、気がついたのがあの森だった。何か見つかる可能性があるとは言えないが、行ってみる価値はある。
扉に歩み寄り、そっと開けて覗く。
護衛らしき騎士の姿が見え、気づかれないよう慌てて閉める。
「扉から出るのは無理だ」
窓に寄る。
城の二階。高過ぎる事はないが、それでもそれなりにある。
ロープかなにか垂らせば行けるか?
「それしかないな。あとは、この格好なんとかしなきゃ」
自分を見下ろした。
ヒラヒラした服は、行動には不向き。
顔を出したまま着けていたベールを外した。アクセサリーも外す。
衣装を保管する小部屋に入る。
黒ではないが、地味な外套を見つけて羽織る。
「あとはロープ?……ないよな、んな物。じゃ、まぁ、マンガなんかでよくあるが、カーテンシーツを使うか」
ベッドに寄り、シーツとベッドカーテンを外した。
さすがに長さが足りない。裂くしかないが……
「ナイフとかないと無理だな」
試しに手で引っ張るが、かなり丈夫で裂け目すらできない。
「手伝おうか?」
「いい。いらない」
問いかけに応えてからハタとなる。
慌てて振り向いた俺に、いつの間に部屋に入ったのか、ジオフェスがニッコリ笑いかけてきた。
「なっ⁉︎どこ……ッッ!!!!!」
『から入った』の叫び声は、ジオフェスに咄嗟に塞がれた手で制された。
口を押さえられ、目を見開く俺に、ジオフェスが唇の前に指を立てて苦笑した。
「シ~、だよ?俺、見つかりたくないし。マヒロも、こんな事してるとこ見つかりたくないだろ?」
「……………………」
ニコと笑いかけられ、暴れかけた動きを止めた。
「暴れない、騒がない。いい?」
問いかけられ、コクコクと小さく頷く。塞がれた手が外され、自由になった口でゆっくり息を吐く。
呼吸と心臓が落ちつくのを待ち、ジオフェスを睨む。
レネットの話では、赤の皇国の関係者であるジオフェスは、俺には接触できなくなってる筈だ。
気配も音もなく、突如、部屋に現れたとしか思えないこの状況にも、驚きより、得体の知れない恐怖が勝つ。
ジリジリと、少しずつ後退りする俺に、ジオフェスがクスと小さく笑った。
「そぉんな警戒しなくても、何もしないって」
「そんな言葉、信用できる訳ないだろ!どっから入ったわけ?」
「どこからだろうな?」
「~~~~~~~~~~!!」
こいつ……
人を煙に巻くようなヘラヘラした態度が腹立つ。
キッと強く睨みつけると、軽く肩を竦めて離れた。
「何もしないって言ってんのに。俺、そんな極悪人に見える?」
「極悪人じゃないかもしれないけど、胡散臭い!!」
「ハッキリ言うなぁ~…でも」
離れていた距離を一気に詰められた。
抵抗する間もなく、両手首を掴まれ腕を上に上げられた。
「マヒロみたいな子は好みだなぁ。言いたい事ハッキリ言うのが気持ちがいいし。気が強くて美人だしね」
「誰が美人だッ!離せよ!触んな!!」
ムカつく!
女の子じゃないから、美人なんぞ言われたって嬉しくない。
「で?カーテンやシーツ使って何するつもりだったんだ?」
「聞けよ!人の話!!」
一向に手を離す気配はなく、喚く俺にジオフェスが構わず窓に目をやる。
「外に出るのか?行きたいとこがあるとか?」
こいつ……徹底的に無視するつもりか?
眦が怒りで吊り上がるのが分かる。
「ここから……っていうより、カイザーから逃げたい、とか?」
「ッッ⁉︎」
咄嗟に違うと言いかけ口籠もる。
カイザーが嫌いで逃げるわけじゃない。むしろ……
そこまで考えて、内心、溜め息をつく。
何で、俺、こんな言い訳がましい事を言ってんだ?
目の前の男に調子を狂わされてる。
「俺が連れてこうか?カイザーから遠避けてあげるよ?」
「だから!ちが……ッッ」
背けていた顔を振り仰ぐ。
言葉が途中で止まる。目の前に現れた二対の光。
スミレと翡翠。
白銀に輝く鱗。薄青く透明な羽根。
くらりと目の前が眩む。
ガクンと意思とは関係なく膝が崩折れた。
瞼が下がっていく。開けてらんない。
項垂れる俺の耳に、場に不似合いなくらいに明るいジオフェスの声が届く。
「まぁ…カイザーに関係なくーーーーーは、俺が手に入れるつもりだけどな」
言葉が聞き取れない。
問いかけようと開きかけた口は言葉を発せず、一気に目の前が暗く染まった。
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