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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや

7.神殿、影の黒幕

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隠し扉の向こうは岩肌が削られた道が続く。ランプが取り付けられ、薄暗い中、なんとか道は分かる。
自然にできたとは思えないそこを、警戒しながら進む。
そもそも、神殿の、それも書棚の後ろにこんなのがある事自体怪しすぎる。
神官たちは、ボリス、副神官長の事を言っていた。

「一体、何の為にこんな……運び込んでたあの袋、何が入ってんだ?」

壁伝いに進む。
しばらく進み、開けた場所に出た。

「行き、止まり?」

何もない。
神官たちが運んでた布袋も何も。

「ど、ゆ事だ?だって……ッ⁉︎」

背後に気配を感じ、振り返ろうとした俺より早く、背後にいた者から後頭部に衝撃を与えられた。
目の前がチカチカ点滅し、急激に薄れていく。顔を確認しようとした俺の目はぼんやりとした影しか映さず、意識が一気に暗転した。

            *
            *
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            *
            *
            *

ズキン……

頭を襲う鈍い痛みを自覚し、ゆっくりと意識が覚醒する。
薄ぼんやりする目を瞬かせた。
ふんわりと柔らかい寝台にいるのを確認し、思わずガバッと飛び起きる。
途端、襲った激痛に呻いて崩折れた。

「うっ……、、いったぁ~…!!」
「あまり、無理をなさらないほうがよろしいかと?」

かけられた声に、ハッとして飛び起き………かけて思い留まり、ゆるゆると慎重に体を起こす。
見知らぬ寝台、見知らぬ部屋だ。
ゆっくりと、声の主に視線をやり、俺は目を見開く。

「あんた、は………」

中庭で子どもたちと話していた時に声をかけてきた神官。名前は確か………

「ノルス……だっけ?」
「覚えて頂けたとは光栄です、貴人様」

ニッコリ笑う神官、ノルスは一見邪気なく見えたが、何となく胡散臭さを感じ、思わず寝台を後退る。
張り付いた笑みは柔らかいものだが、目の奥にある粘ついたものを感じ取り、俺の背中に一気に怖気おぞけのようなものが走る。
こいつ………ヤバい!!
油断なく構える俺に、ノルスがクスクスと場違いなくらいに笑う。

「ご心配なく。貴人様は好きな部類のご容姿ですが、些か歳がいきすぎてます」

歳?
言っちゃ悪いが、俺はまだ十七だ。歳なんて言われるような歳じゃない。
ムッとして口を開きかけ、ハタと止まる。

「俺、まだ十七なんだけど?」

伺うように言うと、ノルスが溜め息をついた。

「えぇ。ですから残念ですよ。私の好む歳より七つも多い」
「……………………………」

ヤバい。
ヤバいヤバいヤバい!!マジでこいつ、本当にヤバい!!
俺より七つも下って…………

「子どもじゃん……!」
「そうですが?身の汚れが始まる前が一番無垢で綺麗なのですよ?」

身の汚れって………
思い至り、赤くなるやら青くなるやら。
この神官……完全ロリショタ変態野郎だ!

「まさか!あの袋……」
「感がよろしいですね?入っていたのはこの神殿の子どもですよ」

それがどうしたとばかり、しれっと言うノルスに、二の句が継げない。

「子どもをどうするつもりだ⁉︎」
「心配せずとも悪いようにはしません。むしろ、私は副神官長からあの子らを守ったのですよ?」
「どういう事だ?」
「副神官長は、貴族と癒着の激しい神殿へあの子らを売り飛ばすつもりでしたから。売られた子らはどうなると?」

考えたくもない。
どうあっても、口にするのもおぞましい答えしか出てこない。

「最っ低だ!お前ら!!」
「一緒にされるのは心外ですね」
「目くそ鼻くそ、変わんねぇよ!!関わった奴らみんな、児童ポルノ条例違反で捕まっちまえッ!!」
「よく分かりませんが、私は捕まりません。捕まるつもりもない」

落ち着き払った態度で、ノルスがのたまう。
どっから来るんだ?この根拠もない自信。
気持ち悪い!吐き気がする。同じ人間とも思いたくない。自分より遥かに弱い者に対して、どうやったらここまで残酷になれるんだ?
同じ空間にいるのも嫌になるくらい、嫌悪感が募る。

「俺が黙ってないからな!皇太子やカイザーに俺が言えば……」
「私があなたを逃すとでも?」
「な、にを⁈」
「残念ながら、私の好みではない為、あなたをどうこうしません。
「ッッッ!」

ねっとりと粘つく笑みを向けられ、背中が総毛立つ。

「神殿の一神官でいるのも飽きてきましたし、そろそろ頃合いでしょうね。あなたの事をさる好事家こうずかの豪族に話したら、喜んで引き取ってくれると。あと、私の事も匿ってくださるそうなのでね。神殿が火事に見舞われ消失したとしても心配いりません」

神殿に火をつけ証拠隠滅しょうこいんめつを謀るつもりらしい。
どこまでも見下げた最低野郎だ。
ジリジリと寝台を下がるが、逃げ場がない。

「大丈夫ですよ?従順にしていれば、いやというほど可愛がっていただけます」

冗談じゃない!誰が、言いなりになるか!!
手を伸ばされ、後退るが背中が壁に着く。

「シュラインっッ!!」

俺の叫びに、緋色のたてがみがひるがえる。
物凄い唸り声で、ガチガチ牙を鳴らすシュラインの口端から魔導の炎がチラチラ覗く。

「炎帝……チッ!!そういえば、厄介なものがついてたんでしたね」

俺に危害を加えようとするノルスに、シュラインが怒りに目を染め上げ、口から拳大の火球を吐き飛ばす。
慌てて避けるノルスに隙ができ、機を逃さず、寝台から飛び降りた。

「来いッ!シュライン!」

部屋の扉に駆け寄り呼ぶ。更に火球を投げつけられたノルスが怯んだ隙に、走り寄ってきたシュラインと共にそのまま外へと飛び出した。









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