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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや

2.神殿招致⑥

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「大神官長⁈だって、すっげぇ、若かったけど⁉︎」

あまりに驚き過ぎて、素っ頓狂な声が出た。
俺のイメージでは、大神官長って名前からしてもっと年寄りの気難しそうな爺さんが相当で……
レーヴェはどう見ても、二十後半くらいで。そんな重責に身を置くようにはとても見えないくらいだった。

「異例の出世だからね」

どう異例なのかは聞かないほうがよさそうだ。そこまで興味はないし、深入りしたくない。

「その大神官長が、俺に何を思って……それに、これに何の意味があるわけ?」
「第一皇子は、殿下の兄君であるが、ご自身の聖獣の位が低く、立太子から外れた事に不満を持っていらっしゃる」
「聖獣の位?そんなのあるのか?」
「聖獣は等しく稀有なものだ。だから、貴賎はない。だが、力の優劣はどうしてもある。力の強さで言えば、殿下の聖獣の方が強い。だから、皇太子に封ぜられた。第一皇子はそれが許せないんだ。自尊心が高いからな」

カイザーの言葉に、皇太子が苦笑いする。

「私は、私自身の聖獣がたまたま強かったというだけで、別に兄上を虐げようとか思った事はない。だが……」

言葉を詰まらせる皇太子に、納得した。
一回しか会った事はないが、一回で十分なほど、あの第一皇子の事は分かる。あの尊大さ、傍若無人ぶりでは、話し合いはまず無理だ。自分が敬われて当然と信じきっている相手に、道理をいくら説いても、まず聞き入れない。

「第一皇子の事は分かったけど……それと、大神官長が俺に接触した事や、ブレスレットこれの意味は?」
「マヒロが血脈の者と知れて、おそらく、自分の側に引き込もうという算段だろうね」
「そのブレスレットは、大神官長が行使できる力の一つ。神殿は第一皇子殿下の庇護の元にある。大神官長のそれは、第一皇子の御名に於いて、正式にマヒロを神殿へ招待した事になる」

苦々しい顔でカイザーが口を開く。
小難しすぎてよく分からない。

「分かんねぇよ。つまり?」
「つまり……」
「マヒロは血脈の者。誰より尊ばれるけど、やってはならない事もある。それが、これだよ?」

益々、分からん……
戸惑う俺に、皇太子が苦笑。

「分かりやすく言うと、一度は許されても二度目からは駄目。マヒロは一度、兄上に逆らっているだろう?」
「え?あ!あれの事?でも、あれは……ッ」
「分かってる。あれは、兄上が悪い。だから許されたんだよ。でも、二度目からは許されない事もある。皇族の顔を意味もなく潰しては駄目なんだ。今回のこれは、大神官長が、兄上の名代として、マヒロを正式に神殿へ賓客として招いている事になるんだよ」
「それ、は……でも、俺、そんなの、知らな……!」
「そう。何も知らないマヒロの隙をついた。こちらが迂闊うかつだったよ。こんな強硬手段に出るとは思わなかったからね」

重苦しく溜め息をつく皇太子に、カイザーもまた渋面を深める。

「断わる事は?」
「まず、無理だね。意図がなかったとはいえ、マヒロはこれを受けてしまっている」
「殿下。なれど、マヒロは知らず……」
「カイザー。其方も、国に仕えし騎士ならば、通るか通らないかは分かるだろう?」

柔らかな口調ながら、皇太子の言葉は揺るぎない。一国の皇太子がここまで言うからには、皇太子の力を持ってしても、この招致は取り消せないらしい。

「行くしかないって事?」

仕方ないとしても、随分乱暴な話だ。
一方的に招待状を押し付けて、強制連行……気分と状況はまさにそれ。

「承服しかねます」

カイザーの厳しい言葉が飛ぶ。どういうつもりでかは知らないが、自分の為に反対してくれてるってのは、素直に嬉しい。

「分からなくはないけどね。私だって、血脈であるマヒロを、なんて、正直いって認めたくはない」
「へ?」

皇太子の言葉に、自分でもマヌケな声が出た。
聞き間違いだろうか?

「あの、さ?今、一人って……」
「うん?あぁ、そうだね。そうだよ。一人でになるね」
「な⁈はぁあ~~~??何でだよ!」

それこそ意味が分からない。
俺、たった一人で、あんな傲慢皇子の招待(という名の実質拉致)を受けて、あんな胡散臭い大神官長の待つ、得体の知れない神殿とやらに行く。
もはやトチ狂ってるとしか言えない事態だ。

「カイザーは⁈俺の護衛なら、カイザーだって……ッ!」
「近衛騎士は神殿にはおもむけない。第一皇子派の神殿と、皇太子殿下直属の近衛騎士は反目しあっている。神殿は、近衛騎士の筆頭にある俺を受け入れんし、逆ならばそれもしかりだ」

確かに、先程は二人とも険悪で……

「む、り!無理無理無理無理ッッ!!俺、一人でなんて……」
「俺とて行かせたくはない。だが、どうする事もできんのが事実だ」

苛立たしそうに言うカイザーに、俺も呆然となる。
まだ、話してなかったが、レーヴェ……あの神官長、怪しい。
俺に話しかけるレーヴェの声はフワフワして、頭の中を柔らかい綿で包み込まれているかのような感覚で。

「カイザー……あ、の」
「マヒロ。とにかく、一度受けるしかない。次はないよう、慎重を期す。神殿とて、血脈の者に無体はしないだろう。すれば、こちら側に弾劾の機会を与える。それに、神殿には珍しい物や、貴重な書などがたくさんある。それらを見るだけなら、行く価値はあるよ」

皇太子の言葉にハッとなる。
ぼうっとなる頭の中に、響いたレーヴェの言葉が蘇る。

『神殿にいらっしゃいませんか?おそらく、貴方がが分かるかもしれませんよ?』

まるで、俺が………

「……ヒロ?」
「え?……ぁ」
「今日はもう帰りなさい。カイザー、後は頼むよ?」
「承知いたしました」

結局、何も言い出せないまま、俺はカイザーと城を後にした。








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