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序章 異世界転移でてんやわんや篇
7.弟皇太子の兄はろくでなし!!
しおりを挟む「カイザー=ユグドラジェル!!」
廊下に響く、怒りと威丈高な声。
振り向くと、全身から尊大さを滲ませた男が歩いてくるのが見えた。
何だ?この無駄に偉そうな男。不信感丸出しで見る俺には構わず、男がツカツカとカイザーの前まで詰め寄った。
「貴様!これはどういう事だ⁉︎」
ずいと突きつけた、書類と思わしき紙に、カイザーは無言だ。
それに対しても、男は眦吊り上げ、ヒステリックに喚く。
鮮やかな金色の髪。茶色みの強い同じく金の瞳。背は高く、中々のイケメンぶりだが、全身華美に飾り立てた様と、尊大さと、滲み出る傲慢さがそれを台無しにしている。
「この日は、私が展く夜会の日!警備の依頼を貴様ら、近衛に命じた筈!なのに、何故、筆頭の貴様らではなく、分隊が配置されている⁈おかしいではないかッッ!!」
ギャアギャア喚き立てる男に、カイザーは尚も無言。
ある意味、尊敬するわぁ~……
とにかく、男はうるさい。自分の言いたい事ばかり喚き散らし、怒りをぶつけ。矢継ぎ早にわぁわぁギャアギャア…
口を開く暇もない。
「今すぐ、訂正しろ!命令だ!!いいな⁈背けば………」
「恐れながら、第一皇子殿下」
おっと!
男は第一皇子だったらしい。思ったままを口にしないで良かった。
「その日は、皇太子殿下が王妃様の為に生誕会を展かれます。なので、筆頭近衛の我々が警備の任に就く事に……」
「なっ⁉︎そのような話、私は聞いていないぞッ!」
「その旨の書簡は確かに届けた筈と存じ上げますが?第一皇子殿下の夜会の書簡より、かなり前になる筈です」
カイザーの言葉に、第一皇子がパクパクと口を開いたり閉じたり……
あ~………これは、アレだな。見てないな……
「な、、そ、、は、母上は何と⁈」
「生誕会を大変お喜びであらせられます。もちろん、出席はなさいますよ?主役にあらせられますから、当然かと?」
カイザーのシレとした言葉に、第一皇子が赤くなったり青くなったり……
まぁ、そうなるだろう。母親の誕生日そっちのけで、自分が展くパーティーの準備に躍起になってたのだ。おまけに、自分の思い通りにいかなかったからと、不平不満を威丈高に訴えに来て……
恥ずかしい奴……
「そ!それなら、私の夜会にこそ、母上はいらす筈だろう⁈警備はやはりそちらを優先すべきだ!!」
「「……………………」」
俺とカイザーが二人して無言になる。
この皇子……馬鹿なんだろうか?
この期に及んで、まだ、自分が正しいと言えるのは、ある意味あっぱれだ。
自分の落ち度を認めたくないのだろうが、あくまで我を通そうとするのは、滑稽を通り越して哀れだ。
絶句する俺より早く、カイザーが先に立ち直る。処置なしとばかりに、小さく首を振り、溜め息をついた。
「優先すべきは王妃様で、命に従うべきは皇太子殿下にです。序列をお弁え下さい」
「貴様ッッ!!確かに奴は皇太子だ!だが、あくまで私の下、弟だぞ⁈兄である私が、弟に譲り遜れと申すか⁉︎」
「リステア様が皇太子に立太なさってからずっとそうきている筈です。それが序列というもの」
何を今更とばかりに言い放つカイザーに、第一皇子の顔がドス黒く染まる。
「貴様ッッ、弟に重用されているからと図に乗るなよ⁉︎貴様など、私が言えば………」
「し、し、失礼します!あ、の……だ、第一皇子殿下。大神官長様が、いらしております」
侍女らしき女の子が、恐る恐るといったていで場に入ってきた。
「うるさいッッ!!今はそれどころではない!!」
「も、申し訳ありません!で、ですが…その、大切なお話があるとの事…急いで、お連れせよとのお言葉にて…キャアっ!!」
おずおずと訴える侍女を、第一皇子が振り向きざまに平手打ちで殴り飛ばした。
「なっッ⁉︎」
廊下に倒れ伏せ、可哀想なくらいに震える侍女に、俺は言葉を失う。カイザーは顔を顰めて、何かを言いかけて言葉を飲む。
慌てて侍女の女の子に駆け寄り、様子を見ると、真っ赤に腫らした頬を手で覆い、涙を浮かべて小さく嗚咽を堪えながら震えていた。
「うるさいんだよ!!侍女の分際で、私に指図するな!身の程を知れッ、無礼者がッッ!!」
プッチン!!!!!
その言葉で、俺の中で何かが切れたのを感じた。
ユラっと立ち上がり、睨み据えながら俺の口が開く。
「うるさいのは、あんただろうが⁉︎この、人でなし!!」
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