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第二部4章 表裏一体 抱く光は闇 抱く闇は光の章
*
しおりを挟む「クリムゾン・フレイ」
「……っと!」
キサの放った炎を、イヴァンは軽々避けた。
少し離れた場所に立ち、笑うが目は笑ってない。
「いい加減にしなよ?キサ。お前、手抜いてるだろ?」
「………………」
「また黙りかよ?ほんと、腹立つなぁ…僕なんか相手にしてらんないって?…あの頃と変わんないよなぁ…どうしたら、見る?僕を認めるんだ?前にも言ったけど、アヤを滅茶苦茶にしたらいいわけ?」
「イヴァン…」
「あは!名前、やっと呼んだね?名前すら知らないのかと心配しちゃったよ」
「何で、魔物なんぞに頼った?カートとランス…それに、リコ。一緒に働いた仲間だ。何で、あんな真似ができる?」
「何で?それ、本気で聞いてるわけ?」
ふはっと、吹き出すように、イヴァンがけたけた笑い出す。
「イヴァン」
「うるせぇよ!何で?そんなの、力の為に決まってるだろうが!!てめぇも、あのクソの皇太子も!エルザの婆ぁも、ラーシャも!皆んな皆んな、人を馬鹿にしやがってよぉッ!!」
イヴァンの魔物の目がギョロリと現れ、ギラギラと獲物を見定めるかのように光る。
「魔物に頼った?だから、何だよ?一番確実だろ?強大な力を手に入れるには。ランス達にした事だって、何が悪いんだよ?あの二人はせっかく力を手に入れられるって機会をフイにした、カスだ!リコは目的の為に利用しただけだけど?使える物を使って何が悪いわけ?」
体をくの字に曲げたかと思うと、仰け反って笑いと、狂ったように笑い出すイヴァンに、キサはそっと視線を伏せる。
「目的の為には、仲間も踏みにじる…お前の方が、カスだろうが…」
「言ってくれるな?でも…初めて感情を向けてくれたんじゃない?その調子でさ、僕の事もっと見ろよ。楽しもうか?キサ」
イヴァンが右目を抉り出し、握りしめる。
【イーヴィル・トレース】
イヴァンが言い放つと、無数の金色の目玉が出現した。ただの目じゃない。禍々しさを秘めたそれに、キサは油断なく構える。
「ちょっとでも触れたら、精気を吸われて危険だよ?逃げ切れるか?この量から」
「イヴァン…この世界の破壊が本当に望みなのか?」
「世界、ね……どうでもいいな。僕は今が楽しければいい。う~ん……そうだなぁ。破壊と静寂をお望みなのは、我が君だから。そうしたいって仰るなら、まぁ、従うだけかな」
「お前の意思はないのか?」
「ないよ。言っただろう?どうでもいい。僕は、今さえ楽しければいいんだよ!お前や、皇太子や、気に入らない奴らを壊す事ができれば、世界がどうなろうと知ったことじゃない。もう、いい?さっさと殺し合おう?」
ニタリと笑うイヴァンに、キサは再び目を伏せる。
ゆっくり開くと、魔導を解放した。
赤銅色に、黄赤が燃え上がる。
ジュッ、ギッ、と、波動に触れたイヴァンの目がまるで蒸発するように消え、イヴァンの顔から笑みが消える。
「何だよ…それ!魔導が…魔導の質が前と違いすぎるだろ!!」
「相入れん事はあっても、一度は仲間だったお前だ。だから、抑えていた。俺の質は、皇太子と同じだ。力を抑制しなければ、相手の存在を消し去る」
「加減してたって言いたいのか!?皇太子は、僕相手に苦戦した!あれは演技なんかじゃ……!」
「無意識だろう……彼の方は、口は悪くとも粗野じゃない。上に立つ者の性…無意識に加減する。例え、お前みたいな下衆が相手でも。本人は気づいてないだろうが、な」
「な、んだよ!それ……!何だよ!何だよ!何だよ!何だよぉぉぉぉッッ!馬鹿にしてんのか?!お前も、皇太子も!僕を舐めるなぁぁああぁぁぁッッッ!!!」
ギラギラと怒りに燃える瞳で睨みつけ、イヴァンが叫ぶと、金色の目玉が一斉にキサに襲い掛かってきた。
ゆらりとキサの姿が歪み掻き消え、襲いかかった目玉が丸いシャボン玉のようなものに包まれ中で爆発した。
「なっ!?キサ!どこだッッ!!」
「お前に引導を渡すのは俺だと決めてた。アヤは無理。皇太子も……命までは奪えんだろう。だから、俺がやる。お前をそこまで歪ませた…近くにいて、歪むのを気づいてもやれなかった、責任の一端を…俺がとる」
イヴァンの背後につき、キサが魔導を凝縮していく。
憎悪に顔を歪ませた後、イヴァンが泣き笑いに変える。
「ちゃんと…見てくれるってわけ?終わらせてくれるんだ?相手に、してくれるんだ?」
「あぁ………」
「酷いなぁ………何だよ、それ…今更なんて」
「そうだな…」
ポツリと落ちる雫の煌めきを、キサは敢えて見なかった事にした。
「加減は…しない。跡形なく滅する」
「うん………」
イヴァンの体から上がっていた禍々しい瘴気が失せた。
「何か、言う事はあるか?」
「ないよ~!う~ん…あぁ、でも…うぅん、いいや」
ふふと笑うイヴァンに、キサは一度目を閉じ開き、背に手のひらを向けた。
「クリムゾン・インフェルノ」
「ッッッ!!!!!」
発すると同時に、イヴァンが一瞬で深紅の業火に包まれた。苦痛は刹那、悲鳴はない。
魔物のものではないイヴァンの瞳がキサに向けられる。
「炎………綺、麗…り………とぅ…キ、サ」
切れ切れの言葉。言い終わり、瞳が笑みに形作られると共に、一気に逆巻いた炎の向こうに消えた。
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