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第二部4章 表裏一体 抱く光は闇 抱く闇は光の章

5.闇は光に抱かれて③

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「ギ、ル?」

呼びかけると、支えていた手をやんわり解かれた。
今まで感じていた、狂気とも言える気配が消えている。

「大事、ない……」
「でも…」
「アーシル…いや、其方は違うな。今生は……アヤ、といったか?」
「俺が、分かる?」
「覚えて、おる……もう一人の自分を、外やりから見やっておった気分だ」
「操られてた、とか?」
「いや……あながち、そうとは言えぬ。あれもまた、我の真相の一つか……狂気にかられ、つけ入られたは、我の中にあのほどの感情があったもまた然り……
心持ちとしては、感情が一つ剥がれたに過ぎぬ」

深く溜め息をつき、ギルが少しだけ体を離す。

「ギル?」
「其方は悪くない……が、すまぬ。闇堕ちした体に、神聖三包結界は堪える……離れてもらえまいか?」
「ご、ごめん!」

辛そうな様子に、慌てて離れた。
結界を外れると、ギルゼルトが強張っていた力を抜いた。

「何があったんだ?」
「虚ろげながら覚えておるは……我が、闇に囚われたという事だ。アーシルに去られ、女神とエルネイレスに奪われたと思い込み、絶望したあの時……闇に……邪神に付け込まれた。そこから先は、狂気に支配され、思うがままに進み……理性我は、狂気の外側でそれをただ見ておった」
「操られてたって、言えるんじゃ……?」
「先にも言うたが、否だ。逆らおうと思えば出来た。だが、しなかったもまた我の意思。憎しみに身を委ねたもまた、我の本意。邪神ばかりのせいではない…」

目を伏せ、静かに話す。多分…ギルゼルトの本来の姿がこれなんだろう。

「つッ!!」
「ギル?どうかしたのか?」

左目を押さえて顔をしかめるギルゼルトに、俺は側に寄り…かけ、留まる。
結界……便利だけど、面倒い(-_-#)

「何でもない…気にす」
「…るだろ?何?」
「……邪眼だ。左目は、我の目ではない」
「どういうことだ?」
「契約を結び、命を得る代わりに魔導の光を半分と、邪神への負の力を供するため、媒体として我の左目をさしだした。この邪眼は、その代わり……あまり、視線を合わすな、アヤ。魔導である其方だ、おいそれと如何にかなりはせぬが、用心に越した事はない」

持っていた布で、ギルゼルトが左目を隠す。
魔導とはいえ人の身、何百年以上も生き永らえるなんて変だと思った。邪神は、ギルゼルトから奪った目を通して、自分の力になる負の感情を受け取り、逆に、ギルゼルトには、命を保つ力を与えていた。
なるほど、ね。だが、そうなると………

「邪神から…目を取り戻したら、ギルはどうなる?」

問題はそこだ。
取り戻した途端、死ぬってんじゃ、迂闊に取り戻すわけにもいかない。

「分からぬ。我の時間ときはあの日止まったまま…取り戻せば動き出し、我が本来生きるはずだったものを刻み出すであろうが……果たして、如何程、残っておるものやら……」
博打ばくちもいいとこじゃん…それ、いつ死ぬか死なないか、結局分かんないってことじゃね?」

駄目だ。結局、何も考えず取り戻すわけにはいかなくなった。
どうしたものか?(ーー;)

「……戻りたいのではないのか?」
「え?」

うんうん唸ってると、ギルゼルトに問いかけられる。

戻りたい?

?顔でいたら、困ったようにだが、ギルゼルトが初めて見せる笑みを浮かべた。

「エルネイレス……いや、今生の水の元へ」
「あぁ……いや、まぁ……う、ん」

戻りたいか、戻りたくないかでいえば、メチャクチャ戻りたい。思い出したら余計にだ。
思い…ださないように、考えないようにしてたのに…

バルド…大丈夫かな?無茶してなきゃいいけど……
あぁ、でも、今は台座をどうにかするために、ギルの目と力を取り戻さないと!でも、どうやって?

あーでもない、こーでもないと考え込んでいたら、不意にフッと吹き出す声が聞こえた。

「ふ…っ、く!あははっ!!」
「え?ギル??」
「似ても似つかぬ…ふふ!あ、はは!!」
「な、なんだよ!?一体?」

思い切り笑うギルゼルトに、俺は困惑だ。
似ても似つかぬ?前にも言われたな??それって、やっぱり、アルシディアとって事だよな?

「ギル?」
「い、や。すまぬ…其方は、違うな」
「何?」
「アーシルと違い、よく表情がかわる。見ていて飽きぬ。なるほど…これが、我ら魔導のみならず、人も人外も隔てず惹きつける所以か。内なる無垢の光…」
「何言って…」
「取り返す」
「は?」

ギルゼルトが右手の平を上に向け、前に差し出す。
方陣が浮かび上がる。
その手を俺が纏う結界にかざすと、バリバリっと白い電光が走る。

「ッッ!!」
「ちょっ!?なに、やっ……!!」
「波動は、土。ルシアの転生か……今生は、何といったか?まぁ、よい。簡単とはいえぬが、方陣式を変える事は可能…なれば、『再構築”纏え”』」

ギルゼルトの言葉に、結界のアメジストが俺の耳に飾りとして戻り、方陣がバラけ、渦を巻きながら俺の左手に巻きついていく。

「なっ!ちょっ!?」
「案ずるな。方陣展開したまま動くわけにもゆかぬ。故に、結界の形を変えた。が、ルシアのかけた魔導は我でも完全支配はできぬ。事、補助や防衛の魔導において、土に敵うものは我らの中にもおらぬ。全破棄を使うたが……あまり保たぬであろう。行くぞ、アヤ。時間がない」
「行くって…だって、取り戻したら、ギル……!」
「要らぬ心配なぞするな。すぐにどうこうなるでもない。それより、今は台座ぞ?台座は今、鍵である其方の方陣が結界により阻まれた事で、起動が鈍っておる。方陣が完成すれば、もはや止めるは容易ではない」
「……わ、かった!行こう、ギル。台座を止める!」

ギルゼルトの言う通り、今は台座をどうにかするのが先決。力と目を取り戻した途端、ポックリはさすがにないだろう。
だから、取り戻して、台座を壊してから考える!
先に走り出したギルゼルトに続き、俺も後を追いかけるように駆け出した。







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