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第二部3章 皇女降嫁?白き生花で紡がれし花冠の章
9.潜入開始!狼さんにはご用心?!④
しおりを挟む「キサ。タータのとこ、行ってくるから」
「姫に?さっき別れたばかりだろう?何の用だ?」
「そうだけど……部屋で泣いてるかもしれないし、心配だろ?」
「……じゃ、俺も」
「タータ、姫で女の子だぞ?本当に泣いてたらどうすんだよ?涙見たいのか、キサ」
「お前だって男……」
「今の俺は侍女で~す!」
俺の返しに、キサが思い切り顔をしかめて黙り込む。
はっはー!やり込めてやったぜ!
フンだ!俺だってこんくらいできるんだからな!!
「じゃ、行って来るから!」
苦虫噛み潰したようなキサを尻目に、俺は意気揚々と部屋を出る。
行くとこは、タータのとこ………では、勿論ない。
先程、提案しようとした事を実行しに行くのだ。
上手く、いくかは正直分かんない。でも………
「大丈夫……多分。タータもキサも、俺の事侍女にしか見えないって言ってたし……」
あとは、俺が我慢するだけだ!
ちょっと…いや、かなり不安だが…何せ、俺が実行しようとしてるのは……
「ははっ……信じらんね。思いついた最善策が、色仕掛けだもんな。しかも、自分でも分からんが妙に自信あんのが怖いわ」
不安なのは、失敗するのがではない。
男は、バルド以外ノーセンキューな俺が、情報聞き出すための色仕掛けと、迫る野郎の嫌悪に耐えられるかどうかの不安だ。
「まぁ……やるしかねぇ、か。タータの為だし…困ってる女の子は助けてこそ男だ!」
果たして、どこまでやれるか分からんが、やるだけやる!
あとは…………
「女装にしても、いまからする事にしても、バルドには絶対、内緒にしなきゃな」
うん……やっぱ、これに尽きる。
*
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*
*
進入禁止だと言われた区域。
とりあえず、辺りを伺うが、やはり見知った魔導の気配は感じられない。
「やっぱ、気のせいだったのかな……」
「何が?」
「わっ!?」
柱の陰に隠れつつ呟いた俺の背後から声がかかり、あまりの驚きに結構な声が出た。
ドキドキ脈打つ心臓に、胸を押さえて振り向くと、あのナンパ兵士が物凄く嬉しそうにニコニコ立っている。
「アーシャ、だったよな?気のせいって?」
「何でもない…です。あの、それより聞きたい事がありまして…お伺いしてもいいですか?」
努めて平静に誤魔化し、敢えてニッコリ笑いかけてやると、ナンパ兵士が目を瞠った後、面白いくらいにデレッとだらしなく笑み崩れた。
ヤバい……チョロい。
「いいよ。何でも聞いて」
「え、っと……少し前に、カーティス皇太子殿下がいらした事は知って?」
「あぁ、姫君の兄君様だな?帰国はなさったようだが?」
「帰国はホントになさったの、ですか?」
「そう聞いてるけどね」
どうやらこのナンパ兵士は、事情を知らない側に居る者らしい。
ハズレか……
まぁ、でもまだ分かんないし。
「さっき、この場所への立ち入りが禁止だって言ってたのは?」
「それは……う~ん、さすがに教えるのは…」
「え~……知りたいんだけど」
女の子じゃないけど、どういう風に言ってどうすれば可愛いく見えるかは分かる。
ちょっと上目に、小首を傾げて見せたら、ナンパ兵士がデレデレになった。
何か、やっててアレだが……男って悲しいな。
同じ男として、複雑になってたら、手首を掴まれ我に帰る。
「な?!ちょっと、何ッ……!」
「だってさ、分かるだろ?よく分からんが、この場所守れって言われてんだよ。何か、どっかの偉いさんがいるとかどうとか?入りたいんだろ?だったらさ…」
「ッッッ!!!!!!」
うわっ!マジで、きた!
コレは、アレか!?欲しいものがあれば、見返りをのやつか!?知ってはいたが、自分の身では知りたくない!
掴まれてるのはただの手首だが、そういう意味と分かれば、背中にゾゾッと悪寒が走る。
うぅっ…やっぱ無理ッ!気持ち悪い!!
「離し、て!離せってば!やだッ!!」
「お高くとまってんなよ。どうせ、偉いさんに普段から媚び売ってんだろ?」
「なっ!」
何つう言い草だ!今の俺は姫付きの侍女。ホントじゃないけど、役所はそれ。そういうお仕事のお姉さん馬鹿にするわけじゃないが、侍女を一緒にするな!役割が違うわッ!
マジ、ムカつく!
そのヘラヘラだらしない顔に拳をお見舞いしてやりたい!
眦キリキリ吊り上げる俺に頓着せず、ナンパ野郎が体を密着させてくる。
うげっ!キモい!!
無理っ!ホントに本気で気色悪い!
うわ~ん!止めときゃよかった!こんなに気持ち悪いと思わなかった!
「くっ!や、め…ってば!やだ!触るなッ!!」
「無理だって。女の力じゃ、男に勝てっこないだろ?」
「こ、の!下衆野郎!」
「口悪いなぁ~、でも、可愛い顔で罵られんの結構いいかも」
げっ!下衆な上に変態か?!
くそ!こいつ、ホントに振りほどけない。かなり力入れてるけど、伊達に城仕えの兵士じゃないって事か。
「でもホント可愛いよなぁ~…」
「やめッッ!!えっ?わッ!?」
「うおっ!?な、何ッ?!」
壁に押し付けられ、身動き取れなくされ、あわやピンチ!と、思ったら、突然の豪風に見舞われた。逆巻く物凄い風に目が開けられない。
城の建物内だ。こんな風は不自然。奇妙に過ぎる。
が、俺には不安はなかった。
これ、は…………
「くっそ、何だよ、この風は!?」
ナンパ野郎も目が開けられないらしく、同じく目を閉じた俺の耳にその焦りの声が届いた。
そろりと、その声がする方から離れた俺の体が、背後から抱き込まれた。
思わず暴れかけたが、感じた波動に抵抗を止める。促されるまま、抱き込まれた腕に誘導され、ややあって風が止み、俺は閉じていた目を開けた。
褐色の肌に、アッシュグレイの髪。紅茶のような綺麗な色の瞳は、今は呆れの色を湛えて……
魔導から受ける風の波動は以前受けたもの。だから、抵抗を止めた。
やっぱり、見間違えじゃなかった。
ゆっくりと、目の前の者を見据え、俺は口を開いた。
「アッディーン……」
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