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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章
3.急転直下!炎上する王室の真実と悲哀④
しおりを挟む慎重に、周りを警戒しながら歩み寄ったその扉は、エティが言うように真新しく、取っ手の見た目からもどうやら使われているようだ。
「開けるぞ?」
「……うん!」
ノブに手をやり、ゆっくり回す。鍵はかかっておらず、はたして扉の向こうは…………
「階段………」
だった。登りらしい、階段が上へと続いている。
暗いし、先が全然見えない。登ってみたいが……行き止まりとかだったら困る。何度も言うように、こんな逃げ場のないところで敵さんに遭遇ももっと困るし…
さて…どうしたもんか?
「登ってみよう…」
「エティ?」
「ここにずっといるわけにはいかないし。だったら、登ってみる。扉は真新しいんだ。多分……行き止まりなどではなかろう……」
ちょっと不安そうながらも決めたエティに、俺も腹をくくる。
エティが先に、俺が後ろを警戒しながら登り出す。
「何の為の地下だろうな?」
「分からんが……城に造られる地下の類だから、おそらく、戦時の逃げ道か、物資の搬入路ではなかろうか?」
「あぁ…なるほど。何だ、エティだって、何も知らないわけじゃねぇじゃん」
「……ヴィクターから聞いたんだ……」
う……墓穴掘った?
今、この皇子様に、ヴィクターの話題は禁句だ……
まぁ、出ちまったもんはしょうがない。もうこの際だから、話すか?
「ヴィクターが、今回こんな事したのは何でだろうな?」
「分からぬ…ヴィクターは、先だっての内乱が一時静まってから、僕の側近になったんだ」
「最初からエティの側近だったんじゃねぇの?」
「うん…どういう経緯かは、僕は知らないが…僕の前任の側近が失踪して、代わりに来たのがヴィクターだ」
「失踪って…………」
人ってそんな簡単にいなくなるもん?エティもなんか何でもないように言ってるけど……
「情勢穏やかなクレイドルでは考えられまい?サラタータでは、人が突如いなくなるなど珍しくもない。言ったであろう?弱き者は淘汰されると。サラタータでは、気を抜いた者が負けなのだ」
どんな理由があっても、油断した者負け。苦々しく言うエティに、俺は言葉が出ない。
何か……俺には仕方ないって諦めてるようにしか見えない。
エティは、自分も淘汰される者の一人だと言ってるようにしか………
「第一皇子とヴィクターは……」
「関係ない!!」
言いかけた俺の言葉を、エティが強く遮る。ギュッと握った拳が白くなるほど、力と憤りが込められている。
「ヴィクターは、僕のものだ!僕の側近だ!あんなやつとは一切関係ない!絶対に………」
更に拳が握られて……爆発しそうな感情を抑えている。
言い聞かせてるんだな…?自分に。
それにしても謎だ。
ヴィクターは何の為にこんな事を?第一皇子様との関係は?何がしたくて、何をする為に……考えれば考えるほど益々分からなくなる。
ただ………
…………………あの時…
あの部屋で。
薬で眠ったままのエティのブランケットを着せ直してやる時のヴィクターは……
「……ヤ!アヤ?!」
「え?あ、何?」
「大丈夫か?ほら、あれ!光が見える。どこかに出るようだ」
エティに呼ばれ、指差す方向に確かに光が見える。
マズいマズい…ぼけっとしてる場合じゃない。
階段を登りきり、少し開けた場所に立つ。扉ではなさそうだが、隙間から光が漏れてる。
「向こうは部屋かな?」
「どうだろう……開けるか?」
「ちょっと待て……いきなりはマズいから」
耳をそっと押し当てて聞いてみるが、何も聞こえない。
「多分…誰も居なさそう。開けるぞ?」
神妙に頷くエティに断り、俺はそっと壁を押す。壁がスライドするようにずれた。隠し扉だ。
隙間から伺うと、どうやら何処かの部屋だ。
「ここは………」
「エティ?」
同じく部屋の中を伺ったエティが呆然と呟いた。
「どこか分かるのか?」
「王の………父上の部屋だ」
呆然としたまま、制止する間もなく部屋へと出るエティ。
ちょっとは警戒しろって!慌てて俺も出た。とりあえず…敵さんは居ないようだ。
「エドゥアルト皇子殿下?」
「!!!」
不意に後ろからかかった声に、驚愕。
しまった!油断した!
慌てて振り返ると、そこには見知らぬ老人。白いひげに銀の刺繍が控えめに入った、白い一続きの服。
「クレヴァス?!クレヴァス神官長ではないか!何故、そなたがここにおる?!」
エティが驚きながらも駆け寄る。どうやら敵ではなさそうだけど……誰?
「エドゥアルト皇子殿下こそ、何故、王の私室に?どうなさったのです?何がありました?」
「話せば長くなる!それより、王の私室という事は、やはりここは城の…父上の部屋なのだな?」
「はい。国王陛下の私室に間違いございません」
「父上は……今、療養で保養地においでのはず。その父上の私室に、何故、そなたが?」
「おいでです」
「何?」
「国王陛下は、保養地にはおりません。こちらに……現在、この部屋にておいでです」
老人の言葉に、エティも…そして俺も再び驚愕に固まった…………。
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