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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章

2.誰が炎を消したのか?⑥

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「ん………ッ」

起きた瞬間、ツキンとした頭の痛みと、軽い吐き気に「あぁ、またか」と嘆息した。
薬による副作用。どうやら眠り薬のお世話になったらしい。
ゆっくりと、痛みが響かないよう体を起こす。
柔らかい敷き布に、同じく柔らかいブランケットのような物に包まれ寝かされていたらしい。
隣を見ると、同じくエティが眠らされている。

「エティ?エティ!?」

そうとう眠りが深いのか、ピクリともしない。
部屋を見渡してみるが見覚えもない。まったく知らない部屋。意識がない内にどうやら移動させられたらしい。
カチャリと音がし、ワゴンを押してヴィクターが入ってきた。

「ヴィクター!!これは何の真似だ?!なんでこんな事す……」
「気分はいかがです?おそらく、気持ちが悪いのでは?少し強めの物を使いましたので。ラクシ水をお持ちしたのでどうぞ?ハチミツを入れてあるので飲みやすいですし、口の中がさっぱり致します」

俺の問いには一切答えず、まるで何事もなかったかのような態度と口調。
どういう事だ?!何で、平然としてる?
カチャカチャとごく普通にラクシ水を給仕するヴィクター。

「ヴィクター……質問に答えろ。ここはどこだ?それから、これは一体何の真似だ!!」
「…………………」

無言。
この野郎!一切無視する気か?!
エティは皇子で、ヴィクターはその側近。それがこんな暴挙に出たんだ。それ相応の理由でも聞かなきゃ納得できない!

「ヴィクター!!」
「あぁ、うるさい!ギャンギャン、キャンキャンよく吠えますね?仮にも光なのですから、少しお淑やかになさってはいかがです?」

突如、背後から聞こえたその声に俺は固まった。
この、声……でも、まさか…ーーーーーー

ゆっくり振り返った俺の目に、白に近い金色の髪が映る。
何で……?どうして…この人がここに?

「第一皇子、クラヴィア様……」

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            *

ふんわり微笑むその姿は変わらず、だからこそ今の部屋の空気には異質に映る。

「何故……あなたがここに?」
「何故?何故とはおかしな事を仰いますね?私が命令したのです。だから、居ても不思議はないでしょう?」

さも当然、それが普通とばかりに答える第一皇子。

「命令したって…どうして?!俺とエティを攫ってあなたは何をしようっていうんだ?!」
「何をする?光の魔導殿は馬鹿ですか?そんな事言わずとも分かるでしょう?」

何なんだろう…目の前のこの人は、得体が知れない。今もずっと穏やかでふんわりとした笑みを浮かべたまま。

「目的を遂げるまで、大人しくなさって下さいね?あぁ、エドゥアルトは用が済めば要らないので処分しますが、光の魔導あなたは利用価値が沢山あります。エドゥアルトのようにはしないのでご安心を」
「ッッッ!!!」

あまりに衝撃的な言葉に、俺は戦慄すると同時に絶句する。
こいつ……正気じゃない!
要らないとか処分するとか、人をまるでゴミ扱いだ。

「さて…私はこれから行くところがある。二人をしっかり見張ってるんだよ?ヴィクトール」
「承知いたしました、第一皇子殿下」

瞳を伏目がちにしたまま礼をするヴィクターに、クラヴィアがにっこり微笑んだまま片手を振り上げ、バシンッという重く鈍い音を立て、ヴィクターの頬を張り飛ばす。
倒れかけ、ぐっと踏ん張るヴィクターに、クラヴィアは微笑んだまま穏やかに口を開いた。

「その呼び名は好かないと言ったはずだが?私の名はクラヴィアだ。殿などという名ではないよ?」
「……申し訳ありません。ご無礼、お許し下さいませ」
「いいよ。でも、もうで呼んではならないよ?分かってるね?」

ヴィクターの唇の端から、ツと血が流れ、クラヴィアがそれを指で拭い取りペロリと舐める。
あまりに異様、理解しがたい出来事続きに、俺は固まったまま動く事も、声を発する事もできない。
もう一度だけ笑んだ後、クラヴィアが部屋を出て行く。
何もなかったように、流れた血の後もそのままに、ヴィクターがラクシ水をカップに注ぎ、テーブルに並べる。

「ヴィクター……訳が、分からない。一体、何がどうなって…」
「クラヴィア様のご命令もそうですが、大人しくなさっていた方が、御身の安全の為かと」
「ヴィクター!答えになって……」
「逃げようなどと思われませんよう。無駄ですから。私は隣の部屋にいますので…失礼しました」

言うだけ言い、ヴィクターがエドゥアルトのブランケットを掛け直し、部屋を出て行く。

本気で訳が分からない。
ただ、分からないなりにも、何とか予想がついたのは、第一皇子とヴィクターに何らかの繋がりがあるという事。第一皇子は何かしようとしてる。それが何かは分からないけど、終わるまでは俺もエティも危害は加えられない。なら、それが何か分からなくとも、何とか逃げなければならないって事だ。エティは殺されてしまうからもちろん逃がさなきゃなんないし、俺は殺されずとも、あの薄気味悪い皇子の事だ。絶対、ろくな事にならない。だったら、二人して何としても逃げる!
逃げようとしても無駄?上等だ、こら!!
絶対、逃げてみせる。逃げなきゃならない。だって…

俺の脳裏には、一人の男の姿。
人知れず、苦笑いがこみ上げる。

やっぱ、お仕置き確定だよな?これ……

無事戻った時の事を考えると怖い。が、それを秤にかけても、やっぱり俺は………

「とりあえず、エティ起こさなきゃな……」

事実を知ったエティが受けるであろうショックを考えると心が痛むが……しようがない。
未だ眠る皇子を起こすべく、俺は重い体を起こし歩み寄っていった。





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