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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章

2.誰が炎を消したのか?④

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王妃宮がある城の本殿、側妃様の離宮、それとはかなり離れた宮に案内された。
第一皇子の宮にしては随分寂れた場所にあるな……
白い壁の宮は小綺麗で、派手派手しい側妃様のイメージは全く感じられない。

「第一皇子様、クレイドル皇太子殿下と光の魔導様をお連れ致しました」
「入って……」

部屋に入ると、天井から幾重にも張り巡らされたしゃの幕。ほの明るい部屋には、水を含んだ花のような香りが満ちていた。側妃様のような甘ったるく、胸焼けがするような香りではない。
侍女が幕を掻き分けてくれて進むと、広い空間に出る。
柔らかい敷き布に、大小の幾つものクッション。凭れかかるための布が巻かれた肘置きを兼ねたクッションに凭れ掛かり、第一皇子が出迎えてくれる。

「このような格好でご無礼を…クレイドル皇太子殿下。光の魔導様」
「お加減が悪いようですが?」
「えぇ……体があまり丈夫ではありません。無様を晒し、お恥ずかしい限りです」

困ったように微笑む第一皇子様は………
綺麗な人だった。見た目は、女性的な美しさだが、ちゃんと男性。側妃様と同じ色の髪を長く伸ばし、後ろでシンプルに一つに束ねている。

「クラヴィアと申します。ご足労頂き申し訳ありません、皇太子殿下」
「クレイドル皇太子、グレインバルドと申します。こちらは、女神の光の魔導。名前はアヤと」
「ありがとうございます。どうぞ、お寛ぎ下さいませ。悪いけど、茶菓を用意してくれ」
「かしこまりました、殿下」

傍の侍女にものを頼むのも柔らかい物腰。側妃様みたいに叱りつけたりしない。
う~ん………
ほんとにあの側妃様の子だろうか?

「侍従より聞きました。側妃……私の母がとんだご無礼を申したようで、大変、申し訳ありません。第一皇子などと言われていても、私は側妃の子。大国クレイドルの皇太子殿下が、わざわざお越しになってまで会わなければならないような者ではありません。母の無礼は、私がお詫び申し上げます。なにとぞ、ご容赦願います」

頭を下げる第一皇子。
なんて腰が低いんだ……やっぱり、あの側妃様の子とは到底思えない。

「いや、こちらこそ。申し訳ないが、サラタータへ来たのはほぼ私用です。にも関わらず、城に一室用意までしていただき申し訳ない。王室の方々への挨拶は当然かと」
「寛大なるお言葉ありがとうございます。そう言って頂けますと、こちらとしても、幾分か心が安らぎます」

ニコッと笑う第一皇子様。
やっぱ、綺麗な人。見た目だけの雰囲気なら、アレイスター様に似てるかな?

「先ほど私用でいらしたと仰いましたが、どのような?」
「大したことではありません。助力は、第二皇子様に頼みましたので」

え?
内容的には大したことだけど、第一皇子様には言わない?
バルドの返しにも、第一皇子はふんわり微笑むだけ。

「さようですか。もし、第二皇子殿下だけではことが足らぬとあればお申し出下さいませ。微力ながら、お手伝い致します」

何だろう。ほんとに出来た皇子様だな。エティは第一皇子は弱いって散々文句言ってたけど、こういう柔らかい物腰がそうだってなら、俺はいいんじゃないかと思うけど……

「ときに、皇子殿下」
「何でしょうか?」
「国王陛下にお会いしたいのだが、王妃様も側妃様も何も仰らなかったようだが?」

バルドの問いと同時に、お茶のカップを給仕していた侍女が突如、ガチャンという音を立てて取り落とす。
みるみる敷き布に広がるお茶のシミ。

「も、も、申し訳ありません!!ご無礼を!お許しくださいませ!!」
「ご無礼を致しました。皇太子殿下、お茶がかかったりなどしておりませぬか?」
「大丈夫です」
「早く片付けて。片付けたら、ここはいいから別の侍女に代わりなさい」
「第一皇子様!!」
「いいね?」

第一皇子の言葉に、侍女は目にいっぱいの涙を浮かべ、震える手でカップや溢れたお茶を片していく。片付け終わると、どこか憔悴したように侍従に連れられ出て行く。

「あの者は………?」
「粗相をすれば、侍女長から叱責されます。こればかりはいくら私が庇おうとも何ともできません…申し訳ありません、また恥ずかしいところをお見せしました」

サラタータは下の者に厳しいんだな。どんな叱責は知らないけど、あんなに怯えるくらいだから相当なんだろう。
クレイドルじゃ、あれぐらいで、あんな怯えるくらいの叱責はまずない。
新しく呼ばれた侍女がお茶を淹れてくれる。
カップを受け取り口をつけると、柔らかい茶葉の中に、甘い果物がほんのり隠れたようないい香りがした。
いい茶葉使ってる。さすが、一国の皇子殿下。

「国王陛下のお話でしたね?陛下はご高齢で、今は療養地へ遊山を兼ねて出掛けております。話は私から、療養地に向けて伝達を届けておきます」
「そうですか。では、そのように」

第一皇子とバルドもカップを取り、その後しばらくお茶を堪能した後、第一皇子に断り、俺はバルドと部屋を辞した。





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