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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章

1.血塗られた炎の王宮⑥

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しかし………
ちらっと横目に見ると、右側にはエドゥアルトとヴィクター。少し後ろにセレストとイアン。
俺とバルドが二人乗りした馬。それのみだ。

「護衛は?仮にも皇子様なら、護衛の二人三人くらいついてるものだろう?」
「黙って抜けたからな。そんなもの、ついてくるわけなかろう?」

またまたあんぐりだ。
この皇子……ほんとの本気で馬鹿なんだろうか?
サラタータが現状、どれほどの状態なのかは知らない。が、少なくとも、皇子が護衛をつけずにホイホイ歩けるような情勢でない事は確かだ。
供はヴィクターのみ。帯剣しているとはいえ、腕がどのほどかもしれないし、いざという時、多勢に無勢ではどうする事もできない。
ヴィクターがよっぽどの腕なのか、それともこの皇子があまりに馬鹿すぎて本気で誰も気に留めないのか、はたまた………

「バルド……これ、本気ガチかな?」
「現状では何とも…だな。だが、今言えるのは、サラタータの皇子は阿呆あほうだという事だ」

バルドの言いようは身も蓋もないが、まぁ、返す言葉なしってとこだな。
エドゥアルトの母親、サラタータの王妃は本気でエドゥアルトを王位につける気だろうか?いくら我が子可愛さと言っても、これはどうかと思う。

「そういえば、皇子様にはお兄さんがいるんだっけ?」
「側妃が生んだ子だ…十七歳だから、僕より四つ上。
一応、兄にはなるが。僕は認めてない!!」
「嫌いなのか?お兄さんが」
「嫌いだ!!あんな、弱い奴!!」
「弱い?」

ムスッとして吐き捨てるエドゥアルト。王権争いしてるんだから、仲がいいわけないとは思ったけど、エドゥアルトは嫌ってるようだ。

「先にも言っただろう?サラタータは弱い者は簡単に切り捨てられると。あんなんでよく今まで生き残れたと思えるくらい弱い!!」

えっ、と……弱いにも種類があると思うんだが、エドゥアルト皇子が言う弱いって、どの弱いなんだろ?
身体的?精神的?

「申し訳ありません。エドゥアルト様が仰るのは、第一皇子様の優しさの事です」
「優しい?優しいが弱いって事?」
「えぇ。サラタータでは、時には非情さが求められます。第一皇子様はその非情さが弱くて……エドゥアルト様はおそらくそれが………」
「ヴィクター!余計な事を言うでない!!」

エドゥアルトに叱責され、ヴィクターが苦笑して黙る。
なるほど……エドゥアルトからしたら、その優しさが見てて苛々すると。そういう事なのかな?
何だろうな…嫌いだと言いつつも、結局エドゥアルト自身、兄皇子のそんなところを気にかけてる。エドゥアルト自身、非情になりきれてないように思える。

「と、とにかく!僕はあいつが嫌いだ!嫌いだと言ったら嫌いだ!!分かったか!?」

言えば言うほど、口ほどには嫌ってないと聞こえるんだけどね……
思わずクスッと笑ってしまう。

「別にいいんじゃね?お兄ちゃん大好きでも。母親と臣下同士が争ってるからって、どうでも憎み合わなきゃいけない事はないだろ?それこそ、そんな面倒な事は任せて、皇子様は普通にお兄ちゃんと仲良くしたらいいじゃん」
「なッ!?そ、そなたは何を言って?!そ、んな事……」

ありゃ、かなり動揺してる?
う~ん、でもそりゃそうか。俺が言ってる事は、単純そうで、実はかなり難しい。
まず、当人たちが仲良くしたくても周りがそれを許さないし、当然邪魔をしてくる。こういうのは周りの協力が不可欠だから、サラタータの今の情勢では厳しいかもしれない。

「僕とあいつが仲良くなど……変な事を申すでない!」

エドゥアルトはプリプリ怒ってそっぽを向いてしまった。これ以上俺に話しかけられたくないと、俺たちより前へ馬を進め少し離れていってしまった。
あちゃ~…怒らせちゃった?

「お気になさいますな、アヤ様。エドゥアルト様は、幼少期より、兄皇子とは隔絶されてお育ちになったので、仲良くと言われてもやり方が分からぬのです。周りもそんな事を言う者は一人もおりませんでした。なので、そんな事を言うのはアヤ様が初めてで、戸惑っていらっしゃるのです」

俺たちの馬の横に同じく馬をつけたヴィクターが、困ったように笑う。
憎しみ合っていがみ合って?兄弟なのに?なんか、それって………

「アヤ。それ以上はよせ。他国には他国の事情、情勢がある。同じく他国の俺たちがどうこう口を挟めるものじゃねぇ」
「バルド……」

たしなめられ、渋々口を閉ざす。
確かに、よく事情を知りもせずあれこれ言い過ぎた。だけど、やっぱり兄弟で争い、時には殺しあうとか、俺には理解できない。
バルドとアレイスター様のように仲がいい兄弟を知ってるだけに、どうにもこうにも納得いかないんだよな。

「アヤ……目的を忘れるな?俺たちの目的は、あくまでも炎の魔導だ。他国のお家事情に首突っ込んでる場合じゃねぇ」
「分かってる…忘れてはないって」

ヒソっと耳打ちされ、我に返る。
そうだ。バルドの言葉通り、炎の魔導を早く探しだなきゃならない。
神の台座の停止・破壊が先決。闇の魔導側は、俺たちが台座の鍵を手に入れた事を知っている。当然、鍵を奪う為、妨害をしてくるはず。
悠長にしてる場合じゃない。
しっかりしろ!俺!
意識を戻しかけ、ふと、あの思念体での邂逅を思い出した。
紅い、ルビーの瞳……力強くて、でも、その奥には言い知れない深い闇と悲哀を秘めた……

「ギル…………」
「アヤ?何か言ったか?」

小さく呼んだ声は、バルドには聞き取れなかったらしく、聞き返されて再びハッとなる。

「何でもない!何でもないよ……」
「?まぁ、いい。疲れたんなら言えよ?」
「うん…大丈夫。大丈夫……だよ」

気遣ってくれるバルドに、俺は馬に乗ってる態勢を整えるふりでそっとしがみつき、その体に自分の顔を寄せて伏せていった。
小さく、聞き取れないくらいの声音で、大丈夫と繰り返す言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようだと感じながら……………………………………………







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