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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章
1.血塗られた炎の王宮④
しおりを挟む所用で出ていたセレストとイアンも戻り、部屋の中。
「セレスト、目、赤いけど……?」
「気のせいだ」
「いや、でも……」
「気のせいだ!」
はい……触れるなってことね。
ひとまず触れんでおこう。やだな……機嫌悪い。
不機嫌なセレストを横目に、視線を元に戻す。宿の上部屋とはいえ、それでも普段座ってる物より格段に質が落ちるソファに座り、俺とバルドは、サラタータの皇子一行と顔を付き合わせている。
「まず、サラタータの皇子が何故こんな宿にいる?一応、サラタータ寄りとはいえ、ここはまだクレイドル領のはずだが?」
「それは………」
「僕が市民の泊まる安宿に泊まってみたいと言ったからだ!興味があった!城は退屈だ!皆、王権争いに必死になってる。権力を使えば簡単に手に入るだろ?相手は父上の妃とはいえ、側妃だぞ?僕は王妃の子だ!先に生まれたのが側妃の子だろうと、僕の方が身分は高い。争いなんか臣下に任せ、僕は楽しいことややりたいことをしようと思ってな」
口が思わずあんぐりだ。
それがどうした?と言わんばかりな、皇子様の言いように、開いた口が塞がらない。
横でさすがにバルドも絶句し言葉を失っている。
側近のヴィクトール、ヴィクターは頭が痛いと言いたげに、こめかみを押さえて首を振っている。
「王妃様の子が皇子様なんだ?王妃様はこの事を?」
「ご存知ないでしょう……お恥ずかしい話ですが、エドゥアルト様の言いようはともかく、言っている国の内情に間違いはないので……王妃様も、その………」
あぁ……何となく分かった。皆、足の引っ張り合いで忙しくて、皇子様にかまってる暇はないと?おそらくそれは王妃様然り……
だからって……こんな馬鹿……じゃなくて、ちょっとアレな皇子を野放しにするなんて。
「サラタータ国領の宿をと言ったのですが、近場にするとすぐに見つかり連れ戻されるから嫌だとごねられまして………」
心底疲れたとばかりに、ヴィクターが思い切り嘆息する。
そりゃそうか。国の内情が内情なだけに、何があるか分からないんだ。何があってもおかしくない。なのに当の皇子がこれでは……
「よく抜け出せたな。いくら気を払われないって言ったって、警備が手薄なわけじゃないだろ?」
「そんなもの慣れてる!城抜けなんか簡単だ!」
「勝手なことをなさると、こちらが困ると何度も申しているのですが、聞いていただけないのです」
「…………………」
セレストの無言の視線を受け、俺とバルドは目を逸らす。
う~…ん、耳に痛い。
「時に、まだこちらの方の事をお伺いしておりません。クレイドル皇太子といらっしゃるところを見ると……こちらはもしや?」
あ…俺、まだ名乗ってもない。
「えっ、と……アヤです。アヤ=アルシディアといいます」
「アルシディア……では、やはりあなたが、女神の光ですか?」
「そうだ。クレイドル皇太子であるこの俺の伴侶でもある」
「女神の光……クレイドル皇太子が選ぶんだ。どんな美男美女かと思ったが……普通だ。可愛くない…わけではないが、普通だ。光の初代は物凄い美人だったと聞いたが、普通だ。クレイドル皇太子はこんなふつ……」
「エドゥアルト様、そろそろ口をお閉じ下さいませ」
さすがに普通普通を連呼され、俺が目を丸くしてると、マズいと勘違いしたヴィクターが止めに入る。
「これの魅力は俺だけが知っていればいい。子供のそなたにはこれの魅力は分からんだろうがな」
小馬鹿にしたように嘲笑するバルドに、エドゥアルトがムッと顔をしかめる。
「僕は子供じゃない!確かに冠の儀はまだだが、子供なんて言われる歳ではないぞ!クレイドルの皇太子といえど、一国の皇子である僕を馬鹿にするでない!」
「ほう…では、皇子殿下は幾つであらせられる?」
「十三だ!!」
十三?!十三って、俺のいた世界じゃ中学生だ!
こちらの世界でも、冠の儀(成人)が十五からだから、勿論、まだ子供と言われても仕方ない。
「十分、子供だな。話にならん」
「何だと!!クレイドル皇太子、そなただとて、僕とそう歳も変わらないような者を伴侶などと、いい大人が恥ずかしくはないのか!?」
え?え?ええぇぇぇーーーーーーーーーーーッッ!!
ちょ、ちょっと、待って!!
「僕とそう歳も」って、もしかしなくても俺の事?!
いくら何でもそれは………
「待て!待て待て待て待て!!誤解だし!間違ってるし!俺が子供とか酷くない?言っとくけど俺、十七!一応、こっちじゃせ……大人だから!」
「は?十七?!嘘だ!!僕より、四つも上?!そんな馬鹿な!!」
「おそれながら……失礼とは存じますが、私もそんな歳とは思いませんでした………」
主従そろって失礼極まりない!!
「アヤが言っている事は本当だ。だから、俺もこれも恥ずかしい事をしてるとは思わんな」
「いいや!してるだろ?!違う恥ずかしい……」
「エドゥアルト様ッ!!それは駄目です!と申しますか、論点がズレます!」
慌ててヴィクターが止めに入ったが、この馬鹿皇子、今、ナニ言おうとした?
やっぱり、馬鹿だ!
とんでもない馬鹿皇子だ。
「とにかく!話を元に……と、言いますか。皇太子殿下方の方こそ、このような場所で何をなさっておいでです?エドゥアルト様のような、馬鹿な真似……奇行をなさってるわけではございますまい?」
いや、ヴィクター。馬鹿な真似って、思いっきり言っちゃってるから。
う~…ん…どう答えたものか?話がこちらの話になったが、さすがに相手はサラタータ側の人間。どう転ぶかも分からない今の状況では、目的を話す事もできない。
俺じゃ上手く答えられないし、躱せない。
困ってバルドに視線を向けると、一瞬だが眉根を寄せてから、小さく溜息をつき、バルドが口を開いた。
「俺たちは、サラタータに向かってる。理由は、女神の炎の魔導に用があり、探す為だ」
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