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第二部1章 黒き鎖の呪痕 奪われつつある光の章

1.小さな波紋 できる・できないはデリケートな問題です!!②

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アレイスター様の指し示した場所には……

「バルド………」

漆黒と紫をあしらった礼装のバルド。静かな表情ながら、体から発せられるのは凍りつきそうな怒りを湛えた凍気。
ゆっくりと歩いてくる。今まで感じた事のない、刺すような波動に体が微かに震えてくる。

「バルド…あの……ッッ!」

パンッと、乾いた音がした後、頬がジンと痺れピリピリとした痛み。
叩かれたのだと理解し、呆然となる。叩かれた頬を手で押さえたままの俺に構う事なく、バルドがアレイスター様に礼をとる。

「御前にて、失礼いたしました。陛下」
「いや、構わないよ。とにかく、話をしなさい。それと……アヤがこのような行動に出たのは、おそらく、私にも原因がある。あまり叱らないであげなさい」
「………かしこまりました」
「話が終わったら、二人で私の部屋へおいで。、ね?」
「……御前、これにて失礼いたします。兄上」
「あっ……」

アレイスター様の言葉には敢えて答えず、バルドが俺の片腕を乱暴に取り、ほぼ引き立てる形で連れて行かれる。

            *
            *

バルドの私室。部屋に入るなり、乱暴に突き飛ばされ、ソファに倒れこむ。
今まで受けた事のない扱いに、だが、バルドの怒りの大きさを感じて文句一つ言えない。
そっと伺い、ギクリとなった。
感情の知れない無表情に、いつか見た、黒い暗い影を潜めた瞳。

感じたのは本能的な恐怖。

無意識に逃がした体を、バルドが静かに見つめた後、薄っすら酷薄に笑う。

「一人でどうするつもりだった?」
「えっ……?」
「俺から離れ、一人でどこに行く気だった?」
「バル……ひっ!!」

バンっとソファの背に乱暴に両手をつき、俺を囲い込むように、バルドが見下ろしてくる。

「逃げるつもりだったか?」
「違っ……「違わねぇだろ?事実、お前は俺に何も言わずに、俺の前からいなくなるつもりだった」
「バル、ド………」
「怖いか?」
「えっ…?」
「俺も怖い…俺自身がな。怒りが抑えきれんぐらい溢れ出てくる。お前を傷つけ、滅茶苦茶に壊したい。そうすれば、お前の心は俺から離れる…だけど、少なくとも体は動けない。どこにも行けない。俺から離れて行かない。傷つけたいのに傷つけたくない……感情で、体が二つに引き裂かれそうだ!!」

叫ぶかのような怒りの声に、体が竦む。バルドに対して本気で恐怖を感じるのは初めてかもしれない。

「……いっそ、縛り付けるか?この部屋に閉じ込めて、俺以外誰にも会わせず………」
「バルド……や、だ」

ソファの上を後退る俺を、バルドが手首を掴んで引き寄せる。
いやだ!怖い!
バルドの事は好きだ。でも、今はいやだ!今のバルドは怖くてたまらない!

「い、や…いやっ!!バルド、やだッ!離せ!離して!!」
「アヤッッ!!」
「やだぁーー!やだやだ、やめて!だれ…か……セレスト…セレストーーーー!助けて!頼むから、来てーーーーーー!!!」

力の限り叫ぶ。バルドの顔が苦しそうに歪む。そんな顔させたくない。でも、俺だって苦しい。
引き寄せられるままに、抱き竦められる。
本能はこの腕を求めてる。でも…感情が、理性が拒絶する。
思い出したくないのに。この腕に抱かれれば、言われた言葉を……知らされたを嫌でも思い出す。
顎に手がかけられ上向かされた。
涙が……止まらない。

「やめ、て……ぉ、願……バル、、」
「アヤ……」

辛そうに切なそうに呼ぶバルドの声を遮るように、部屋の扉がバンっと乱暴に開いた。

「グレイッッ!?入るぞッ!」
「セ、レスト…セレスト!」

部屋に飛び込んできたセレストの姿を確認し、俺の涙腺はいよいよ崩壊した。
なりふり構わず、セレストに向かって手を伸ばす。俺の手首を掴んでいたバルドの手が離れた。自由になり、よろめきながらセレストに駆け寄る。体に力が入らない。ふらつく俺を抱きとめ、セレストが眉をひそめた。
何か言いかけ、小さく首を振り、セレストが溜息をついてから扉の方に向けて声を張る。

「イアン!アヤを連れてけ!丁重に扱えよ」
「あ、あぁ、分かった」
「部屋から離れてろ……」

足に力の入らない俺を、イアンが横抱きに抱き上げた。
ソファの上、こちらに背を向けたままのバルド。眦をキリキリ吊り上げ、あきらかに怒るセレスト。二人のそんな姿を尻目に、俺はイアンに抱き上げられたまま部屋を後にした。






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