上 下
182 / 465
第二部1章 黒き鎖の呪痕 奪われつつある光の章

1.小さな波紋 できる・できないはデリケートな問題です!!①

しおりを挟む



モノリスから戻り、二日。
あれからすぐに、アレイスター様に頼みごとをするべく、俺は動いた。
すなわち………

「アヤ。クレイドルを離れるの?」
「うん。ちょっとね………」

マダムの店。
ファランやラーシャ、店の人たちに報告に来ている。
しばらく、帝都を離れる事を伝える為に。

「何で?理由は?何かあるの?」
「ファラン……」

泣きそうなファランに、俺は気持ちがぎゅっとなる。勿論、理由が話せるわけもなく……

「ファラン。矢継ぎ早にあれこれ聞くもんじゃないわ。アヤにはアヤの事情があるの。第一、聞いてどうするの?」

俺が困ってるのを見かねたのか、特に何を聞くでもなく、ラーシャがファランを諌めてくれた。

「だって!ラーシャ、アヤがどっか行っちゃう!だから……」
「だから、止めるの?それが、アヤにとって大事な事でも?」
「そ、れは………でも…」

あぁあ、ファラン泣いちゃう(汗)
とうとう、泣き始めてしまったファランを、ラーシャがそっと抱きしめる。ラーシャに縋り付き泣きじゃくるファランに、悪い事してるわけじゃないけど、申し訳なさでいっぱいだ。

「帰ってくるんでしょ?」

それは……そのつもりだが。確証はない。応えあぐねていると、

「帰ってきなさい!絶対!じゃなきゃ、あんたのせいで、ファランの涙は一生止まんなくなるわよ?」

それは、困る。そんな事になったら、自分が一生許せなくなりそうだ。

「分かった。戻る…必ず」
「それでいい。待ってる者がいる、あんたが居なくなれば泣く者がいる事を覚えときなさい」

            *
            *

泣く者がいる……か。

「アヤ…」

マダムの店からの帰り、後ろから呼び止める声に振り返る。

「キサ」
「離れるのか?ここを」

キサとはモノリスで一緒だったから、事情は知ってる。

「うん……このままじゃいられないし」
「神の台座だったな。だが、何もお前一人が背負わなくても……」
「そうも言ってらんない…女神戦争の例がある。俺が引き金になれば、また悲劇は二の舞だ。だから、行くよ」
「………………」
「大丈夫だって!逃げないから。俺は逃げない。ただ、運命から逃げたって何も解決しない。だから、見つけて壊すよ、神の台座」
「……そうか。あいつも…皇太子も一緒なら、大丈夫だろうな」
「…………うん。そう、だな」
「アヤ?」

歯切れ悪く返した俺に、キサが怪訝そうにするが、俺はやんわり笑い、何か言いたそうなキサを残しその場を去った。

            *
            *

帰城し、アリッサとローレンに頼み、謁見にふさわしい礼装を用意してもらう。
湯は使い、体はすでに清めてある。支度は自分でした。二人の有能な侍女が用意したのは、白い礼装。白い刺繍と、金があしらわれたそれは目にも眩しい。
鏡を確認し、ふと煌めく紫の光に一瞬だけ微笑み、意を決し、両耳から外す。今まで感じていた微かな重みがなくなり、一度目を閉じ、ゆっくり開くと同時に鏡の前にを置く。チリッと小さな音を立てるのを聞かないよう顔を背け、俺は静かに部屋を出た。

            *
            *

回廊は静かだった。
不思議と誰もおらず、衛兵一人にさえ会わず謁見の間の扉前に辿り着く。
扉を開ける兵はいない。人払いを頼んだのは俺だ。
ゆっくり扉を開け中へ入ると、玉座に鎮座するのは只一人。

「お目通り、感謝致します。クレイドル国王、アレイスター陛下」

玉座下の階段まで歩み寄り、俺は跪き、ゆっくりと頭を垂れる。
臣下の礼と口上。もう、慣れたな。

「其方からの願いを受けてから待ったが、気持ちは変わらないか?」
「はい……」
「さようか。では、へはどうした?すでに?」
「いえ……言えておりません。言わぬまま、行こうかと思っております」
「言わぬ、と?」
「御意に……」
「互いに苦しむだけだと思うがね?ちゃんと、話をしなさい。アヤ」
「陛下?ア、レイスター様…?」

ニコと、が、少し呆れたように微笑み、背後を指し示すアレイスター様の動きに、俺はゆっくり振り返る。
そこには……………ーーーーーーーーーーーー






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...