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終章 終わりの始まり
8.終わりは次の始まりへ………②
しおりを挟む箱の中身は……
「宝石?」
の原石かな?紫に青のグラデの拳大の石が入ってる。
「スターアメジスト……また、えらくとんでもない希少石を」
「そ、なの?」
珍しく感嘆するバルドに、俺の方が焦る。皇太子であるバルドから言わせると、この大きさで国庫約一年分くらいの予算になる。
一国の国庫が平均どれくらいかはよく知らないが、とんでもない金額なのは分かる為、俺はギョッとなり、小箱をディオンの方に押し返す。
「いい!いらない!ってか貰えない!」
「お気に召しませんか?では、もっと希少な……」
「違うって!俺なんかに渡さず、モノリス復興に役立てろよ!なに、ホイホイ資産を人に明け渡してんだよ?!馬鹿か?!あんたは!」
怒って言い放つ俺に、ディオンは唖然。侍従は蒼白。バルドは思わず堪え切れないとばかりに吹き出し、そっぽ向いて肩震わせて笑ってる。
「馬鹿……え~っ、と、初めて言われました」
「あ、そ!ともかく、無駄遣いすんな!」
「無駄遣い………」
呆然と、俺の言葉をただただ復唱するディオン。
「いつまで何、笑ってんだよ!?バルドも何か言ってやれよ!」
「くっ、っあ~…、悪い。笑ったわ。ディオン皇子、悪いがウチの姫君は無欲でな。俺たちが今まで相手してきた人間には当てはまらん。こういう下世話な話とは無縁の人間だ。これへの陳謝については、俺の方から改めて要求するとしよう」
「ふふ……えぇ、どうやらその方がよろしいかと。気を利かせたつもりが、裏目に出てしまい、却ってお手を煩わせる事に。申し訳ありません、グレインバルド殿下」
「構わん。俺でさえ、ままならんのだ。そっちにとれば余計だろう」
何か二人だけで話進んでるけど、どうやらこの宝石は受け取らなくていいようでホッとする。
ゴメンなさいのお詫びが、国家予算相当の宝石って、王族様の金銭感覚の違いに目眩するわ!
「外交に関しては復交という事でよろしいか?」
「願ったりです。モノリスは閉鎖的年月が高い。発展の為にも、こちらから願いたいくらいです。外交にあたっての通貨………」
それから云々かんぬん話が進み、クレイドルとしての外交が終了する。
「ときに、姫。本日はいつにもまして美しいですね」
「へ?」
うつくしい?何が?
言われて自分を見下ろす。
今日の装いは、アリッサとローレンが用意してくれた。上から一繋ぎのふくらはぎくらいまでの長さで裾と袖が広がったワンピースみたいな白い服に、同色の細身のタイトなパンツ。控えめに淡い紫と青白の糸で刺繍が施されてる。毎回、言うが、俺の趣味ではない。
アリッサとローレンがキラキラさせた目で見てくるから……
それから、髪は綺麗に撫でつけられ、露わになった額に軽く何束か髪がパラついている。耳には、バルドから貰ったアメジストが相変わらず煌めいてるだけだ。
「例えるならそう、霧と朝露に煌めく汚れなき白薔薇!あぁ、黒曜石とアメジストに抱かれし白真珠のせんも捨て難い!どちらにしても、あなたの美しさは罪つくりだ!」
いや………
お前の頭ン中が、すでに罪つくりだよ!!
「バルド…これ、ガチか?」
「多分な」
相変わらず頭湧いてる発言のディオンをガン無視し、俺とバルドは御付きの侍従に挨拶し部屋を辞す。
ディオンは変わらず自分の発言に酔っており、明後日の方向に向かって花を飛ばしている。とりあえず、害にはなりそうにないのでそのまま放っておこう。
外交も終わり、正式な書類に印とサインしたら、モノリスには用はなくなる。
「クレイドルにはいつ?」
「明日か明後日には帰還しようかと思うが、早ければ早いほどいいだろうな」
部屋へと戻り、ソファに座ったバルドが指でちょいちょいと呼ぶが敢えて無視。
それに怒るでもなく、不敵に且つ楽しそうに笑うバルドに、俺はちょっとムッとなる。
言っとくけど、俺、まだ怒ってるからな!?
実を言うと体はかなり辛い。一日半も翻弄されたんだ。そうそう回復するべくもなく、まだ、体のあちこちがギシギシ悲鳴をあげる。
じゃあ、何で外交に携わったか?
理由は簡単。クレイドルの為であり、調子に乗るから本人には言わないが、バルドの為だ。
女神の光の魔導は、クレイドルのモノで、クレイドル皇太子グレインバルドのモノとして知らしめる為に、痛む体にムチ打って従った。
クレイドルの威光を示す為。ひいては………
チラリと横目に見ると、バルドが楽しそうに、そして、まるで視線で口説くかのように柔らかく優しく、そして、ちょっと強引に見つめてくる。
恥ずかしい奴………
軽く睨むが全然堪えないし……
溜め息を一つつき、俺は仕方なしとソファに座るバルドに歩み寄る。満足そうに笑い、座ったまま俺の腰を抱き寄せる、当然とばかりの態度。鼻に付く態度の筈なのに、そう感じさせないのは、生まれながらの王族が持つ特権的空気ってやつなのか……
膝に横向きで座らされる。抵抗らしい抵抗もしない俺も、大概この待遇や立場、この世界の常識に毒されてる。
「帰ったら、アレイスター様に報告がある。あと、お願いと……やる事、やらなきゃならない事、いっぱいだ」
「神の台座に関係することか?」
「うん……バルドにも、話さなきゃならない事あるしな」
「分かった……帰ったら、聞こうか。だが、今は…」
頬に手を当てられ、軽く上向かされた。
至近距離で瞳と瞳が交わされる。
「お前と…恋人としての時間を優先したい……」
「……馬鹿。ホント、恥ずかしいやつ」
「恋人の前では、俺もただの男だからな」
「もう黙れよ…」
これ以上は聴いてるほうが恥ずかしい。
やる事は山積みだ。考えなきゃならない事も。でも、バルドが言うように、俺も今はちょっぴりこの空気に浸っていたい。
光が差し込む部屋に、重なる二つの影が伸びていた。
*一部、完ですm(_ _)m
番外編、何個か挟んだら二部へと移ります。
ひとまず、ここまで読んで下さりありがとうございました。
おそらく、まだまだ長くなるかと思いますが、お付き合いいただければ嬉しく思います。
この先も「読んでやろうじゃないの」という方、いらっしゃればどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
白黒ニャンコ
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