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終章 終わりの始まり
2.誤ちを繰り返さないために②
しおりを挟む初代の口から出た名は、俺に驚愕をもたらした。
ーーーギルゼルト。
思念体で会った男の名。
頭が混乱する。初代の話が真実なら、あの男は………
『ちょっと待って…だって、そうならあの男は……』
女神戦争って、確か数千年近く前の話で。それを考えたら、あの男一体歳幾つだよ?!
『おそらく、ラゼルが関わってる。ギルは女神の闇…だが、闇が悪とは限らない。だけど、ギルは闇堕ちした……全ては俺の罪だ』
『あなたが犯した罪って何だよ……』
『逃げたんだ……』
『え?』
初代が、沈痛な面持ちで口を開いた。
『俺は…エルとギル、二人とも愛していた。どちらかなんて選べない。苦しかった……エルは理解してくれた。でも、ギルは…日に日に重苦しく執拗になるギルの執着に怖くなって……女神戦争も勿論阻止する為も本当で……いや…言い訳だな。逃げる口実にした。結果、ギルは俺への渇望と執着、憎悪で怒りと絶望から闇へと堕ちた。俺をこの世界に引き戻す。この世界と俺を壊す…ギルの目的はそれだけ。だから、ラゼルと手を組み、自身の時を止めた。すべては、俺への復讐……』
可愛さ余って何とやらってやつか。
『いつ願いが叶うともしれないのに……』
『いつまでかかっても良かったんだろうな。女神も封印を幾重にもかけたが、永久に続く訳がない。いつかは、どこかで綻びが生じる。そこを突かれた結果が…』
『今生の光だったわけか……』
『すまない……すべては俺の誤ちから、お前に苦労をかけることに』
怒るに怒れない。かつて、自分だった者からの謝罪。個は違っても、元々、自分が犯した罪。
なんだかなぁ~………蓋を開けてみれば、中身がショボかったプレゼントボックスみたいだ。
『俺って…あんたらの痴話喧嘩に巻き込まれた感じ?』
『喧嘩なの、かな?』
『喧嘩だろう?ほんと、何やってるかな…過去の俺』
『すまない……』
しょんぼり項垂れる初代に、俺は最早ため息しか出ない。
お互い好きなのにやり切れず、勝手に離れて気持ちがすれ違い、一方は後悔、一方は盛大にヘソ曲げてって…喧嘩以外の何だっつうんだよ?
『止めるよ……』
『え?』
『ギルゼルトを止める。この世界を終わらせたりしない。神の台座をぶっ壊して、ギルは俺がブン殴ってでも止める』
俺が苦笑しながら言ってやると、初代が泣きそうに顔を歪める。
俺って…過去も現在も、誰かしらかに甘やかされてるなぁ~………
『神の台座の止め方は、知ってるのか?』
『あぁ…枷として、俺の中に記憶として』
『なら、いいや。とりあえずさ、今はモノリスの崩壊止めなきゃだし。俺の……女神の光の枷として、戻ってもらっていいか?』
『あぁ……やっとだな。やっと、在るべき場所に戻れる』
両手の平を合わせ額をくっ付けると、初代がキラキラと金色の粒子を振りまきながら俺の中に徐々に吸い込まれていく。
『ごめん。名前、もう一度教えて貰えるか?』
『…ついでだから、名前を貰ってくれないか?』
『名前を?』
『あぁ…俺の名は、アルシディア。シディは、クレイドル古語で”光”を意味する。この名を貰って欲しい』
『…分かった。名前、使わせて貰う』
『……ありがとう』
最後に溶けるように、一瞬唇が合わさりアルシディアは、俺の中に消えた。
『おかえり………』
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