110 / 465
第4章 忍びよる闇の策略と失われし久遠の刻編
6.神の眷族④
しおりを挟む静寂が戻り、俺は閉じていた瞼を開けた。
白い空間が広がっている。
『ここは…?』
『アストラル。神の空間ぞ』
『レーテ!?』
懐かしい声に俺が声の方を向くと、そこには空に留まるリラ。
『全く、其方等人間はやり方が乱暴なるぞ。我は眠りについておったに、無理矢理、魔導の本流を流し込み
叩き起こすとは……』
『レーテ、すまない。事情があって、やむなくこんな形をとった』
『事情については分かっておる。この、陰と陽の気を持つものが教えてくれたでな。手は貸してやりたい。じゃが、おいそれとも貸せぬでな』
『どういう事だ?』
リラの体を借りたレーテが、俺の目の前に来て浮かび上がるように羽を動かす。
『我は其方の愛し子の封印ではあったが、すでに体を離れたでな。愛し子との理は切れておる。故に、我の意思のみで愛し子に干渉するは不可ぞ』
『手はないという事か?』
『否である』
『……………?』
分からねぇ…レーテは何が言いたい?
訝しむ俺に、レーテは俺の指先にとまった。
『一つだけ……じゃが、これはいわゆる外法とか邪法とも言える方法。神に与えられし特権とも言えるが、我は好かぬ。人の理を弄ぶやり方に等しいでな』
『方法があるなら教えてほしい。アヤを取り戻したい』
『……神化ぞ』
『神化?』
『其方の中に我を取り込み、神格となるのだ。簡単に言うと、人でありながら神の身になる』
何だそれは!
あまりに大仰な話に言葉を失う。
『我の場合は眷族。故に、我を取り込んでも人の世から離れなければならないなどという制約はつかぬ。だが、一度神格となれば、まず寿命が延びる。肉体の衰えも極端に遅うなる』
『それは………』
『惑うのも無理はない。じゃが、其方にとって幸いは、愛し子もすでに神化しておるという事か』
『は?!』
『言うたであろう?何やらしがらみや厄介ごとを抱えた者であると。…さて、如何する?我を取り込み神化すれば、同じ神化の愛し子を探し出し連れ戻すは容易ぞ?ただし、人の理には戻れぬ。老いさらばえていく、大切な者達を何回、何千何万回と看取らねばならぬ。耐えられるか?』
誰も彼も自分より早く逝く。だが………
『アヤが残るか…確かに、自分を置いて皆逝くだろう。だが、アヤは残る。アヤだけは残る。十分だ。俺はあいつを置いて逝くつもりは更々ねぇし、置いてかれるつもりも全くねぇ!レーテ、俺の力になってくれるか?俺は、どんな手を使ってもあいつを…アヤを取り戻す!』
『こうと決めれば迷いなしか……まったく、其方等は個は違うても、魂は瓜二つよ。良いよ!我の全てを其方に渡そう。これより、探知と融合の方陣を同時に発動する。探知完了と共に融合したら、間髪入れず、愛し子を引き寄せよ!一度きりじゃ、ぬかるでないぞ?』
『あぁ!分かっている!』
『全地全能神、水の女神アウフィリアが眷族、地水神フェルラレーテの名に於いて開放せよ。
追うは光。張り巡らせし水の糸を依り、其の者を我の前に指し示せし』
真名を混ぜての補正魔導を唱え、レーテが入ったリラの翼がゆっくりと空に銀色の方陣を描いていく。
細かい方陣だ。魔導師が使うものとは明らか隔絶している。織り込まれた魔導文字は読めないが、一つ一つが物凄い力を帯びている。
円方陣が完成すると、レーテが固定させた。
『探知の方陣は完成ぞ。次は融合方陣じゃ。完成と同時に探知が始まる。見つかった時点で、方陣を合わせる。合わさったら、我は其方の中に入り込む。我の意思が保つはおそらく数分か…意思のある間に、愛し子をこちらへ引き摺り出せ!意思が消えれば、それ以上の助勢は不可ぞ。よいか?』
俺が頷くと同時、レーテの魔導が一気に膨れ上がった。圧が凄い。さすがは神といったところか。
『構えよ!!』
一瞬だ。融合方陣は一瞬で現れた。金色の粒子が取り巻く方陣は、あまりに美しく力は強大。
リラの翼に操られた二つの方陣がゆっくりジリジリ合わさっていく。
『捉えた!グレインバルド、よいか!?』
『ああ!大丈夫だ!』
方陣が合わさると同時に、まるで灼熱と極寒、正反対な本流が俺の中に流れ込む。
ーー愛し子の気配を感じるか?ーー
『感じるが…弱い。姿が見えん』
ーーもう少し、意識を張り巡らせよーー
気配を探る。弱い。今にも消えそうだ。
アヤ!どこだ!?
ギュッと握りしめた手のひらに、不意に固い感触。そっと開くと、紫色の煌き。
ハッと顔を上げた俺の目に、真っ白な空間に微かに光る小さな紫の光。
『あれだ!!』
俺は必死に手を伸ばす。
はたして、手に触れた温かいそれを俺は引き寄せた。
スルリと、どこかに入っていたものが抜けるように、力なく意識のないアヤの体が俺の腕に収まった。
2
お気に入りに追加
2,222
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる