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第4章 忍びよる闇の策略と失われし久遠の刻編

6.神の眷族④

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静寂が戻り、俺は閉じていた瞼を開けた。
白い空間が広がっている。

『ここは…?』
『アストラル。神の空間ぞ』
『レーテ!?』

懐かしい声に俺が声の方を向くと、そこには空に留まるリラ。

『全く、其方等人間はやり方が乱暴なるぞ。我は眠りについておったに、無理矢理、魔導の本流を流し込み
叩き起こすとは……』
『レーテ、すまない。事情があって、やむなくこんな形をとった』
『事情については分かっておる。この、陰と陽の気を持つものが教えてくれたでな。手は貸してやりたい。じゃが、おいそれとも貸せぬでな』
『どういう事だ?』

リラの体を借りたレーテが、俺の目の前に来て浮かび上がるように羽を動かす。

『我は其方の愛し子の封印ではあったが、すでに体を離れたでな。愛し子との理は切れておる。故に、我の意思のみで愛し子に干渉するは不可ぞ』
『手はないという事か?』
『否である』
『……………?』

分からねぇ…レーテは何が言いたい?
訝しむ俺に、レーテは俺の指先にとまった。

『一つだけ……じゃが、これはいわゆる外法とか邪法とも言える方法。神に与えられし特権とも言えるが、我は好かぬ。人の理を弄ぶやり方に等しいでな』
『方法があるなら教えてほしい。アヤを取り戻したい』
『……神化ぞ』
『神化?』
『其方の中に我を取り込み、神格となるのだ。簡単に言うと、人でありながら神の身になる』

何だそれは!
あまりに大仰な話に言葉を失う。

『我の場合は眷族。故に、我を取り込んでも人の世から離れなければならないなどという制約はつかぬ。だが、一度神格となれば、まず寿命が延びる。肉体の衰えも極端に遅うなる』
『それは………』
『惑うのも無理はない。じゃが、其方にとって幸いは、愛し子もすでに神化しておるという事か』
『は?!』
『言うたであろう?何やらしがらみや厄介ごとを抱えた者であると。…さて、如何する?我を取り込み神化すれば、同じ神化の愛し子を探し出し連れ戻すは容易ぞ?ただし、人の理には戻れぬ。老いさらばえていく、大切な者達を何回、何千何万回と看取らねばならぬ。耐えられるか?』

誰も彼も自分より早く逝く。だが………

『アヤが残るか…確かに、自分を置いて皆逝くだろう。だが、アヤは残る。アヤだけは残る。十分だ。俺はあいつを置いて逝くつもりは更々ねぇし、置いてかれるつもりも全くねぇ!レーテ、俺の力になってくれるか?俺は、どんな手を使ってもあいつを…アヤを取り戻す!』
『こうと決めれば迷いなしか……まったく、其方等は個は違うても、魂は瓜二つよ。良いよ!我の全てを其方に渡そう。これより、探知と融合の方陣を同時に発動する。探知完了と共に融合したら、間髪入れず、愛し子を引き寄せよ!一度きりじゃ、ぬかるでないぞ?』
『あぁ!分かっている!』
『全地全能神、水の女神アウフィリアが眷族、地水神フェルラレーテの名に於いて開放せよ。
追うは光。張り巡らせし水の糸を依り、其の者を我の前に指し示せし』

真名を混ぜての補正魔導を唱え、レーテが入ったリラの翼がゆっくりと空に銀色の方陣を描いていく。
細かい方陣だ。魔導師が使うものとは明らか隔絶している。織り込まれた魔導文字は読めないが、一つ一つが物凄い力を帯びている。
円方陣が完成すると、レーテが固定させた。

『探知の方陣は完成ぞ。次は融合方陣じゃ。完成と同時に探知が始まる。見つかった時点で、方陣を合わせる。合わさったら、我は其方の中に入り込む。我の意思が保つはおそらく数分か…意思のある間に、愛し子をこちらへ引き摺り出せ!意思が消えれば、それ以上の助勢は不可ぞ。よいか?』

俺が頷くと同時、レーテの魔導が一気に膨れ上がった。圧が凄い。さすがは神といったところか。

『構えよ!!』

一瞬だ。融合方陣は一瞬で現れた。金色の粒子が取り巻く方陣は、あまりに美しく力は強大。
リラの翼に操られた二つの方陣がゆっくりジリジリ合わさっていく。

『捉えた!グレインバルド、よいか!?』
『ああ!大丈夫だ!』

方陣が合わさると同時に、まるで灼熱と極寒、正反対な本流が俺の中に流れ込む。

ーー愛し子の気配を感じるか?ーー
『感じるが…弱い。姿が見えん』
ーーもう少し、意識を張り巡らせよーー

気配を探る。弱い。今にも消えそうだ。
アヤ!どこだ!?
ギュッと握りしめた手のひらに、不意に固い感触。そっと開くと、紫色の煌き。
ハッと顔を上げた俺の目に、真っ白な空間に微かに光る小さな紫の光。

『あれだ!!』

俺は必死に手を伸ばす。
はたして、手に触れた温かいそれを俺は引き寄せた。
スルリと、どこかに入っていたものが抜けるように、力なく意識のないアヤの体が俺の腕に収まった。




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