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第3章 ラシルフ 騒風と騒乱の風編

10.一難去ってまた一難

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あぁ、穴があったら入りたい。
っていうか、誰か穴掘って埋めてください。
それぐらい、俺は落ち込んでいた。
カーティスの部屋から逃げ出し、フラフラしながら彷徨ってた俺は……気絶させられ連れ去られた。
何回目!?お前、何回気絶すんだよ?何回連れ去られるんだよ?って、思うよね?!
俺が一番思ってるからーーーーーーーー!!!
我ながら、学習能力のなさに涙が出るわっ!

ただ、凹んでばかりもいられない。何故なら……ーー

「アヤ?大丈夫?」
「うん、大丈夫だから…ただ、ちょっとね、自己嫌悪になってるだけだから。気にしないで、タータ」

タータ。
そう。俺が軟禁されてる部屋には、何故かここラシルフの皇女、タータもいる。
しかも、どうやらこの部屋はタータの部屋というわけではないようだ。

「アヤ…ごめんなさい。私、アヤに謝ってばかりね。
でも、アヤにはひどい事ばかりしているわ」
「え~ッっと、とりあえず現状把握できてないけど、タータの責任じゃなくね?」
「我が国がしている事よ。王家を名乗る者として、謝るのは当然だわ」
「こう言っちゃなんだけど、俺、まだ何も聞けてないんだよね。だから、タータがせっかく謝ってくれても、全く意味不明っていうか……」
「カーティス兄様から何も聞いてなくて?」
「うん、聞いてない」

俺が答えると、タータはまぁっ!と、両頬に手を当てて驚く。

「何て事!いきなり攫うような事をしておいて、放置するだなんて!アヤ、本当にごめんなさい!必ずクレイドルへ帰れるように致しますわ」
「あぁ、うん。ありがとう。あと、できれば何がどうなってるのか、教えてくれると助かるかな」
「えぇ、そうね。アヤには聞く権利があるわ。ただ、あまり愉快な話ではないから、気分を害すと思うの」
「いや、最初から愉快な扱いじゃないし、期待してないから」
「そうよね。我が国に対して不信感を持たれるのは悲しいけど、ハッキリ言ってくれていいわ」

あぁっ!タータ、シュンとしちゃった。彼女が悪いわけじゃないのに、攻めるような言い方になっちゃったよ。
あまりにいろいろありすぎて、俺も気持ちがだいぶささくれ立ってる。

「タータ、ごめん!」
「いいの。それより、話をしなくてはね」
「…うん。そもそも、俺が攫われた理由は何なんだ?」
「順を追って話すわ。ラシルフは今、第一皇子であるカーティス兄様と、第二皇子であるサーリヤ兄様の二人で、権力が二分されているの。力は拮抗していて一進一退といったところよ。国王、父様は今病に伏せっていて、一応の国政はカーティス兄様が仕切っていらっしゃって…サーリヤ兄様はそれが気に入らないのね。事ある毎に、刺客をカーティス兄様に送ったり、毒殺を狙ったりと苛烈は増すばかり…」
「仲悪いんだな……兄弟で殺すとか殺さないとか、俺には理解できない」

ただ憎いってだけで、そこまで出来る事がすごい。
刺客だの毒殺だの、平和な世界で生きてた俺には理解不能だ。
俺の言葉に、タータは困ったような悲しい顔を浮かべる。

「そうね。私も、分かりたくないわ……御二方とも、私には大切な兄様だもの。殺し合うなんて、分からないし分かりたくないわ」
「タータ……」
「大丈夫よ…続きね。やりとりの応酬に、痺れを切らしたカーティス兄様は、クレイドルへの私の婚約を申し入れたの」
「婚約?!タータが?誰と?」
「皇太子、グレインバルド様よ」

ズガンっと頭を殴られたような衝撃だ。バルドと、目の前の小さな姫が婚約?
頭、クラクラしてくる。

「タータいくつ?」
「十になったばかりよ。グレインバルド様は、二十四歳だから、十四離れているわね」

あ~、頭ガンガンする。何だよ、そのロリロリ設定。
ないわ~…マジないわ~………
しかも、ここにきて何が凹むって、俺、バルドの歳初めて知ったし……
俺って、よく考えたらバルドの事、何も知らない……

「アヤ?」
「……何でもないです…続けて」
「???……私とグレインバルド様を婚約させて、クレイドルの後ろ盾を得る。サーリヤ兄様との力の差を圧倒的に広げる。それが、カーティス兄様の考えなの。その為に、確実に婚約を承諾させる為に………」
「あぁ~~~…うん、分かった。何となく」

おそらく、俺はバルドに言う事聞かす為の餌で人質なワケね。確かに、愉快な話じゃねぇな。むしろ、不愉快MAXだ!

「私はこの婚約には正直反対なの。アヤにもグレインバルド様にも失礼極まりないわ。だから、計画を知って、アヤの所へ話しに行ったのだけど…」

アッディーンの横槍が入ったんだよな。

「俺と、バルド…グレインバルド皇太子の関係性も…その……」
「知っていてよ。だから、私、反対なの。恋人同士の間に割り込むだなんて嫌だわ!」

い~~~~~~~~~や~~~~~~~~~!!!!
間違って……はないかもだけど、改めて他人の口からその事実聞くのはまだ恥ずかしい!
しかも、カーティスから疑惑の小さな種植えつけられてる今、その単語聞かされるのは正直つらい。

「え~~っ、と……それはそれでもういいので置いといて。今のこの状況って………」
「それは……」

タータの言葉を遮り、突然部屋の扉が開く。
入って来たのは、厳つい男数人に守られるように囲まれたヒョロい男だった。





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