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第3章 ラシルフ 騒風と騒乱の風編

8.威嚇(いかく)の子猫②

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「シーファ」

部屋の中にいたカーティスに呼ばれ、俺は不機嫌をもはや隠しもしない。
アッディーンの言葉「不敬をするな・失礼をするな」?
知るかっ!!

「俺、シーファなんかじゃない……!」

ムスッとして言い返したら、カーティスが一度目を瞠ってから、クスクス笑う。

「その様子だと、意味を聞いたか?」
「…さっき、話はもうないみたいな事言ってなかったか?」

問いには答えず、別の答えを返したが、カーティスは特に気にするでもなく肩をすくめるだけだ。

「先程は気が削がれただけだ。話はせねばなるまい」
「もう話とかどうでもいいから、俺をクレイドルに帰してほしいんだけど」
「……グレインバルドの元に帰りたいか?」
「…………………」

無言は肯定だ。
バルドの元に帰りたいか否かと言われれば、無論、帰りたい。
バルド、怒ってるよな……
自分が勝手に城抜けしなければ、こんな事には…
今更、悔やんでも仕様がないが。
考えに没頭していて、すぐ側に立った気配にハッとした次の瞬間には、俺はカーティスに両腕を掴まれ抱き寄せられていた。

「カーティス!?」
「気にいらんな…お前の中にいるのが、俺ではないというのが、我慢ならんほど気にいらん」
「あんた、何、言って………」
「俺は、ラシルフの皇太子だ。欲しいものは全て手に入れてきた」

腕を掴んでいた手は、両手首に移った。
真剣な視線に見つめられ、俺は固まる。本能的な恐怖を感じ、掴まれた手首を捻る。

「光には抗えないという事か……グレインバルドも、俺も」
「カーティス…意味が分からない。俺が光だと何だっていうんだ?」
「女神の枷だ。アーケィディア大陸には六の属性がある事は?」
「…知ってる。水・炎・風・土・闇・光の六つだ」

俺だって、この世界に来たばかりの頃みたいに無知じゃない。導師ファンガスから学んだりしてるから、それくらい知ってる。
……でも、女神の枷?

「属性の関係性も勿論知っているだろう?光を除いた五属性は、光の魔導に本能的に惹かれるんだ。俺や、グレインバルドのように、女神の魔導と呼ばれる特殊な者は、好き嫌いに関係なく惹かれるようにできてる。それが女神の枷だからな」
「…えっ………」

俺の思わず漏らした声は、カーティスには届かなかったらしい。
まるで、光だから惹かれる。光じゃなかったら惹かれないと言っているようだ。

バルドも、俺が光だから惹かれた?俺を俺として見てたワケじゃない?
カーティスがまだ何か喋ってるけど、聞こえない。

「…ヤ、アヤ。俺のものになれ。最初は利用するつもりだった。だが、惹かれるのを我慢できん。グレインバルドには返さない。お前は俺のものだ!」
「あっ………ッ」

引き寄せられたまま、敷物が敷かれクッションが所狭しと置かれた床に押し倒された。敷物は厚手で、クッションも柔らかく、痛みはなかった。

俺、何やってるんだろう。何で、ここにいるんだろう。

ベストがはだけられ、下に着ていた服の裾から手が入れられ、肌を撫でさすられる。
胸のまだ柔らかい尖りに指がかかり、体が無意識にビクンと跳ねる。
チィンッと微かな音がして、俺は音のした方へ、ノロノロと首を巡らせた。
耳から外れたのだろう。顔の脇に置いた手に当たって音をたてたものは、紫色の光を弾いていた。

「ア、メジスト?」

認めた瞬間。
茫然自失だった俺の瞳に力が戻ったーーーーーーーー







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