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第3章 ラシルフ 騒風と騒乱の風編

6.無自覚トラブルメーカー③

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いつの間にか、ソファから立ち上がってた皇太子様に、俺は何故か抱き上げられた。

こいつ、けっこう背が高い。バルドと同じくらい?
それに、見た目よりがっしりしてて、鍛え上げられてる。

眉間にシワが寄る。
この世界の男どもは、本当に失礼だ。
人をホイホイ抱き人形かのように抱き上げ、担ぎとやりたい放題。
そりゃ、俺は背も小さい(この世界ではだ!俺は一般的!)し、細っこい、いかにもインドア派のもやしっ子かもしれないけど、だからって男の俺が同じ男に簡単に抱き上げられるなんて我慢ならん!

「俺、何で抱き上げられてるワケ?降ろして欲しいし、離れてくんない?」

自分なりに精一杯怖い顔で睨みつけたのに、皇太子様はどこ吹く風だ。それどころか、益々楽しそうに笑ってる。
先程までの不遜な態度が嘘のようだ。

「シーファ、名を聞かせろ」

命令口調。やっぱ変わってない。
は~な~せ~!お~ろ~せ~~!!
こっちは力一杯もがいてんのに、全然力は緩まない。

「あ、いつにしても、あんたにしても、失礼にもほどがあるだろうが!人に命令すんな!自分がまず名乗れ!」
「貴様!さっきから聞いていれば、殿下に対して何たる不敬な!この方は……」
「いい、アッディーン。シーファは、俺に名乗れと言った。この俺にだ」

クスクスと楽しそうに笑いながら、皇太子が青みがかったグレイの瞳で見つめてくる。イケメンは、バルドで見慣れてるけど、やっぱ間近で見つめられるのは慣れないな。

「カーティスだ。カーティス=ユファサ。歳は二十四。俺は名乗ったぞ?名前と歳を聞かせろ、シーファ」
「……アヤ。十七」
「アヤか。耳慣れん響きだが、悪くない。歳は意外だな。十四、五歳くらいかと思ったが」
「な!それじゃ、中坊じゃん!失礼なやつ!!」
「?聞き取れんぞ?」
「……俺は、そんなに子供じゃない!」

《ルーン》にひっかかった為、言い直してやりながら未だ睨む俺に、皇太子、カーティスは何が楽しいのか上機嫌だ。

「離せってば!あんた、さっきから何なんだよ!」
「何なんだはお前だ!殿下に対して不敬にもほどがある!」
「アッディーン。構わん」
「殿下!?しかし……」
「なるほど。グレインバルドが惹かれたのはこれか…納得だ。女も男も美しく、多少あざとい方が愛いと思ったが、これを知ってしまえばすべて霞むな」

ちょ!子供じゃないんだから、俺、抱き上げたまんまクルクル回んないで!
何が楽しいんだよ?!この皇太子様は~~~~!!

「目が回るだろう!いい加減にしろよ、この!皇子ってみんなこうなのか?人の話聞かないし~~~!いつまで抱き上げてんだよ?!離せってば~~~!!」
「よく見れば可愛いし、体は細く小さいが抱き心地は悪くない」
「な!ちょっ!どこ、触って!?んなとこ、揉むな~!」

やだやだやだやだ!!鳥肌立つ!気持ち悪い…

ダメだ!俺、男は、バルド以外ほんとダメなんだ……
あ、マズい…情けないけど、目の前涙で霞んできた。
女の子じゃあるまいし、男としてどうなんだって思うけど、大人の男に力でこられたら俺にはどうしようもできない。

「シーファ?どうし……」

固まったままの俺に、訝しんだカーティスが顔を覗き込み、ハッとしたように目を瞠り、無言で俺を降ろす。床に足が着いたのと、手が離れた事で、俺の体から力が抜けた。
フゥッという溜め息が聞こえ、ノロノロと見上げると、カーティスが微苦笑を浮かべ俺を見下ろしている。フイと視線を逸らし、

「アッディーン。部屋に戻しておけ」
「殿下?よろしいのですか?話をするのでは……」
「いい。気が削がれた」

打って変わり、険しい表情になったカーティスの言葉に、アッディーンが一礼し、俺は何も言う暇も与えられず部屋から追い出されるように退出させられた。




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