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第3章 ラシルフ 騒風と騒乱の風編

5.皇太子様は頭が痛い

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コンコンと扉をノックすると、中から応えがある。
入室すると、ソファに一人の青年。白かと思うほど、だが、キラキラ輝くシルバーブロンドに、サファイアブルーの瞳の、女性かと見紛うほど美しい青年だ。

「おや、私を訪ねてくるなんて珍しいことだ」
「陛下。お目通り叶い嬉しゅうございます」
「今は、人払いしてあるよ。兄と弟でいいんじゃないかな?グレイ」

ニコリと微笑む青年の柔らかな雰囲気に、グレインバルドは肩の力を抜き、勧められたソファに座る。

「急にすまない、兄上。頼みがあってきたんだ」
「おや、珍しいことは続くね。私に頼み事も、お前がするなんてもっとない事だ」

ニコニコ嬉しそうに微笑む青年。
クレイドル国王、アレイスター=セシル=クレイドル。御歳、二十七歳。グレインバルドより、三つ上の兄だ。
温和で優しい見た目ながら、政治は実験剛直。賢帝としても名高い。

「禁術図書の閲覧と、闇魔導書室への入室許可が欲しい」
「何故か?と聞きたいが、もしかしなくても、それは、お前が連れ帰った子猫に関係するのかな?」

アレイスターは微笑んだままだ。
この兄に、グレインバルドは嘘をつけないし、ついたところで兄に分からぬ事などないと知っているため、素直に頷いた。

「あぁ。俺が連れて帰った光の魔導。名前はアヤ。時渡りで、女神の光の魔導だと分かった。アヤの事で調べたい事がある」
「女神の光。それは素晴らしいね。お前がずっと求めてたものだ。だけど、心中は穏やかじゃないね?グレイ。レズモント辺りが嗅ぎつければ、ちょっとした騒ぎだ」
「兄上……」
「ふふっ、心配しなくても言いやしないよ。お前のそんな焦った顔は初めて見るね。最近、お前が子猫を拾って夢中と聞いて、いつ紹介してくれるのかと待ってたんだけどね」

イタズラっぽく笑う、アレイスターに、グレインバルドも苦笑した。

「子猫と言うべきか否か、迷うところだな」
「おや、そうなの?」
「手がかかる度合いで言えば、アヤの方が数段上だ。あいつほど、思い通りにいかず、ままならん奴もいない」
「でも、手がかかる方が可愛いだろう?」

アレイスターの言葉に、グレインバルドはフッと小さく微笑む。
同じく、ニコニコと嬉しそうに微笑むアレイスター。

「いいよ。じゃあ、子猫と一緒に…」

アレイスターの言葉を遮る形で部屋の扉がノックされる。

「入るがよい」

改まった声音で、アレイスターが入室を許可する。

「失礼いたします、陛下。申し訳ありません、殿下に火急の用がありまして」
「セレスト?」

部屋に来たのはセレストだった。彼にしては珍しく焦っている。

「殿下…実は…………………」

耳打ちされた内容に、グレインバルドの眉間に縦じわが刻まれていく。
聞き終わり、こめかみを指で揉むグレインバルドに、アレイスターが穏やかに声をかけた。

「グレイ、どうかしたかい?」
「悪い、兄上。呆れ半分怒り半分で、頭が痛い」
「問題事かな?」
「アヤが…光の魔導が、ラシルフに少々強引な招待を受けたらしい」
「おやおや、それは。さっき、都合よく転移魔導で届いたコレに関連するのだろうか?」

コレと言って差し出されたのは、ラシルフ王家の紋章が封蝋された封書。
開封し目を通して、グレインバルドはハァッと重く溜め息を一つ。

「内容は?」
「今迄と変わんねぇ。末の妹姫と、俺の婚姻の申し出についてだ。だが、間が良すぎる。兄上、ラシルフと一悶着あるかもしれんが、いいか?」
「まぁ、先に手を出したのはあちらだしね。間違っても戦乱にならなければいいよ」

のほほんとして答えるが、アレイスターが、グレインバルドに外交を命じているのは明白だ。しかも、戦乱一歩手前まではいっていいと許可も出た。

「それにしても残念だね。やっと、グレイの可愛い子猫に会えると思ったのに。ラシルフから帰ったら、子猫連れてもう一度おいで。鍵は用意しておくから」

ニッコリ微笑むアレイスターに苦笑一つ返し、グレインバルドはセレストと共に、アレイスターの私室を辞した。






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