77 / 465
第3章 ラシルフ 騒風と騒乱の風編
5.皇太子様は頭が痛い
しおりを挟むコンコンと扉をノックすると、中から応えがある。
入室すると、ソファに一人の青年。白かと思うほど、だが、キラキラ輝くシルバーブロンドに、サファイアブルーの瞳の、女性かと見紛うほど美しい青年だ。
「おや、私を訪ねてくるなんて珍しいことだ」
「陛下。お目通り叶い嬉しゅうございます」
「今は、人払いしてあるよ。兄と弟でいいんじゃないかな?グレイ」
ニコリと微笑む青年の柔らかな雰囲気に、グレインバルドは肩の力を抜き、勧められたソファに座る。
「急にすまない、兄上。頼みがあってきたんだ」
「おや、珍しいことは続くね。私に頼み事も、お前がするなんてもっとない事だ」
ニコニコ嬉しそうに微笑む青年。
クレイドル国王、アレイスター=セシル=クレイドル。御歳、二十七歳。グレインバルドより、三つ上の兄だ。
温和で優しい見た目ながら、政治は実験剛直。賢帝としても名高い。
「禁術図書の閲覧と、闇魔導書室への入室許可が欲しい」
「何故か?と聞きたいが、もしかしなくても、それは、お前が連れ帰った子猫に関係するのかな?」
アレイスターは微笑んだままだ。
この兄に、グレインバルドは嘘をつけないし、ついたところで兄に分からぬ事などないと知っているため、素直に頷いた。
「あぁ。俺が連れて帰った光の魔導。名前はアヤ。時渡りで、女神の光の魔導だと分かった。アヤの事で調べたい事がある」
「女神の光。それは素晴らしいね。お前がずっと求めてたものだ。だけど、心中は穏やかじゃないね?グレイ。レズモント辺りが嗅ぎつければ、ちょっとした騒ぎだ」
「兄上……」
「ふふっ、心配しなくても言いやしないよ。お前のそんな焦った顔は初めて見るね。最近、お前が子猫を拾って夢中と聞いて、いつ紹介してくれるのかと待ってたんだけどね」
イタズラっぽく笑う、アレイスターに、グレインバルドも苦笑した。
「子猫と言うべきか否か、迷うところだな」
「おや、そうなの?」
「手がかかる度合いで言えば、アヤの方が数段上だ。あいつほど、思い通りにいかず、ままならん奴もいない」
「でも、手がかかる方が可愛いだろう?」
アレイスターの言葉に、グレインバルドはフッと小さく微笑む。
同じく、ニコニコと嬉しそうに微笑むアレイスター。
「いいよ。じゃあ、子猫と一緒に…」
アレイスターの言葉を遮る形で部屋の扉がノックされる。
「入るがよい」
改まった声音で、アレイスターが入室を許可する。
「失礼いたします、陛下。申し訳ありません、殿下に火急の用がありまして」
「セレスト?」
部屋に来たのはセレストだった。彼にしては珍しく焦っている。
「殿下…実は…………………」
耳打ちされた内容に、グレインバルドの眉間に縦じわが刻まれていく。
聞き終わり、こめかみを指で揉むグレインバルドに、アレイスターが穏やかに声をかけた。
「グレイ、どうかしたかい?」
「悪い、兄上。呆れ半分怒り半分で、頭が痛い」
「問題事かな?」
「アヤが…光の魔導が、ラシルフに少々強引な招待を受けたらしい」
「おやおや、それは。さっき、都合よく転移魔導で届いたコレに関連するのだろうか?」
コレと言って差し出されたのは、ラシルフ王家の紋章が封蝋された封書。
開封し目を通して、グレインバルドはハァッと重く溜め息を一つ。
「内容は?」
「今迄と変わんねぇ。末の妹姫と、俺の婚姻の申し出についてだ。だが、間が良すぎる。兄上、ラシルフと一悶着あるかもしれんが、いいか?」
「まぁ、先に手を出したのはあちらだしね。間違っても戦乱にならなければいいよ」
のほほんとして答えるが、アレイスターが、グレインバルドに外交を命じているのは明白だ。しかも、戦乱一歩手前まではいっていいと許可も出た。
「それにしても残念だね。やっと、グレイの可愛い子猫に会えると思ったのに。ラシルフから帰ったら、子猫連れてもう一度おいで。鍵は用意しておくから」
ニッコリ微笑むアレイスターに苦笑一つ返し、グレインバルドはセレストと共に、アレイスターの私室を辞した。
2
お気に入りに追加
2,208
あなたにおすすめの小説
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
転生したら第13皇子⁈〜構ってくれなくて結構です!蚊帳の外にいさせて下さい!!〜
白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)
BL
『君の死は手違いです』
光の後、体に走った衝撃。
次に目が覚めたら白い部屋。目の前には女の子とも男の子ともとれる子供が1人。
『この世界では生き返らせてあげられないから、別の世界で命をあげるけど、どうする?』
そんなの、そうしてもらうに決まってる!
無事に命を繋げたはいいけど、何かおかしくない?
周りに集まるの、みんな男なんですけど⁈
頼むから寄らないで、ほっといて!!
せっかく生き繋いだんだから、俺は地味に平和に暮らしたいだけなんです!
主人公は至って普通。容姿も普通(?)地位は一国の第13番目の皇子。平凡を愛する事なかれ主義。
主人公以外(女の子も!)みんな美形で美人。
誰も彼もが、普通(?)な皇子様をほっとかない!!?
*性描写ありには☆マークつきます。
*複数有り。苦手な方はご注意を!
明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~
葉山 登木
BL
『明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~』
書籍化することが決定致しました!
アース・スター ルナ様より、今秋2024年10月1日(火)に発売予定です。
Webで更新している内容に手を加え、書き下ろしにユイトの母親視点のお話を収録しております。
これも、作品を応援してくれている皆様のおかげです。
更新頻度はまた下がっていて申し訳ないのですが、ユイトたちの物語を書き切るまでお付き合い頂ければ幸いです。
これからもどうぞ、よろしくお願い致します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
祖母と母が亡くなり、別居中の父に引き取られた幼い三兄弟。
暴力に怯えながら暮らす毎日に疲れ果てた頃、アパートが土砂に飲み込まれ…。
目を覚ませばそこは日本ではなく剣や魔法が溢れる異世界で…!?
強面だけど優しい冒険者のトーマスに引き取られ、三兄弟は村の人や冒険者たちに見守られながらたくさんの愛情を受け成長していきます。
主人公の長男ユイト(14)に、しっかりしてきた次男ハルト(5)と甘えん坊の三男ユウマ(3)の、のんびり・ほのぼのな日常を紡いでいけるお話を考えています。
※ボーイズラブ・ガールズラブ要素を含める展開は98話からです。
苦手な方はご注意ください。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる