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第1章 水と光、交錯の相愛編
8.密かな計略②
しおりを挟む結局、あの後俺はまったく集中する事ができなかった。
魔導を知り、この世界の事、この国の事を少し知る事はできた。そして、禁術の事も……
が、やはり自分の事を明確に知る決定的なものには、当たらず一進一退といったところだ。
今、俺は部屋に一人だ。勉強で疲れただろうと、ファンガスが退室してから、アリッサもローレンもお茶とお菓子だけ用意してさがってくれた。
正直、今は一人にしてくれたのがありがたい。
この世界を感じてから、成り行き任せ・勢い任せにしてきたが、かなり、精神的に疲弊していた。
知った側から、知らない事やわからない事が増えていくし、元々分からない事はそのまま取り残されて……
俺は一体どうなってしまったのだろう。平穏無事にやり過ごすつもりだったのに、ちっともそうならない。
特技かと思ったものには、魔導という能力が絡んでくるし、何やらやたらに男からの接触は多いし、とにかく周りがみんな放っておいてくれない。
行儀悪く、ソファのような長椅子に寝そべったまま、アリッサが用意してくれた、クッキーのような焼き菓子を頬張る。
甘い物が美味しい。
「今、何時くらいなんだろ?ここに着いた時も、かなり暗かったけど。九時とか十時くらい?」
この世界、時間の単位は変わらないが、ただ時計が少ない。魔導で動いているようで、原理は分からないが時間というものは一応存在している。
コンコン
部屋の扉のノック音で俺はソファから体を起こす。
グレインバルドかな?後で来るって言ってたし。
俺は扉まで歩いていく。中から、一応声をかける。
「誰ですか?」
「遅くに申し訳ありません、光の魔導様。わたくし、宰相閣下の使いの者です。宰相様が、話をしたいのでぜひ、閣下のサロンの方へご足労願います」
若い男の声で返答があり、俺はしばし考えた。
宰相というと、国の重要な人だったような気がする。
グレインバルドに断りなく部屋を出るのは躊躇われたが、お偉いさんの誘いを無下にするのもどうなのか?
「あの~、グレインバルド…殿下は?」
「殿下も後でいらっしゃいます。閣下がお待ちですので、お早く」
使者の青年の少し苛立ったような声に、俺は仕方なく扉を開けた。
はたして、そこには青年が一人立っていた。濃いアッシュグレイの髪に、青みがかったグレイの瞳。歳は俺と同じか、少し上くらい。
「ご案内します。ついていらしてください」
特に何か言うでもなく、青年は俺が顔を見せるとさっさと歩き出してしまった。
随分素っ気ないし、ちょっと失礼じゃないか?挨拶も何もなしにさっさと一人歩き出して……
俺は一度部屋を振り返り青年を見たが、彼が止まる事はなく、仕方なく後をついていった。
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