彩色師は異世界で

第1章 水と光、交錯の相愛編

6.決意の独占欲

カツーン…カツーンと、よく磨き上げられた回廊の床に靴音が響く。

グレインバルドの脳裏には、一人の少年の存在。
黒髪黒眼という、クレイドル近郊では珍しい容姿の少年。
出会いは偶然居合わせた、ある貴族の屋敷の庭先。
帝都でも指折りの歌舞団、マダム・エルザの団の一員。決して少女めいてはいないのに、可愛いとしか言いようのない姿で、だが、物を素直に言う。彼は、グレインバルドが皇太子と知っても、態度を変えなかった。

「グレイ。宰相らには何て言うつもりだ？」

マダムのところへ伝言に向かわせたセレストの言葉が蘇る。
さて、どうしたものか。
宰相らの相手ははっきり言って面倒で、正直グレインバルドはやりたくない。だが、そうすると、あの少年を城に、自分の元に留め置く理由と意義を失くす。

グレインバルドにも、賭けだった。正直、あの不可思議な音の正体は分からないし、感じた力の波動が光だったからといって、本当にそうなのか？ましてや、あの少年が、まだ、そうだと決まったわけではない。
今は、導師ファンガスに話をしてもらうと同時に、いろいろ探ってもらう手筈になっていた。

どちらにせよ、そうだったら申し分はないし、そうでなかったとしても、グレインバルドは最早、アヤを手離す気は毛頭なかった。
まだ、会ってどのくらいもない。自分自身、身から溢れるほどに感じる独占欲に少々困惑気味だ。

「逃がす気はない。俺のものだ」

言葉に出しても決意し、グレインバルドは宰相らのいる謁見の間に向けて、静かに歩いていった。