上 下
23 / 465
序章 突然異世界トリップ迷惑編

19.能力覚醒。肌に咲き染めし色の花②

しおりを挟む



「キサ、何の用?そっちは、新入りの子でしょ?」

俺は、キサと一緒にラーシャのテントに来ていた。先程判明したばかりの能力、俺の彩色の能力を使い、ラーシャを説得する為に。

「なぁ~に?装飾品が用意できたの?それとも、それも無理で、団のまとめ役であるあんたが説得しに来たとでも?」

ラーシャは小馬鹿にしたように、少し蓮っ葉な物言いをしたが、俺にはやりきれない気持ちに少し無理してるようにしか見えない。

「ラーシャ。装飾品は無理だ。ここから前の街までは2日かかる。往復で4日だ。どうがんばっても、サンカスでの依頼日に間に合わん」
「でしょうね。で?」
「装飾品の代わりを準備した」
「代わり?あれに代わるものが準備できたって言うの?」

キサの言葉に、ラーシャは少し苛立った様子だ。それはそうだろう。予定していたものが、ミスで駄目になった、だから、代わりのもので我慢しろでは、俺が彼女と同じ立場だったとしても納得できない。

が、今回はそれを納得してもらわなきゃならないし、納得させなきゃならない。

キサが俺を見て小さく頷く。俺もそれに返して、一歩前に。ラーシャの前に立つ。

「この子?この子が、何だっていうワケ?」
「彩色師だ」
「は?」
「アヤは彩色師。その能力を使って、装飾品代わりに肌に彩色を施す」

キサが言い切ると、黙って聞いていたラーシャの肩がフルフルしだした。

「ふざけるんじゃないわよ!!『ーーーーーー!!』」
「アヤ!」

キサから体を後ろに引かれ、俺は抱きとめられるようにされた。キサの時以上の熱を感じた。キサの炎が赤とオレンジだったのに対して、ラーシャは真紅。熱の比は比較にならない。
本気で害そうとしたわけではないらしく、ラーシャはすぐにその炎を消したが、かなり怒っているのは明白だ。

「ラーシャ。腹が立ったからって、すぐに人や物に当たるな。炎を出すのはやり過ぎだ」
「腹を立てるな?やり過ぎ?どう考えても、あたしを怒らせるような事言ってんのは、あんた達でしょ?」

キサがラーシャの炎から庇ってくれたらしい。彼女が本気で俺を黒コゲにしようとしたとは思わないが、どうやら感情の起伏で、炎の質が変わるようだ。
やれやれ乱暴なお姫様だ。

「彩色師。あたしだって知ってるわ。帝都にも何人かいるもの。だけど、彩色は最低だし、魔導の質が悪すぎて痛いしで評判なんか地を這ってるわ!キサ、あんたあたしに痛い目見ろって言ってんの?!」
「ラーシャ。信じられないかもしれんが、アヤの彩色は無痛だ。マダムもそれは身をもって実証してる」
「マダムが……?」

マダムの名が出ると、怒る狂っていたラーシャが、疑うように、だが、先程とは打って変わって落ち着いてきた。

「マダムは、知ってるのね?」
「知ってる。俺たちが、ここに行ってくるって言った時も、ラーシャがどうしても嫌だって言うなら、仕方ないし、自分は判断はラーシャに任せるって!」

我慢できずに、俺は思わず口を挟んでいた。

「ごめん。俺は部外者みたいなもんだけど、女の子が困ってるなら助けてあげたいし、だから……」
「話したの?」

俺にではなく、キサに向けた言葉。キサは軽く肩をすくめた。

「必要だったからな」
「………おしゃべり、サイテー………」

ラーシャの顔が、泣きそうに歪んだ。最初の頃の怒りは、もう彼女からは消え失せていた。




しおりを挟む
感想 459

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

処理中です...