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序章 突然異世界トリップ迷惑編

19.能力覚醒。肌に咲き染めし色の花①

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湖面に落ちる水の音。
ピチョンという音。まるで、高性能のマイクで拾われたかのような。その音を認めると、俺の頭を襲っていた痛みは消え失せ、俺は閉じていた両眼をゆっくりと開いた。

「マダム、手を借りてもいい?」
「アヤ?どうしたんだい?」

何だろう。なんの確証も、何故とも思うのに、俺はそれができると感じていた。
ゆっくりと両手を差し出す俺に、マダムは戸惑いながらも手を伸ばしてくれる。

マダムの手は、年相応にシワも多いがふくよかで優しい手だ。

マダムの手を一度両手で包み込み、俺はあることを脳裏に思い浮かべながら、自分の手のひらを、マダムの手に滑らせるようにして移動させていった。

「これは…」

俺が手を滑らせたマダムの肌には、綺麗な花が咲いていた。正確には、花を模した綺麗な文様が彩色されていたのだ。
自分の手に施されたモノを、マダムは不思議なモノを見るようにしげしげと見やる。

「バカな!ありえない、無詠唱魔導だと」

キサが驚愕し、俺の手首を思わずといった風に握る。

「…ッ、痛、い!キサ」
「悪い!すまん、大丈夫か?」

力の加減なく握られた為、かなり痛かったが、すぐ離してもらえたので、痣にはなってない。

「キサ、これは……」
「あぁ。マダム、魔導だ。しかも、無詠唱の光属性魔導」
「驚いたね。アヤ、あんた彩色師だったのかい?」
「さいしょくし?」

思い切りクエスチョンマークの俺に、キサが説明してくれた。
曰くーー
彩色師とは、魔導に色を持たせ、彩色を施す事を生業とした者たちの総称だそうだ。
人体に対して色を乗せるといった繊細な施しには、光属性の持つ癒しの力が不可欠で、ここ何年かで、もともとある理由により減少していた、光の魔導を操る者は増えてはいたが………

「まだ、光の魔導はあまりいないし、力も弱い。アヤみたいに、無詠唱で、しかもまったくの無痛で色を施す彩色師なんぞ、見た事も聞いた事もない。それに、ファランから聞いたが、お前、まだ魔導を理解してないんだろう?魔導を理解もせず、魔導を操る。お前は一体、何者なんだ……?」

それは俺自身が聞きたいし、知りたい。
俺は、何なのだろうか?
こことは違う世界からやってきた。それは分かる。
が………
記憶はところどころ抜け落ち、無理に思い出そうとすると、度々襲う頭痛。先程の出来事も、色に関わる何かが好きで、殆ど無意識に使ったに過ぎず、何故、色が好きだっただとか細かい事までは思い出せない。
色、彩色師、薄れる記憶、無詠唱魔導、この世界に俺が堕ちた理由ーーーー
魔法やそれに関わる事が異世界で使える。俺が普通の状態なら、ただ、単純に喜び楽しんだかもしれないが俺は今の俺が普通じゃない事を感じてる為、訳も分からず、突然こんな能力使えても、漠然とした不安しか覚えない。

「キサ。アヤの事や今後の事は、帝都に帰ってからにしないかい?今は、何も分からないし、調べようもないだろう。アヤも、それでいいかい?」
「そうだな…俺も今は、何聞かれても分からないとしか言えないし」
「……分かった。俺もそれでいい。あんたに従うよ、マダム」

マダムの言うとおり、いろいろ考えるのは、後回しにしよう。今は、俺自身正体の分かっていない能力だがこれ役に立てないかな?

「マダム、キサ。ちょっと考えがあるんだけど」




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