上 下
20 / 465
序章 突然異世界トリップ迷惑編

17.団の母は偉大なり

しおりを挟む



「お前ら、何やってんだ?」

キサの登場で、言い争いをしていた男たちは、大人しくなった。
ただ、一人除いて。

「マダムに呼ばれてたんじゃないか?キサ」
「そのマダムから、アヤを連れて来いって言われたんだ」
「アヤっていうんだ。名前も可愛いんだな」

イヴと呼ばれた青年と、キサの間で温度が二三度くらい低くなったように感じた。
イヴは明らかにお前が嫌いという態度を隠そうともしないし、キサはキサで敢えてそういう態度を無視。
そんなキサの態度に、イヴはフンと小さく鼻を鳴らし打って変わって、俺に柔らかく笑いかけてきた。

「ちゃんと名乗ってなかったね。イヴァンだ。今度ゆっくり話しよう。もちろん、二人だけで」

ナンパだ。女の子にするみたいに、柔らかく甘い態度と声で誘われた。
ウィンクつけられたから、確実ですね。

「アヤ。マダムが呼んでる。行くぞ」
「あ、うん…」

キサに促され、俺はキサの後について行く。

「マダムに信頼されてるからって、調子にのりやがって」
「イヴ、黙ってるつもりか?」

周りの男たちの言葉に、イヴは無言でキサの後ろ姿を睨みつけていた。



マダムが使っているテントに着き、幕の外から声をかけ、返事を待ってから、キサと中へ入る。
テント内はそこそこ広く、団の長らしくいろいろ物は置いてあるが、ごちゃごちゃはせず、スッキリ綺麗にまとめられていた。

「呼びつけてすまないね」
「いえ、大丈夫です。あの、何かありましたか?」
「特にというか…まぁ、進展がないのが問題かね。明日には街入りしなきゃならないしね」
「街に入るって事は、機嫌が?」
「直ってないよ」

困ったように肩をすくめるマダム。
ラーシャの機嫌が直ってないのに、街に入る?
でも、街の領主の依頼は、ラーシャの舞なんだよな?ラーシャが踊らなきゃ、意味なくね?
それもだが、マダムの言葉から、ここから街まで5時間。領主の期限が3日後と最後の記憶にあり、明日街入り。一日前には街についておくと言ってたので、俺は約一日寝ていた事になる。

「ラーシャが踊らないとなると、残りの舞姫で何とかご機嫌とるしかないだろ」
「それって…状況的にいいワケ、ですか?」
「無理に丁寧に喋らなくていい。普通にしな。まぁ、状況でいったら非常にマズいね。何せ、客の要望に応えられない事になる。下手すりゃ、契約不履行で罰金
マダム・エルザの名は地に堕ちるかもね」
「それは、マダムのせいじゃないじゃん!ラーシャはそれで許されるのか?マダムや、みんなに迷惑かけて?」

やれやれの体で語るマダムに、俺は理解できない。
看板舞姫といえど、マダムとラーシャは雇用主と従業員といった関係だろう?
マダムの口調だと、従業員のラーシャの方が立場が上のように聞こえる。

「ラーシャは、舞姫に誇りを持ってるからね。一番美しい自分を、客に提供する。自分が納得できない、中途半端な物を提供するなら、たとえ、誰に迷惑かけようが貫き通す。あたしは、ラーシャに絶大な信頼をおいてるし、あの子が、できないやりたくないってなら無理強いはできない。それだけの権利も与えてる」

だから、たとえ自分が領主から咎められても、構わない。自分たちの団を支え、養う一端を担っている者を守るのが仕事だよと、大らかに笑う人を……

助けたいな。
俺は自然にそう感じた。
マダムがこういう人だ。この人が信頼を置くラーシャが、こんないい人に迷惑かけて全然平気とは思えないし、思いたくない。

ラーシャはあの時物凄く怒っていた。その辺も交えた事情があるらしい。
これは、俺が聞いたから何とかなるレベルではなさそうだか、話を聞いてみない事には、何か妙案も思いつかない。
殆ど部外者だが、俺は事情を把握するべくゆっくり口を開いていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

半魔の竜騎士は、辺境伯に執着される

矢城慧兎@中華BL完結しました
BL
【2巻発売中】 「お前が私から盗んだものを返してもらう。それまでは逃さない」 ドラゴンの言葉がわかるチート能力のおかげでかつては王都の名門「飛竜騎士団」に所属していた、緋色の瞳を持つ、半魔の騎士カイル。――彼は今、飛竜騎士団を退団し田舎町でつつましやかに暮らしている。 ある日カイルははかつて恋人だった美貌の貴族アルフレートと再会する。 少年時代孤児のカイルを慈しんでくれたアルフレートを裏切って別れた過去を持つカイルは、辺境伯となった彼との再会を喜べず……。一方、氷のような目をしたアルフもカイルに冷たく告げるのだった。 「お前が私から盗んだものを返して貰おう」と。 過去の恋人に恋着する美貌の辺境伯と、彼から逃れたい半魔の青年の攻防。 ※時系列的には出会い編→別離編→1巻、2巻となります。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

【現代BL賞】6番目のセフレだけど一生分の思い出ができたからもう充分

SKYTRICK
BL
幼馴染のド怖モテ攻めに長年片想いしているド真面目平凡受け。 ☆第11回BL小説大賞現代BL賞受賞しました。ありがとうございます! 地味でド真面目くんと呼ばれる幸平は、子供の頃から幼馴染の陽太に恋をしている。 陽太は幸平とは真逆の人間だ。美人で人気者で恐れられていて尚好意を抱かれる煌びやかな人。中学の半ばまでは陽太と仲良く過ごしていた幸平だが、途中から彼に無視されるようになる。刺青やピアスが陽太の身体に刻まれて、すっかり悪い噂が流れるようになった陽太。高校もたまたま同じ学校へ進学したが、陽太は恐れを受けながらもにこやかな態度から、常にセフレが5人いるなど異次元のモテを発揮していた。 幸平とは世界が違いすぎて話しをする機会は滅多にない。それでも幸平は、陽太に片想いし続けていた。 大学は進路が分かれている。卒業式に思い切って告白を決意した幸平は、幸運にも6人目のセフレへと昇格した。 少しでも面倒に思われないよう『経験はある』と嘘をつき、陽太と関係をもつ。しかしセックスの後陽太に渡されたのは、一万円札だった。 虚しい思いに涙を滲ませながらも、その後もセフレを続ける幸平だが——…… すれ違い幼馴染の片思いBLです。 微エロもエロも※付けてます 一言でも感想いただけると、嬉しいですし、励みになります!

完全犯罪

みかげなち
BL
目が覚めたら知らない部屋で全裸で拘束されていた蒼葉。 蒼葉を監禁した旭は「好きだよ」と言って毎日蒼葉を犯す。 蒼葉はもちろん、旭のことなど知らない。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

おちんぽフルコースを味わってとろとろにラブハメされるおはなし

桜羽根ねね
BL
とんでも世界でとんでもフルコースを味わうおはなし 訳あり美形キャスト達×平凡アラサー処女 十人十色ならぬ六人六癖。 攻めが六人もいると、らぶざまえっちもバリエーションがあって楽しいね。 以前短編集の方に投稿していたものを移行しました。こんなところで終わる?ってところで終わらせてたので、追加でちょっとだけ書いています。 何でも美味しく食べる方向けです!

処理中です...