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序章 突然異世界トリップ迷惑編
17.団の母は偉大なり
しおりを挟む「お前ら、何やってんだ?」
キサの登場で、言い争いをしていた男たちは、大人しくなった。
ただ、一人除いて。
「マダムに呼ばれてたんじゃないか?キサ」
「そのマダムから、アヤを連れて来いって言われたんだ」
「アヤっていうんだ。名前も可愛いんだな」
イヴと呼ばれた青年と、キサの間で温度が二三度くらい低くなったように感じた。
イヴは明らかにお前が嫌いという態度を隠そうともしないし、キサはキサで敢えてそういう態度を無視。
そんなキサの態度に、イヴはフンと小さく鼻を鳴らし打って変わって、俺に柔らかく笑いかけてきた。
「ちゃんと名乗ってなかったね。イヴァンだ。今度ゆっくり話しよう。もちろん、二人だけで」
ナンパだ。女の子にするみたいに、柔らかく甘い態度と声で誘われた。
ウィンクつけられたから、確実ですね。
「アヤ。マダムが呼んでる。行くぞ」
「あ、うん…」
キサに促され、俺はキサの後について行く。
「マダムに信頼されてるからって、調子にのりやがって」
「イヴ、黙ってるつもりか?」
周りの男たちの言葉に、イヴは無言でキサの後ろ姿を睨みつけていた。
マダムが使っているテントに着き、幕の外から声をかけ、返事を待ってから、キサと中へ入る。
テント内はそこそこ広く、団の長らしくいろいろ物は置いてあるが、ごちゃごちゃはせず、スッキリ綺麗にまとめられていた。
「呼びつけてすまないね」
「いえ、大丈夫です。あの、何かありましたか?」
「特にというか…まぁ、進展がないのが問題かね。明日には街入りしなきゃならないしね」
「街に入るって事は、機嫌が?」
「直ってないよ」
困ったように肩をすくめるマダム。
ラーシャの機嫌が直ってないのに、街に入る?
でも、街の領主の依頼は、ラーシャの舞なんだよな?ラーシャが踊らなきゃ、意味なくね?
それもだが、マダムの言葉から、ここから街まで5時間。領主の期限が3日後と最後の記憶にあり、明日街入り。一日前には街についておくと言ってたので、俺は約一日寝ていた事になる。
「ラーシャが踊らないとなると、残りの舞姫で何とかご機嫌とるしかないだろ」
「それって…状況的にいいワケ、ですか?」
「無理に丁寧に喋らなくていい。普通にしな。まぁ、状況でいったら非常にマズいね。何せ、客の要望に応えられない事になる。下手すりゃ、契約不履行で罰金
マダム・エルザの名は地に堕ちるかもね」
「それは、マダムのせいじゃないじゃん!ラーシャはそれで許されるのか?マダムや、みんなに迷惑かけて?」
やれやれの体で語るマダムに、俺は理解できない。
看板舞姫といえど、マダムとラーシャは雇用主と従業員といった関係だろう?
マダムの口調だと、従業員のラーシャの方が立場が上のように聞こえる。
「ラーシャは、舞姫に誇りを持ってるからね。一番美しい自分を、客に提供する。自分が納得できない、中途半端な物を提供するなら、たとえ、誰に迷惑かけようが貫き通す。あたしは、ラーシャに絶大な信頼をおいてるし、あの子が、できないやりたくないってなら無理強いはできない。それだけの権利も与えてる」
だから、たとえ自分が領主から咎められても、構わない。自分たちの団を支え、養う一端を担っている者を守るのが仕事だよと、大らかに笑う人を……
助けたいな。
俺は自然にそう感じた。
マダムがこういう人だ。この人が信頼を置くラーシャが、こんないい人に迷惑かけて全然平気とは思えないし、思いたくない。
ラーシャはあの時物凄く怒っていた。その辺も交えた事情があるらしい。
これは、俺が聞いたから何とかなるレベルではなさそうだか、話を聞いてみない事には、何か妙案も思いつかない。
殆ど部外者だが、俺は事情を把握するべくゆっくり口を開いていた。
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