上 下
453 / 465
外伝2 触れる指先ーエリオー

*好きだから受け入れられない事もある②

しおりを挟む



「エリオ?」

こちらをキョトリと見つめてくるその姿に思わず苦笑だ。

「アヤ……」

この世界では珍しい、漆黒しっこくの髪に同色の瞳。
会った頃と変わらない。
争いやはかり事とは無縁な瞳の真っ直ぐさに、眩しさを感じて目を逸らせたくなってしまう。
グッと我慢し、努めて冷静な顔を作る。

「どうしたんだ?こんな場所……顔!頬っぺた赤いじゃん⁉︎どうしたんだよ、それ!叩かれたのか⁈」

邪気なく歩み寄ってきたアヤの顔が曇り、慌てたように駆け寄られて問われた。

「あぁ…うん、まぁ。大した事じゃないよ」
「大した事だろ!腫れてるし!!部屋、来て!冷やしてやるから」
「大丈夫。平気だから、慣れてるし」
「は?何、慣れてるって」

眉根を寄せ、怪訝けげんそうに見てくるアヤに、曖昧あいまいな笑みを返す。
強がりでも意地でもなく、それは本当の事で……
理不尽な扱いは子どもの頃からだ。幼い内は泣いたり、母親に取り縋って訴えかけた事もある。
が、成長するにつれ、段々、それも感じなくなった。
自分の中で折り合いをつけたり、早々に期待する事に諦めて……
誰も助けてくれない。
なら、自分は自分で守ろうって……

「…リオ。エリオ?」

意識が黒く染まり、暗く沈みかけ、心配そうなアヤの声と表情に我に返った。
見つめてくるアヤの目は澄んでいて、尚且つ、何の影も伺えない。
純粋に心配されている事実に、胸の奥がホワリと温かくなり、思わず苦笑が漏れる。
慣れてない。
こういうのは困る。
敢えて斜め上になるよう自分を構えた。

「あのね?光の魔導様と違って、僕は侍従。臣下だよ?お貴族様や皇族にお仕えするのがお仕事なわけ。いい人ばっかりいるわけないじゃない。叩かれるくらい慣れっこだよ」

わざと何でもない風に言う。

「だからって!叩かれたら痛いじゃん!いいから、冷やすぞ?俺が見てて痛いの!!誰だよ、叩いた奴⁉︎レズモント宰相か⁈」

プリプリ怒りながら、アヤが手を引っ張ってきた。
肌から伝わる手の熱に、一瞬、目の奥が熱くなりかけ、誤魔化すように顔を俯けた。

「変わんないよねぇ…アヤは。ほ~んと、お人好し」
「は?何??」
「何でもないよ……」

呟きは聞こえなかったらしい。
聞き返されたが、誤魔化した。
やっぱり、敵わないなぁ。
アヤは真っ直ぐで、純粋で、どこまでも綺麗で………
女神の光の魔導だからだけじゃない。アヤ自身が、皆を惹きつける。
グレインバルド殿下も。
セレスト様も。
アヤが関わった人たち、、、もちろん、僕も。
それに………………
不思議な事に、アヤをねたんだり敵意を向ける気は一切起きない。
やはり、宰相様に仕えていた頃とは気持ちが変わった。
それは、多分………

「痛い?」

城の皇族区域のアヤの部屋。
ソファに座らせられた僕の頬に、水で濡らした布が当てられる。
若干腫れて、熱を持った肌にそれは心地よい。

「叩かれたの僕だよ?痛いのも僕。何で、アヤのが痛そうなのさ?」
「うっ、、、、や、だってさ…エリオ」
「うん?」
「可愛い顔してるから……見てるだけで、痛々しいっつうか…」
「……………………ッッ」

言われた言葉に一瞬息を呑み、内心、苦笑を禁じ得ない。
本当、参るんだけどなぁ……
アヤのは本心だろう。決して、ではない言葉。
アヤがだから、僕も変われた。
そう……
だからーーーーーー、、、

「変わらないで……」
「え?」

無意識に呟いた。
訝しむアヤにそれ以上は言葉が出ない。

そのままでいて。
あの人が好きなアヤのままでいて。
じゃないと、僕は……

「エリオ?どうし…」
「なんでもな~い!さ!腫れも引いたし、僕は戻るよ。殿下がお戻りになるんじゃない?アヤも、僕にいつまでも構ってないで、ちゃんと殿下にお仕えしなよ?」
「や、それはするけどさ……そ、じゃなくて!エリオ…」
「はいはい!もう、大丈夫だから!」

なおも言い募ろうとするアヤを制し、無理やり話を終わらせ立ち上がる。
言葉で追いすがるアヤを振り切り部屋を出た。
扉を背にし、顔を手で覆う。
ハァッと深く息を吐き、廊下を歩き出す。

「エリシュオ殿」
「ぇ……うっッッ⁉︎」

不意に呼ばれた名に、振り向くより早く、背後から鼻と口を布のようなもので覆われた。
甘いせ返るような花と、少し青臭い匂い。鼻腔びくう奥と、頭の中が一気にしびれる感覚に襲われる。
目の前が一瞬で白くけぶる。
足掻きかけ、持ち上げた手が上がりきらずダラリと下がる。
名を呼んだ声には聞き覚えがあった。が、思い出せない。
誰だったか?
霞む目で必死に姿を捉えようとするが、影にしか見えず、ゆっくり瞼が下がっていき、意識が暗く深く落ちていった…………ーーーーーーーーーーーーーーー








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...