上 下
464 / 465
外伝3 背中合わせの距離ーセレストー

*それでもやっぱり自分には…②

しおりを挟む



苛立ちは限界に達していた。
一方的にセレストが怒りをぶつけてから数日あまり。イアンとの会話が、本当になくなった。
なくなったとはいっても、仕事に関する話は必要最低限する。が、本当にそれのみ。
最初はセレストも怒っていた為、自ら話しかけるなどはせず、そのまま捨て置いたが、二日、三日とすぎる内に、今度は別の怒りが湧いてきた。
何やら物言いたそうにこちらを見ており、視線に気付いたセレストが目を向けると、慌てて逸らす。
セレストが無視して視線を戻すとまた見ている気配。その繰り返し。
いい加減………………………



鬱陶うっとうしい!!」

ムッスりしたまま吐き捨てる。
反対側の席には、呆れ顔のエリオ。

「それ、そのままご本人に言ったらいいじゃないですか」
「俺から話しかけるのはしゃくだ!」
「セレスト様……言ってることめちゃくちゃです」
「分かってる!!ところで、アヤはなんでそっちを向いたままなんだ?」
「俺の事は、どうぞ、おかまいなく」

カクカクと何やら固く返事をするアヤに、セレストも訝りながらもそれ以上は言わない。

「そもそも、何があってそうなったんです?」
「言うのか?」
「聞かなきゃ分かりませんよ?」

胡乱な目を向けるセレストに、シレッとエリオが応える。初めて会話を交わした時とは違い、かなり遠慮がなくなった。こういう気を使わない会話をできる相手がセレストには少ない。グレインバルドは幼馴染みとはいえ、主君と臣下。砕けた会話はできても、譲れない一線はある。イアンとは、になってから隔絶している。
アヤ以外では、エリオが唯一の話相手だ。

「殿下の執務室で……」
「執務室で?」
「そ、の………」
「はぁ?」
「こ………に、、、お、ょば………て」
「セレスト様?聞き取れません」

顔をしかめるエリオに、なんで自分がこんな事恥ずかしそうに相談しなきゃならんのだと、理不尽な怒りが湧く。
キッと顔を上げる。

「だから!殿下の執務室でイアンに……「だああああぁーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!やめいっ!!」

ソファでそっぽを向いていたアヤが奇声をあげ、真っ赤な顔、軽く涙目で睨みつけてきた。

「ア、ヤ?」
「なになに?アヤ、どうしたわけ?」

訝るセレストと、困惑するエリオに、アヤがプリプリ怒りだす。

「イアンも悪いし、セレストも悪い!!大体なぁ、なんでするわけ?おかげで俺が……」

勢いのままにそこまでまくし立ててから、アヤがハッとなり口を押さえた。
そろっと視線をやる。
呆れ顔のエリオと、額に怒りマークのセレスト。

「そういう事?アヤが変だったのって」
「見てたのなら止めろ!何、覗いてんだ⁉︎」
「あのなぁ!止められるわけないだろ⁈俺が先に部屋に居て、後から来たセレストたちが勝手に……ゃ、りはじ……め、て…」
「人聞き悪い事言うな!言っておくが、俺はあそこでなんてまったくそんな気はなかった!イアンあの馬鹿が一人で勝手に盛って…お前が居ると分かればあんな事……大体、アヤは殿下と一緒にいたはずだろ?何で執務室なんか⁈」
「避難してたんだよ!だって、バルドしつけぇんだもん!嫌だって言ってんのにベタベタ触りたがるし、所構わず抱っこしたがるし!俺はぬいぐるみじゃねぇってのッ!!」
「そんな事は知らんッ!」
「あのぉ~~……」

二人の言い合いに、溜め息つきの声がかかる。
白い目で、心底呆れ切ったようにエリオが二人を見やる。

「この際、覗き見してたアヤはどうでもいいよ」
「よくねぇよッ!」
「はいはい、うるさいよ!勝手に覗いて気まずくなったんでしょ?そんな事より、セレスト様たちの方だよ」
「そんな事って酷くね⁈覗きたくて覗いたんじゃねぇわ!!」
「アヤ、ほんとうるさい!もう、後で聞いたげるから黙って!」

エリオにあしらわれ、ブチブチ文句を垂れながら、アヤがねてソファに齧り付く。

アヤあっちは後で僕がどうにかするんでお構いなく」
「あ……あぁ、、よろしく頼む」

見事に場を仕切るエリオに感心。鬱々うつうつ拗ねるアヤを気にしつつ、セレストがエリオに向き直る。

「前にもありましたよね?セレスト様」
「え?」
「また、同じ事ですか?」

呆れたようなエリオに、何となく後ろめたくて狼狽える。自分よりかなり下の、侍従の青年に窘められる。本来ならセレストが殊勝になる必要はないが、エリオには弱い部分を早くに晒してしまっている為強く見せられない。

「嫌だったんですか?」
「嫌?嫌って……いうか」
「好きだから触れたいし、抱きたいんですよ?」
「は?へ、、?い、や……」

ど直球な言葉に慌てふためくセレストに、エリオがクスと微苦笑した。

「それに…セレスト様はイアン様が自分に遠慮するのが許せないんでしょ?」
「な、、で、分か…」
「まぁ、なんとなく?お二方を見てれば力関係やらなんやら見えてきますしね」

肩を竦めて笑うエリオに絶句。他者に分かるほど、自分は……

「誤解しないで下さいね?セレスト様がイアン様を制圧してるとかではないですよ?そういう風には見えてません」

動揺しかけた心が落ち着き、思わず溜め息をつく。

「イアンがセレストに強く出れねぇのは、セレストの地位が高いからとかじゃない。セレストに遠慮してるわけじゃない。好きだから。大切すぎるから。傷つけたくないから。だろ?」

ソファでそっぽを向いていたアヤもいつの間にかこちらを向き言う。

「セレスト様……それでも、イアン様。許せない?」

年下二人の青年に静かに笑みを向けられ、目を瞠った後、セレストが静かに立ち上がった。
ゆっくり扉に向かい、部屋を出て行く。
パタリと扉が閉じると同時に、残された二人の青年が同時に笑いながら軽く拳を突き合わせた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる
BL
普通のサラリーマンである俺、宮内嘉音はある日事件に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 しかし次に目を開けた時、広がっていたのは中世ファンタジー風の風景だった。前世とは似ても似つかない風貌の10歳の侯爵令息、カノン・アルベントとして生活していく中、俺はあることに気が付いてしまう。どうやら俺は「きっと未来は素晴らしく煌めく」、通称「きみすき」という好きだった乙女ゲームの世界に転生しているようだった。 ……となれば、俺のやりたいことはただ一つ。シナリオの途中で死んでしまう運命である俺の推しキャラ(モブ)をなんとしてでも生存させたい。 学園に入学するため勉強をしたり、熱心に魔法の訓練をしたり。我が家に降りかかる災いを避けたり辺境伯令息と婚約したり、と慌ただしく日々を過ごした俺は、15になりようやくゲームの舞台である王立学園に入学することができた。 ……って、俺の推しモブがいないんだが? それに、なんでか主人公と一緒にイベントに巻き込まれてるんだが!? 由緒正しきモブである俺の運命、どうなっちゃうんだ!? ・・・・・ 乙女ゲームに転生した男が攻略対象及びその周辺とわちゃわちゃしながら学園生活を送る話です。主人公が攻めで、学園卒業まではキスまでです。 始めに死ネタ、ちょくちょく虐待などの描写は入るものの相手が出てきた後は基本ゆるい愛され系みたいな感じになるはずです。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します

月歌(ツキウタ)
BL
今日は魔王である兄上が、花嫁たちを選ぶ日。魔樹の華鏡に次々と美しい女性が映し出される。選ばれたのは五人。だけど、そのなかに僕の姿があるのだけれど・・何事? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

王道学園と、平凡と見せかけた非凡

壱稀
BL
定番的なBL王道学園で、日々平凡に過ごしていた哀留(非凡)。 そんなある日、ついにアンチ王道くんが現れて学園が崩壊の危機に。 風紀委員達と一緒に、なんやかんやと奮闘する哀留のドタバタコメディ。 基本総愛され一部嫌われです。王道の斜め上を爆走しながら、どう立ち向かうか?! ◆pixivでも投稿してます。 ◆8月15日完結を載せてますが、その後も少しだけ番外編など掲載します。

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行 そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち 死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界 異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。 ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。 更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。 星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

処理中です...