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最終章 彩色師は異世界で

1.次代に繋ぐ③

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「後悔は……してない。けど、、」

バルドの体に伏せていた身を起こす。軽く見下ろす形で見つめ合い、居た堪れずに顔を逸らす。

「縛られるの意味をあの時、あの場所で知ってたら、絶対に拒否した。それだけは後悔してる」

泣きそうになるのを我慢し、横目に睨む。当のバルドは、俺のそれに堪えた様子もなく笑う。
ムッとして睨みつけるが、全く、意に介さない。手首をやんわり掴まれ引かれるが、頑として拒む。
苦笑し、バルドが自分から体を起こして身を寄せてきた。

「それが分かってたから話さなかったんだ」
「ひどい奴……」

縛られる。
魂、理ごと。
バルドがルーに願いでたのはそれ。
文字通り。自分の魂、理を、

「お前と一緒で、転生は暫く叶わん。が、箱庭の再生が終わり、核から解放されれば再び転生する。水の魔導は普通に生まれる。問題ねぇだろ?」
「問題なくない!!魂、理全部ッ、俺に結ばれた!転生も終生も、俺と一緒なんだぞ⁈俺と一緒に生まれて、一緒に死ぬんだぞ⁈離れられないのに、問題ないわけないじゃん!!」

結び目は溶けて混ざり、すでに繋がりきってしまい離れる事はない。

「嫌だったか?」
「…………………ッ!!」

耳元で囁かれ、一瞬の怒りでバッと背けていた顔を向ける。
顔を見たら、もう駄目だった。泣きたくもないのに、泣くつもりもなかったのに、涙が溢れる。

「嫌じゃねぇよ!だけど、嫌だ!!」
「どっちだ?」

笑いながら抱き寄せられ、抵抗したが軽く払われた。腕に囲い込まれ身動ぐが、振り解けず、しばらくして諦める。

「怖い…んだよ」
「うん?」
「今はいい。俺はとして、一緒に居られる。だけど、転生繰り返したら?すっげえ、嫌な奴だったら?とんでもねぇ、不細工だったら?……バルドが後悔するかもしれない。離れたくても離れられない…バルドに、そんな風に思われたらって考えたら…怖い」

嫌われたくない。

俺、最低だ。自分の事しか考えてない。箱庭の事とか、箱庭に生きる者たちの事なんか一切考えず、目の前の、大切な人バルドの事だけ……

「そんな事か?」
「な⁉︎そ、んな事⁈バルドにとって、これってそんな事なのか!俺は……ッッ!」
「下らん事を考えるな」
「ッッ!!」

絶句した。あまりにあまりな言葉に声が出ない。
抱き込まれた胸に手をつき、思いっきり突っ撥ねる。

「俺が馬鹿だった!一人で悩んで、悩んで、悩んで悩んで悩んで!なのに……バルドにとって、俺って」
「アヤ…」
「つい先日だよな?これ、教えてくれたの…もっと、早く教えてくれてたら…バルドの事、ルーに頼んで…」
「それこそ無意味だな」
「何でだよ⁉︎」
「お前と離れたら、俺の世界は終わる。光を失えば、俺は死ぬ。目は見えていても、何も映さん。心臓は動いていても、ただそれだけだ。ただ、それだけ。生きていても死んだ器に成り下がる」
「そ、、んなの…転生すれ、ば」

ひた、と視線が合わさり息を呑む。

「同じだ。何度、転生しようと、目の前にお前がいなければ……この腕の中にいなければ」
「意味、分かん……」
「分からんか?じゃ、分かるようにな。お前は、俺が皇子で皇太子だから好きになったのか?」
「………な、わけねぇじゃん」

出会った時にはそんな事知らなかった。
知った後だって俺は王侯貴族じゃない。そういうの必要とする理由も利害もない。
好きになった奴が、たまたまそうだっただけだ。

「俺がいい男だから好きに?」
「………………………」

自分で言うかよ?
呆れた顔で見るが、当の本人は素知らぬ顔だ。

「可愛い女の子は好きだけど…男の顔の良し悪しなんか興味ねぇよ」

俺は、バルドが……………

「あ、れ?」
「分かったか?」

顔を覗き込まれ、目線を合わせられた。

「何度転生しようが、お前がお前である限り、俺の光は変わらん。俺が惹かれ、愛し、好きになったのはお前の中の光で、アヤがアヤだという事実。変わるのは姿形のみ。本質が変わらなければ、俺にとって、お前はお前だ」
「でも…」
「くどいぞ?例えどんな姿だろうと、俺にとっては、お前だけが唯一の光だ」

強く熱のこもった目で見つめられ、それ以上は必要なくなっていく。
やんわりと引き寄せられた。今度は拒まない。
ごく近く、吐息がかかる。
目を閉じかけて、ふと視線を感じた。
まぁるい、バルドと同じ色の大きく滾れ落ちそうな瞳が見つめていた。

「サ、サフィ!」
「父しゃま、母しゃま、なかよち?」

キョトンとして聞いてくる。
あぁ、可愛い♡

「じゃ!なくて!!サフィ、あのな…」
「そうだぞ、サフィ。父様と母様は仲良しだ」
「バルド⁉︎」

言い繕おうとした俺の体が引っ張り寄せられ、バルドの膝に横抱きに座らされる。

「サフィ。父様から、お願いがある。聞いてくれるか?」
「おにぇがい?なぁに?」
「父様は、これから母様ともっと、も~~~~~っと、仲良ししないといけないんだ。だから、今日は父様に母様を貸してくれるか?サフィは今日は母様とお眠できんが、いい子にできるか?」
「父しゃま、サフィもおにぇがいあゆの。サフィね、いもうちょ欲しいなぁ」

ふくふくの両手が、ピンク色のほっぺに当てられはにかむ。
いもうちょ?妹か?
が、何で今?
俺とバルドが仲良くして、妹が欲しいとは?

「兄しゃまたちが言っちぇたの。父しゃま母しゃまなかよちちて、サフィができたの」

うふ♡と可愛らしく笑うが、言ってる内容に驚愕だ。

「サ、サ、サフィ⁈」
「カインとシアンがそう言ったのか?」

うん!と大きく頷く我が娘。
がっくりし、こめかみを抑える。
頭がいたい……
カイン・シアンは双子皇子。俺とバルドの息子たちだ。七の歳になるが、要らん知恵ばかりつけてきて、ちょっと困っている。

「サフィ、とりあえず兄様たちが言った言葉は…」
「妹だな?分かった、約束だ」
「バルド⁉︎」

きゃあ♡と嬉しそうにはしゃぎながら走っていく愛娘。それを見送りながら、唖然としてしまった。

「ちょっ、何、勝手にんな約束……ッ!」
「ラァムの実は…確か、あと三つくらい残ってたな?全部使えば、一人くらい姫になるだろ。三人くらい増えても問題ない。お前の子なら、皇子だろうと姫だろうと、可愛い事には変わらんからな」
「バルド!バルドってば!!聞けよ!」

一人言って一人納得する旦那に怒る。
サフィに言った事もそうだが、ラァムの実全部使う気か⁉︎
冗談じゃないと、プリプリ怒る俺に、バルドが不敵に笑む。

「ここのところ、お前はサフィにかかりっきりだ。少しは俺も相手しろ」
「子どもかよ⁉︎サフィは仕方ないだろ?まだ、手がかかるし。ナ・コルテスに移ってから、バルド政務で忙しくて疲れてる。サフィ、夜泣きすげぇんだよ。一緒に寝てたら絶対起こしちゃうからさ…だから、寝るの別々にしたまでで……」
「長く一人寝に耐えられるような抱き方はしてこなかった筈だがな?」
「…………………馬鹿皇子!また、そういう事、言うし!」

出会った頃と変わらない。
羞恥に耐えられず、膝から降りようとしたが阻まれる。

「やだぞ?」
サフィのお許しは頂いたが?」
「俺は許可してねぇ…」
「夫婦が愛し合うのに許可はいらんな」
「じゃ、何でサフィに許可とるよ?」
「それは簡単な事。”母親”から”妻”に戻ってもらう為だ。言葉にせんと、お前は自覚できんだろう?」
「ムカつく……」
「何とでも?」

手を差し出される。無言で睨みつけるが、小さく笑われるのみ。
手を取るのは癪に触るが……
当て付けるように溜め息を吐いてやる。

「三つも使うな。やり殺されんのは御免だ……」

乗せた手を握り込まれ、手のひらに口付けられる。

「分かった。一つ、だな?姫に当たる事を、一緒に祈ろうか?」








*あと、三~四話で終了予定です!長らくお付き合い頂きありがとうございます&ございました!(*´꒳`*)


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