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最終章 彩色師は異世界で

1.次代に繋ぐ①

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        ~ 7 年 後 ~




ふと、目が覚めた。
目に眩しい光に手をかざし、片目を眇めた。
不意に聞こえた甲高い声に、俺はゆっくりと寝ていたソファから降りる。
外は明るく、日はまだ高い。
ゆったりと声のする方へ。

「父しゃま!おっきして!!サフィとあしょんで!!」

長椅子に横たわった高身長な体。その体の上に、小さなものが乗り、体をバタバタさせている。
フワフワ揺れる、シルバーの巻き毛が可愛らしくて、思わず小さく笑う。
後ろから近付き、体の両脇から腕を回して抱き上げる。

「こ~ら、サフィ。父様はお眠だから、起こしちゃ可哀想だろ?」
「母しゃま?」

サファイアの瞳が、クルンと俺を見上げてきた。
うん。我が娘ながら、破壊級の可愛らしさだ♡

「そろそろ、アリッサとローレンがお菓子用意してるはず。サフィの好きなタルトもあるかもよ」
「お菓子~♡」

キャア~と可愛らしく喜声を上げて走っていく。
微笑ましくて小さく笑っていたら、不意に手首を掴まれ引っ張られた。
引き寄せられるままに、引き締まった体躯の上に倒れ込む。
サフィと同じそれに見つめられ、イタズラっぽく微笑まれた。

「起きてたのか?」
「さっきな。姫二人の可愛い声で目が覚めた」
「………姫じゃねぇし」

サフィはそうだけど、俺は違う。
ムッとして睨むと、クッと笑っておデコにチュウされる。

「俺にとっては、サフィは目に入れても痛くねぇ姫で、お前は、決して腕の中から失くしたくない姫、ってやつだ」
「恥ずかしい事言うな………」

年々、バルドの甘々っぷりが増している。サフィが、生まれてからは特に……

「7年……か」
「後悔してるか?」

バルドの問いに、俺は口を噤んだまま、その体の上に身を伏せた。

            *
            *
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            *
            *
            *

『さて……他の条件を決めようか?』

ルーの言葉で、場が元の塔に戻る。
かなり破損が酷く、倒壊の恐れがあるはずのそれを、ルーが腕を振り修復していった。

『こんなものだな』

そう呟いて、もう一振りすると、場から居なくなっていたギルとアウフィリアが現れた。

「アヤ⁉︎」

バルドの腕の中、グッタリした俺を見て、ギルが駆け寄る。

「大丈夫……ちょっと、疲れただけだ」
「終焉の秤は?終わったか?」
「ルーが治めた。とりあえず、やらなくとも良い方向に持っていってる」
「やらずとも良い?」

訝るギルに、バルドがざっと説明をした。

「終焉の秤はなくなったが……それだと、アヤが」
「そうならない為に、神側あちらにも、それ相応のものを負ってもらう」
『話は終わったか?そろそろ決めんとな。箱庭の寿命が尽きる前に決めたい』

ルーに促され、俺もバルドに頼んで腕から降ろしてもらう。

「無理するな」
「大丈夫……けど、腕つかまらせて?」
「だったら、俺が抱いてた方が…」
「カッコ悪いからやだ」

箱庭の命運を決める大事な話だ。バルドに抱っこされたままなんて、締まりがつかない。
ちょっと無理して笑いながら言う。
改めて、神、三人に向き直る。

「終焉の秤は、しなくていいんだよな?」
『そうだ。箱庭は今、瀕死の状態にある。だから、癒しの力、光の魔導の力を必要としている。最初はアルシディアが負うはずだった。が、叶わなかったから、一時的に俺が支えた。女神の真の光が、この世界に戻るまで』
「アヤがそれを引き継ぐか?なれど、終焉の秤がなくなったなら……」
『箱庭は俺がもう一度支える。幸い、俺の魔導の核の一部は、アヤの中で力を蓄えて戻った。前のように蓄える間も無く支える羽目にはならねぇから、眠りにつくことも、まぁないだろう』

前は、急にアルシディアがいなくなり、急場でルーが支えた。がいつ戻るとも分からない中で、何百何千年支えたルーが凄すぎる。
尊敬の目でルーを見ると、少し面映そうに笑う。

「ずっと、ではないであろう?ルーよ」

少し面白くなさそうに全能神が口を挟む。拗ねたようなその声音は、言葉にはしなくても、この決定に不満タラタラと豪語している。

『期限は、アヤの命が尽きるまで。アヤは寿命を全うしたら、魔導の核は輪廻に戻らず、この箱庭の核に納まる。その時点で、俺の役目は終わりだ』

全能神の子供みたいな態度に呆れつつ、ルーが答えた。

「一つ、いいか?」
『なんだ?』
「アヤが核となったら、光の魔導の転生と、光を魔導として生まれる者はどうなる?」
『転生は一時なくなるな。女神の光の魔導は実質、アヤで止まる。光を魔導とする者は普通に生まれるから問題はない』

バルドの問いにルーが答えた。
思案するように、口元に手をやりバルドが押し黙る。

「バルド?」
「俺から、条件…というか、聞き入れて欲しいことがあるんだが、いいか?」










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