上 下
411 / 465
第三部3章 思惑の全能神と真白き光の眠り姫 編

6.女神、帰還への序章③

しおりを挟む



闇黒の塔……
まさか、再び訪れる羽目になるとは……
塔全体は、あの時とは違い、今は澄んだ静寂に包まれていた。
入り口の門は硬く閉ざされている。
最初に来た時は、ディオンの転移魔導で、塔のど真ん中に落とされたから、ここは通ってない。
試しに、門へと手を伸ばす。
バチィッと、鋭く手が弾かれた。怪我というほどもないが、指先がビリビリし、腕がジンと痺れる。

「結界……まぁ、そうだろうな」

すんなり塔へ入れるとは思ってない。
一度、呼吸を整え、手の平を結界へと向ける。
魔導の属性を、水から闇へ……
結界の表面が、波紋を描くように揺れていく。
魔導が逆巻き、グッと力を込めると、人一人通れるくらいの隙間ができた。
すかさず体を滑り込ませる。

「ッ………!」

クラッと一瞬体が揺らぎ、手の平で顔を覆い目を閉じた。
魔導変異はまだ慣れない。
闇魔導は光と同じく扱い難いと知っていたが……
口惜しいが、完全に使いこなせない以上、多用は禁物か…
眩みが治まり、肩で大きく息を吐き、顔を上げた。
塔の中は様変わりしていた。
キラキラと、黒みがかった透き通る石の標柱で全てが覆われている。
石は全部魔鉱石。まさに圧巻だ。

「闇の波動が漏れねぇように、か?すげぇな…」
「そこに居るは誰だ?」

カツンと石床を歩く足音が響き、誰何すいかの声で視線を向けた。
漆黒の髪を揺らし、訝しげに現れたルビーの瞳が驚愕に見開かれた。

「グ、レインバルド⁈其方、何故、ここに居る⁈」
「ギルゼルト」

初代、女神の闇の魔導ギルゼルト。
アヤの転生前、初代、女神の光の魔導アルシディアを愛し、失った事で邪神に付け込まれ、闇堕ちした魔導だ。先の戦いで闇堕ちのくびきから解き放たれ、本人の希望もあり、悔恨と戒め、懺悔の意味も込め、女神アウフィリアにより、この塔へ封ぜられた。

「ここは闇の生を生きる者がおりし、愚者の塔…光の生を生きし者が来る場所にないぞ?何故、かような所へ……」
「止むに止まれねぇ事情だ」
「何?」

訝るギルゼルトに、俺は重苦しく口を開く。

「アヤが……消えた」
「な、、に?どういう事ぞ⁉︎グレインバルド!!」
「分からねぇ……情けねぇが、どうしようもなく、手がかりになればとここへ来た」
「ッ!貴様がついてながら、なんたる体たらくだ!」

激昂するギルゼルトに、俺は返す言葉がない。

「子供も消えた……ネア、イヴァンと一緒に」
「イヴァン?……オルガ、、ラゼルの子飼いか?アレは、サラタータの公子との戦いで敗れて消えたはずでは?」
「の、はずなんだがな。何故か、生きてる。声やら記憶やら、一切無くしてはいるようだが……」
「訳が分からぬぞ。一体、どうなっておる?」

俺が聞きたいくらいだ。
溜め息しか出ない。

「さっきも言ったが、何も分からねぇんだ!だが、一つはっきりしてんのは、神絡みだって事だ」
「神……女神か?」
「……それも確かめる為に来た。ここなら、あのクソ女に接触できる」
「それはそうやも……だが、どうやって?呼び出し方なぞ、我は知らぬぞ?」
「いや…大丈夫だろ?ーーーーーー」

俺が言うと同時に、空間が歪む。

キィィンっという澄んだ高い音、柔らかな甘い花の香りと一緒に、可愛らしいが不機嫌丸分かりな声が響いた。

『聞こえててよ?女神の私を”クソ女”呼ばわり?相変わらず、可愛くない子ね。グレインバルド!』









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

半魔の竜騎士は、辺境伯に執着される

矢城慧兎@中華BL完結しました
BL
【2巻発売中】 「お前が私から盗んだものを返してもらう。それまでは逃さない」 ドラゴンの言葉がわかるチート能力のおかげでかつては王都の名門「飛竜騎士団」に所属していた、緋色の瞳を持つ、半魔の騎士カイル。――彼は今、飛竜騎士団を退団し田舎町でつつましやかに暮らしている。 ある日カイルははかつて恋人だった美貌の貴族アルフレートと再会する。 少年時代孤児のカイルを慈しんでくれたアルフレートを裏切って別れた過去を持つカイルは、辺境伯となった彼との再会を喜べず……。一方、氷のような目をしたアルフもカイルに冷たく告げるのだった。 「お前が私から盗んだものを返して貰おう」と。 過去の恋人に恋着する美貌の辺境伯と、彼から逃れたい半魔の青年の攻防。 ※時系列的には出会い編→別離編→1巻、2巻となります。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

【現代BL賞】6番目のセフレだけど一生分の思い出ができたからもう充分

SKYTRICK
BL
幼馴染のド怖モテ攻めに長年片想いしているド真面目平凡受け。 ☆第11回BL小説大賞現代BL賞受賞しました。ありがとうございます! 地味でド真面目くんと呼ばれる幸平は、子供の頃から幼馴染の陽太に恋をしている。 陽太は幸平とは真逆の人間だ。美人で人気者で恐れられていて尚好意を抱かれる煌びやかな人。中学の半ばまでは陽太と仲良く過ごしていた幸平だが、途中から彼に無視されるようになる。刺青やピアスが陽太の身体に刻まれて、すっかり悪い噂が流れるようになった陽太。高校もたまたま同じ学校へ進学したが、陽太は恐れを受けながらもにこやかな態度から、常にセフレが5人いるなど異次元のモテを発揮していた。 幸平とは世界が違いすぎて話しをする機会は滅多にない。それでも幸平は、陽太に片想いし続けていた。 大学は進路が分かれている。卒業式に思い切って告白を決意した幸平は、幸運にも6人目のセフレへと昇格した。 少しでも面倒に思われないよう『経験はある』と嘘をつき、陽太と関係をもつ。しかしセックスの後陽太に渡されたのは、一万円札だった。 虚しい思いに涙を滲ませながらも、その後もセフレを続ける幸平だが——…… すれ違い幼馴染の片思いBLです。 微エロもエロも※付けてます 一言でも感想いただけると、嬉しいですし、励みになります!

完全犯罪

みかげなち
BL
目が覚めたら知らない部屋で全裸で拘束されていた蒼葉。 蒼葉を監禁した旭は「好きだよ」と言って毎日蒼葉を犯す。 蒼葉はもちろん、旭のことなど知らない。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

おちんぽフルコースを味わってとろとろにラブハメされるおはなし

桜羽根ねね
BL
とんでも世界でとんでもフルコースを味わうおはなし 訳あり美形キャスト達×平凡アラサー処女 十人十色ならぬ六人六癖。 攻めが六人もいると、らぶざまえっちもバリエーションがあって楽しいね。 以前短編集の方に投稿していたものを移行しました。こんなところで終わる?ってところで終わらせてたので、追加でちょっとだけ書いています。 何でも美味しく食べる方向けです!

処理中です...