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第三部3章 思惑の全能神と真白き光の眠り姫 編
6.女神、帰還への序章③
しおりを挟む闇黒の塔……
まさか、再び訪れる羽目になるとは……
塔全体は、あの時とは違い、今は澄んだ静寂に包まれていた。
入り口の門は硬く閉ざされている。
最初に来た時は、ディオンの転移魔導で、塔のど真ん中に落とされたから、ここは通ってない。
試しに、門へと手を伸ばす。
バチィッと、鋭く手が弾かれた。怪我というほどもないが、指先がビリビリし、腕がジンと痺れる。
「結界……まぁ、そうだろうな」
すんなり塔へ入れるとは思ってない。
一度、呼吸を整え、手の平を結界へと向ける。
魔導の属性を、水から闇へ……
結界の表面が、波紋を描くように揺れていく。
魔導が逆巻き、グッと力を込めると、人一人通れるくらいの隙間ができた。
すかさず体を滑り込ませる。
「ッ………!」
クラッと一瞬体が揺らぎ、手の平で顔を覆い目を閉じた。
魔導変異はまだ慣れない。
闇魔導は光と同じく扱い難いと知っていたが……
口惜しいが、完全に使いこなせない以上、多用は禁物か…
眩みが治まり、肩で大きく息を吐き、顔を上げた。
塔の中は様変わりしていた。
キラキラと、黒みがかった透き通る石の標柱で全てが覆われている。
石は全部魔鉱石。まさに圧巻だ。
「闇の波動が漏れねぇように、か?すげぇな…」
「そこに居るは誰だ?」
カツンと石床を歩く足音が響き、誰何の声で視線を向けた。
漆黒の髪を揺らし、訝しげに現れたルビーの瞳が驚愕に見開かれた。
「グ、レインバルド⁈其方、何故、ここに居る⁈」
「ギルゼルト」
初代、女神の闇の魔導ギルゼルト。
アヤの転生前、初代、女神の光の魔導アルシディアを愛し、失った事で邪神に付け込まれ、闇堕ちした魔導だ。先の戦いで闇堕ちの軛から解き放たれ、本人の希望もあり、悔恨と戒め、懺悔の意味も込め、女神アウフィリアにより、この塔へ封ぜられた。
「ここは闇の生を生きる者がおりし、愚者の塔…光の生を生きし者が来る場所にないぞ?何故、かような所へ……」
「止むに止まれねぇ事情だ」
「何?」
訝るギルゼルトに、俺は重苦しく口を開く。
「アヤが……消えた」
「な、、に?どういう事ぞ⁉︎グレインバルド!!」
「分からねぇ……情けねぇが、どうしようもなく、手がかりになればとここへ来た」
「ッ!貴様がついてながら、なんたる体たらくだ!」
激昂するギルゼルトに、俺は返す言葉がない。
「子供も消えた……ネア、イヴァンと一緒に」
「イヴァン?……オルガ、、ラゼルの子飼いか?アレは、サラタータの公子との戦いで敗れて消えたはずでは?」
「の、はずなんだがな。何故か、生きてる。声やら記憶やら、一切無くしてはいるようだが……」
「訳が分からぬぞ。一体、どうなっておる?」
俺が聞きたいくらいだ。
溜め息しか出ない。
「さっきも言ったが、何も分からねぇんだ!だが、一つはっきりしてんのは、神絡みだって事だ」
「神……女神か?」
「……それも確かめる為に来た。塔なら、あのクソ女に接触できる」
「それはそうやも……だが、どうやって?呼び出し方なぞ、我は知らぬぞ?」
「いや…大丈夫だろ?ーーーーーー」
俺が言うと同時に、空間が歪む。
キィィンっという澄んだ高い音、柔らかな甘い花の香りと一緒に、可愛らしいが不機嫌丸分かりな声が響いた。
『聞こえててよ?女神の私を”クソ女”呼ばわり?相変わらず、可愛くない子ね。グレインバルド!』
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