409 / 465
第三部3章 思惑の全能神と真白き光の眠り姫 編
6.女神、帰還への序章①
しおりを挟む『あ、あ、あああぁあぁぁーーーーーーーーッ!!』
悲鳴というには生ぬるい。ほとんど、咆哮とも言えるとてつもない叫びが喉から迸った。
体中が業火に包まれたかのように熱い。
見開いた瞳が紫と白の明滅の光に煙る。
「アヤっッ!」
名を呼ばれた。油が切れた機械仕掛けのようなぎこちなさで、呼ばれた方へ顔をゆっくり向けていく。
『バ、ル、ド』
俺の口から出たのは、およそ、俺の声じゃない。
涙が溢れていく。
「アヤ、魔導を静めろ!このままじゃ、暴発する!」
『ム……リ、、カラダ、言ウゴ、ト…キカ、、』
苦しくて顔が歪む。
震える声で言った俺の目尻の辺りで、プツンと何かが切れたような音がした。
頬を伝うそれが、途中から硬い感触に変わったのを感じた瞬間、目の前が一瞬でブラックアウトした。
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
目の前で起きた光景に、呆然と立ち尽くす。
煌めく紫色の小さな欠片が散らばる地面。
恋人で伴侶……唯一の光。絶対的存在が居た。
その場所に居たはずだった。
「アヤ?アヤ!?アヤーーーーーーッッ!!!!!馬鹿、な!」
目の前で消えた。
煙のように、溶けるかのように消えた。
体が震えだす。自分の手の平を見下ろした。
先程まで、この腕の中にあった存在がない。触れた肌の感触も冷めやらない手が、カタカタ震える。
「殿下ッ!」
不意に呼ばれ、そちらへ目をやると、青褪めた顔でユフィカが走ってくる。
「殿下!アヤの……アヤと殿下のラァムの実が消えました!!」
「なっ!?」
目を見開く俺に、ユフィカが両手を合わせて震える。
「ユフィカ!どういう事だ!?」
「も、申し訳、ありません!僕も、何故とか分から、なくて……」
「分からない?!分からないってのは何だ!?」
ユフィカが悪いわけではない。分かっていても、目の前で伴侶が消え、ラァムの実まで消えたとなれば、俺の感情も益々苛立つ。
怒りで目の前が真っ赤に染まりそうだ。
ビリビリと魔導が揺ら立つ。尖っていくそれに、ユフィカがビクリと震えて泣きだす。
後ろから些か乱暴に肩を掴まれた。
「落ち着け、グレインバルド!詳しくは知らぬが、人の弟を責めるな!」
険しい顔のラトナに制され、ギリリッと奥歯を噛み締め、一度目を閉じ息をゆっくり吐く。
目を開けながら、魔導を落ちつけていった。
「手を離せ…ラトナ」
「……………」
感情を押し殺し、ゆっくりと言い放つ俺に、ラトナが無言で肩を掴んだ手を離す。
ラトナがユフィカに歩み寄り、優しく肩を抱く。
ヒックヒックとしゃくりあげて泣くユフィカに、頭に上った血が冷めた。
アヤがこの場にいれば、おそらく烈火の如く怒ったであろう光景だ。
「許せ……」
「………申し訳…あ、ません。で、んか」
「ひとまず屋敷へ……ここでは落ち着けんし、埒があかん」
ラトナに言われ、屋敷に入った。
ゆっくり落ち着いている場合じゃねぇが、だからといって感情に任せても何も解決しない。
部屋のソファにユフィカを座らせ、隣にラトナが座る。俺も向かいの席に座った。
「何があった?先程の異様な魔導の波動と、恐ろしいほどの揺らぎに関係するか?」
「………アヤが、消えた」
「何?!どういう事だ!?」
「分からねぇ…目の前で、急に…魔導が溢れ出したと思ったら…」
触れて触れられてた存在が、忽然と姿を消した。
「………ラァムの実も」
「ユフィカ?」
両手をぎゅっと握りしめ、すんすんと鼻を啜りながらユフィカが口を開く。
「子供たちが見てる前で消えたって……ネアも」
「何?!イヴァン……ネアも一緒にか?」
「はい……急に浮き上がったラァムの実を、ネアが慌てて引き止めようとして、一緒に消えたようです」
ネア…イヴァンもとなると。偶然か?
どちらにしても、今は確かめる術がない。アヤと子供を取り戻すのが先決。
「グレインバルド。どうする気だ?」
「塔へ行く」
「何?」
「ギルゼルトのところへ。あそこから、女神に接触できる」
2
お気に入りに追加
2,208
あなたにおすすめの小説
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
半魔の竜騎士は、辺境伯に執着される
矢城慧兎@中華BL完結しました
BL
【2巻発売中】
「お前が私から盗んだものを返してもらう。それまでは逃さない」
ドラゴンの言葉がわかるチート能力のおかげでかつては王都の名門「飛竜騎士団」に所属していた、緋色の瞳を持つ、半魔の騎士カイル。――彼は今、飛竜騎士団を退団し田舎町でつつましやかに暮らしている。
ある日カイルははかつて恋人だった美貌の貴族アルフレートと再会する。
少年時代孤児のカイルを慈しんでくれたアルフレートを裏切って別れた過去を持つカイルは、辺境伯となった彼との再会を喜べず……。一方、氷のような目をしたアルフもカイルに冷たく告げるのだった。
「お前が私から盗んだものを返して貰おう」と。
過去の恋人に恋着する美貌の辺境伯と、彼から逃れたい半魔の青年の攻防。
※時系列的には出会い編→別離編→1巻、2巻となります。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
【現代BL賞】6番目のセフレだけど一生分の思い出ができたからもう充分
SKYTRICK
BL
幼馴染のド怖モテ攻めに長年片想いしているド真面目平凡受け。
☆第11回BL小説大賞現代BL賞受賞しました。ありがとうございます!
地味でド真面目くんと呼ばれる幸平は、子供の頃から幼馴染の陽太に恋をしている。
陽太は幸平とは真逆の人間だ。美人で人気者で恐れられていて尚好意を抱かれる煌びやかな人。中学の半ばまでは陽太と仲良く過ごしていた幸平だが、途中から彼に無視されるようになる。刺青やピアスが陽太の身体に刻まれて、すっかり悪い噂が流れるようになった陽太。高校もたまたま同じ学校へ進学したが、陽太は恐れを受けながらもにこやかな態度から、常にセフレが5人いるなど異次元のモテを発揮していた。
幸平とは世界が違いすぎて話しをする機会は滅多にない。それでも幸平は、陽太に片想いし続けていた。
大学は進路が分かれている。卒業式に思い切って告白を決意した幸平は、幸運にも6人目のセフレへと昇格した。
少しでも面倒に思われないよう『経験はある』と嘘をつき、陽太と関係をもつ。しかしセックスの後陽太に渡されたのは、一万円札だった。
虚しい思いに涙を滲ませながらも、その後もセフレを続ける幸平だが——……
すれ違い幼馴染の片思いBLです。
微エロもエロも※付けてます
一言でも感想いただけると、嬉しいですし、励みになります!
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
おちんぽフルコースを味わってとろとろにラブハメされるおはなし
桜羽根ねね
BL
とんでも世界でとんでもフルコースを味わうおはなし
訳あり美形キャスト達×平凡アラサー処女
十人十色ならぬ六人六癖。
攻めが六人もいると、らぶざまえっちもバリエーションがあって楽しいね。
以前短編集の方に投稿していたものを移行しました。こんなところで終わる?ってところで終わらせてたので、追加でちょっとだけ書いています。
何でも美味しく食べる方向けです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる