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第三部2章 消える魔導 双生の煌めき編
3.旦那さま奮戦!生まれ来る子は実は……?!①
しおりを挟む「ジェス!ジェス=イェガル、居るか?!」
クレイドル王城、騎竜舎。
舎内に入り、声を張り上げた俺の声に反応するよう、奥からバタバタと慌てふためいたような足音が聞こえてくる。
「は、は、はい!い、居ます、です!」
上衣を羽織りながら、半分ずれた眼鏡もそのまま。頬杖でもついていたのか、頬に軽く赤い跡をつけたまま転びそうになりながら走ってくる。
「走らんでいい。何もないとこでコケて怪我されても困る」
ワタワタと更に体裁を整えようとするが、どうにもこうにも、わちゃわちゃ感が拭えない。
「え、っと!し、失礼しました!殿下!ご、御用むく……む、むきは、如何に?如何で、かな?」
「……………………」
ハァ~……相変わらずだ。
やや呆れ気味に、目の前の青年を見る。
焦げ茶色の髪に、同色の瞳。ソバカスの浮いた顔に、丸い眼鏡。体は小柄でヒョロヒョロ。ともすれば、冠の儀前に見えそうだが、これで二十の歳だというから未だ信じられない。
騎竜を扱わせたら、クレイドルでも三本の指に入ると言うから、益々、人は見かけでは~の典型だ。
「オーディリアはどうだ?」
「はい!番いの受け入れは無事終わりましたです!卵は三つ。一つは漆黒の殻、黒竜間違いなしです!はぁ~…楽しみなのです」
「そうか。なら、いい」
うっとりするジェスに、苦笑を禁じ得ないが、今はそれより……
「オーキッドは?」
「妃殿下様の騎竜ですか?え、っと、はい。番うのは終わって、今は竜舎にいますです、が?…あ!で、殿下?!」
訝るジェスに構わず竜舎の奥へ。
竜房の中にいる一頭の騎竜。
オーキッド。
白に近い銀色の体。水竜と雷竜の混合種。
もともと、純血種は気難しく扱いづらいのだが、混合種はそれに加え気性が荒いときている。が、丈夫で一度馴れてしまえば忠実。
オーキッドは、竜種の中でも特に気性の荒い雷竜の血が入っている。何処かの小国が献上してきた竜だが、とにかく誰一人扱えず持て余していた。
俺自身、振り落とされた事があり、竜舎の片隅でずっと孤立してたのが、どういうわけかアヤに初対面から懐いた。
今は、乗せるのはアヤとファランくらいか。
「オーキッド」
呼びかけると、一応ついと視線は寄越す。
人に一度は膝を折った竜、それが騎竜だ。だから、過剰な反抗はしたりしない。が、自尊心は捨てたわけではない為、おいそれと従ったりもしない。
「相変わらずか…が、今はそれどころじゃない。アヤの、お前の主人の大事だ。魔大陸まで行く」
アヤの名に、オーキッドがピクリと反応する。
竜は知性がある。ある程度はこちらの言う言葉を理解もする。
グルと小さく鳴き、目を伏せた。
「柵の解呪を」
「殿下?!あの、オーキッドは……」
「言われた通りにしろ」
「で、ですが……!」
しどろもどろに、おたおたするジェス。俺がオーキッドに振り落とされた事は知っているからだろう。
「ジェス。命令だ。オーキッドを出せ」
「うっ……ッ!わ、分かり、ましたです」
ジェスが首から下げた首飾りを外す。親指ほどの長さの、懐剣のような飾りがついたそれを指で摘んだ。
左手の平を、オーキッドの竜房に向けると、方陣が出現した。
『術式解呪!』
方陣の真ん中に飾りを差し込み、言葉を発すると、オーキッドの竜房の前を塞ぐようにあった、透明な壁のようなものが消えた。
「相変わらず、見事な腕だ」
「お、恐れ入ります、です!」
騎竜は一頭ではない。数十頭はいるそれを、ジェスは一人で抑え込んでいる。
ともすれば、竜は元来獰猛な生き物で、こちらが隙を見せれば攻撃し、自由の身になろうとする。そんな竜の放つ魔導を、ジェスは一人で受け跳ね返している。
目の前のヒョロい青年が…………
「オーキッド。アヤと俺を乗せて、魔大陸の…犬狼族の元に運べ」
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