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第三部2章 消える魔導 双生の煌めき編

2.消える魔導の行方⑦

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「アヤっ!?」

強い魔導の揺らぎを感じ、寝台から飛び起き隣室へ。ソファ側に倒れた細い体に、慌てて駆け寄る。
抱き起こすと、腕に布に包まれたラァムの実を抱きしめたまま意識を失っている。
白く血の気の失せた頬に手を当てた。
冷たい。
いつもは柔らかく温かい肌が異様に冷たい。息はしている。が、あまりにも弱いそれに、ゾッと、俺自身の血が冷えていく。

「アヤ?アヤ、アヤっ!!」

手の甲で軽く頬をピタピタ叩くが、瞼はおろか体さえピクリともしない。
とりあえず抱き上げ、寝室へ行く。厚手織の敷布を剥がし、アヤの体を包み込む。
魔導感知で探ると、魔導がかなり減っていた。おそらく、魔導の急激な低下による防衛本能か。体が守ろうと深い眠りに……
しかし……

どういうことだ?ここまで魔導が極端に減るとは…
それに……

「何でラァムの実を……?」

いまだしっかり抱きしめたまま。起きだしてから、俺が異変に気付くまでの間に何かあったのは間違いない。
魔導に関してなら、ファンガスかルースに聞くのが早い。が、それには…

「一度、戻らなきゃならんな」

ナ・コルテスからクレイドルに戻る必要がある。貴妃の問題は、大義名分をつくったのでおいそれと言及はされないだろう。ただ、あの宰相大臣古狸どもの事、簡単に引き下がるとは思えない。
別にあんな老いぼれどもを恐れてはいない。ただ、アヤを矢面に立たせたくない。
俺はいくら標的になろうが、攻撃されようが構わねぇが、を狙われんのは……
クレイドルの鋼の皇太子が、なんてザマだ。
大切なものを傷つけられんのが怖くて尻込みか?

「お前が見てたら叱りつけてくるとこだな……」

そっと抱き上げ部屋を出る。
アヤのいた世界ではなんと言ったか?

「あぁ……確か、”蜜月”だったか?もう少し、味わいたかったんだがな……」

愛しい嫁と、大切な子の大事だ。帰ってごちゃごちゃ言うようなら、たとえ越権行為と言われようが、あの老いぼれどもに一泡吹かせてやればいい。方法はいくらでもある。手段選ばなければ……

「誰にも、誰か一人に入れ込んだりしなかった俺に…ここまでさせるとはな」

出逢ってから今の今まで、こんなに手をかけさせられたのはこいつだけだ。
腕の中、意識なく眠るアヤを抱き直した。

            *
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            *
            *

部屋の中。困ったように笑うヒゲの老人と、呆れたような表情のムキムキの大男。

「突然、城を空けると言ったり戻ったり。事情があるのは分かったけど、ついて行けないわ、殿下」

ムキムキの大男、ルースが頬に手を当て溜息をつく。

「文句は古狸どもに言え」
「やぁ~よ!メンドくさい」

顔をしかめるルース。俺だってあいつらの相手は面倒くさいから嫌だ。

「殿下。今はそれより、アヤ様の事が先決ですじゃ」

ちょこんと座る、こじんまりしたヒゲの老人、ファンガスの言葉に目的を思い出した。
あの後結局、クレイドルに一度戻ると決めてからは怒涛で、猊下と太后様に話すと、『転移方陣使えばいいじゃない』という太后様のけろっとした言葉のままに、数刻もしない間にクレイドルに戻り、今に至る。

「ファンガス、どうだ?」
「見た限り、魔導がかなり減っておりまする。魔導は生命力にも直結せしモノ。生命の危険を感知し、アヤ様の体が無意識に深い眠りにつく事で守ろうとしたようですのぉ…」
「殿下もだけど。アヤちゃんの魔導量はかなり多いの。それがこんなに減るなんて…何があったの?」
「分からん…異変を感じた時にはすでにこうだった」

腕に抱いたままのアヤを見下ろすが、瞼は閉じたまま。

「殿下。アヤちゃんが腕に抱き抱えてるの……」
「あぁ。まぁ、一応~……あれだ」

の事については、話はしてある。聞いてはいても、見るのは初めてだから、ルースが繁々眺めている。

「不思議ねぇ~……これが、赤ちゃんになるの?」
「あぁ……まぁ、そう、みてぇだな」
「どういう仕組みなの?」
「よく、分からん……」
「何、それ?いろいろ聞いたんじゃないの?」

何やら不満そうに言うルースに、些か閉口する。

「うるせぇな。俺が犬狼から聞いたのは、手順踏んだら、後はひたすらヤる事ヤれってだけだ!」
「ヤる事って……やぁ~~~だぁ~~~!殿下ったら最低~~~!だからアヤちゃん、ツヤツヤしてる割にはやつれてるのねぇ~。殿下の精力で、所構わずズコバコしてたら、アヤちゃん壊れちゃうわぁ~~」
「……………………」

こいつは……もう少し言い方ってもんがねぇのか?何て言い草だ……俺は一応、皇子で皇太子だぞ?

「人系とは言っても、やっぱり犬狼も魔物でケダモノね。言う事やる事、本能に忠実だわ」

呆れたように言うルースの言葉で、ハッとなる。
そうか……

「犬狼……実の事なら奴らに聞くのが最善」

ラァムの実の事は、犬狼族、ラトナたちに聞くのがいい。

「ファンガス。アヤの状態はどうだ?」
「魔導の少なさ以外は正常にて。今は眠る事で回復をはかっておいでですじゃ。問題はなかろうかと…」
「原因は分からねぇが、別状なし…なら、いい」

アヤを抱き上げる。

「行くトコができた。ジャマしたな」

さっさと部屋を出る。

            *
            *
            *

「お師様?なぁ~に、難しい顔なさって」
「うぅ~…む。双生の煌めき、か……はて、吉とならんや、凶となりや、じゃの」
「???」









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