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第三部2章 消える魔導 双生の煌めき編

1.恋する女の子の恋路は応援したくなるもので②

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「バルド!」

部屋の入り口。いつの間に来たのか、腕を組み立っている。

「入っても?」

伺い立てられ、どうぞと席をずらして場を空けた。俺の隣に座るバルドを、イザベルが申し訳なさそうに見やり、泣き顔が恥ずかしいのか、サティ様に縋り付いて隠す。
バルドもそこは紳士らしく、見ないふりで微苦笑し、サティ様のみに顔を向けた。

「グレインバルド。先程の言葉は、あなたが後見となってくれると、そう捉えても?」
「えぇ。その方が話が通りやすいかと」
「そう……えぇ、そうね。その方が通しやすいわね」

バルドとサティ様でさくさく話を進めてく。けど……
俺、まったくさっぱりなんですけど?
横から、バルドの服の裾を摘み、ツンツンしてみる。

「俺にも分かるようにして」
「起きたら話すつもりだったんだがな?部屋から勝手に抜け出したのは誰だ?」
「そ、れは……だって」

三日三晩、俺を好きにしたのは誰だよ?
してもしてなくても、ずっと腕に囲ったまま離してくれなかったのは、おうぢ様ですよぉ~~?!
そんな状態で、起きたら話をなんざ信用できねぇし、話をするとも思わなかったし……

「あなたに任せたらアヤは愛情過多で壊れてしまいますよ?話をする前に、アヤを可愛がりたい方が先立って、進む話も進まなくてよ?そうでしょ?」
「お祖母様……」

俺を窘めたバルドが、逆にサティ様に窘められた。図星なのか、バルドが苦虫を噛み潰したように渋面に顔をしかめる。

「十八で再興と家督を継ぐっていうのは?」
「イザベルはアウスレーゼ家の一人娘よ。アウスレーゼはナ・コルテスの三公の一つ。直系はイザベルしかいなくて、十八まで縁談がまとまらなければ、イザベルの意向次第で再興と家督を継ぐというのを遺言として受けているわ」

イザベルが生家を継ぎたいって言えば継ぐことが出来るって事か。

「養女となったからには抜けられないのでは?」
「貴女は友人からの大切な預かりもの。養女となったからといって、貴女の意思を無視して縛り付けたりなどしないわ。アウスレーゼに戻りたければそれでもいいのよ?もちろん、そうなったからといって、貴女は私の可愛い大切な孫に変わりないわ」
「お祖母様……」

ニコと微笑むサティ様に、イザベルが嬉しそうに抱きつく。
美しい絵だ。

「バルドが後見になるのが都合いいみたいに言ってたのは?」
「俺の貴妃候補に挙がって落ちたというよりは、俺が後見となる為の話が進んでいたと、すり替える方が誤魔化しが効く。貴妃の話は何処ぞの誰かが勘違いしたとした方が、まだ多少なりと強引にでも話を捻じ曲げられるしな」

政治が絡んでいるのか?
王侯貴族って、対面も考えなきゃいけないからな……
あれ?そういえば………

「俺とイザベルを襲った連中って……?」
「アルヴィース=ノットの事か?すでに捉えて投獄してある。三公の一つ、権力はあっても例外はない」
「イザベルを害そうとしたから……」
「アウスレーゼは三公中、最も位が高い爵家だったからな。断絶したはずの家名が再興し、再び力を持つのを恐れたんだろ。クレイドルに取り入ろうとも目論んでいたようだ。が………」
「?」

バルドがついと視線を寄越す。
何で、俺を見るんだ??
ハァッと溜め息をつかれた。
えぇええぇぇ?!何だよ、その態度。

「エレノアは……どうなりますの?」

おずおずと聞くイザベルに、バルドが視線を向けた。

「エレノア=マリエールの事か?聞いてどうする?」

おそらく、あの馬鹿弟が言ってた、ノット家の娘。バルドの貴妃候補の名だろう。
本人関与してたかしてないかは知らないけど、弟のしでかしたことに巻き込まれた形だ。

「バルド……」

呼びかけると、イザベルに向けたのより和らいだ視線を寄越された。
いや…別にいいが、女の子にはもっと優しくしようよ。

「近々、修道院に行くそうだ。弟がやった事を受けて、との事だ」
「それって……」

修道院って……尼寺的な?自ら進んで行くとは……

「アヤ、理解しろ。王族、それに連なる者に手を出す、出した上で失敗するとはそういう事だ。今回は、手を出した相手が悪すぎた。俺は、俺のモノに手を出す奴は、誰であろうと許さん!」

王侯貴族に手を出すと、たとえ本人関わってなくても責任が生じるんだな…
今回は、バルドのモノに手を……………………………
バルドの、

「え?え、、っと~……」
「分かったか?クレイドル皇太子の妃に、ましてや、女神の魔導の中でも、最も稀有で神聖なお前に仇成したんだ、処分は妥当。ノット家は爵位取り上げ、領地並びに財産の没収、家名断絶。向こう五代までは再興は許されん。まぁ、ここまでされたら、再興は二度と叶わん」

ひ…ひぇええええぇぇーーーーーーー⁈
こ、こ、怖すぎるッ!
えぇええぇぇ!!俺、権力ありまくりじゃね?!
一応、バルドの伴侶って事にはなってるけど……俺自身、宙ぶらりんな立場なのに…何か、名前や権力だけが一人歩きしてる……
暗くなりかけた気持ちを振り切り、イザベルに笑いかけた。

「と、とりあえず、生家に戻れたら兄妹じゃなくなるし、ユリウスに気持ち伝えられる。良かったな?イザベル」
「えぇ……ありがとう、アヤ」

ニコとややはにかみながら笑う。

うん!勝ち気っ娘がデレたね!可愛い♡

テレッと笑うと、バルドにグイッと引き寄せられた。
ジェラシーおうぢ様、誰彼構わず妬くのやめろよ……
まぁ、悪い気はしねぇけど……

「ところで、お祖母様。アヤを相手に何を?」
「衣裳選びよ」

衣裳?俺の服とは言ってたけど、衣裳とは??
困惑する俺とバルドに、サティ様がふんわりニッコリ微笑む。

「えぇ。アヤちゃんと、グレインバルドの婚礼の為にね」









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