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第三部1章 嫁取り騒動再発 逃避の蜜月編
5.想い合うが故に……何か違う???①
しおりを挟む「……っ…と!ち……っと!ちょっと!!」
「うっ!つっ!……ったたたぁ!」
バシバシ叩かれ、痛みに呻きながら覚醒した。
薄ぼんやりと目を開けると、イザベルが目をキリキリさせて俺を睨みつけていた。
「ここはどこですの?!何で、貴方がいるの?!」
いや、いきなりそんな事言われても…………俺だってここがどこなのか知りたいし、第一、何がどうなってんのか、さっぱり分からん。
ゆっくり体を起こし、周りを見渡す。
干し草やら農具やら、どこかの納屋らしき場所。
「……何で、こんなとこに?」
「私に聞かないで!二人きりで会いたいって、伝言貰って、庭園に行ったまでは覚えていますけど……気がついたらこんな場所で。一体、何でこんな場所にいるんですの?!」
イザベルがツンツンけんけん噛み付いてくる。言葉の中にあった、『二人きりで会いたい』に、少しイラッとする。
やっぱり……イザベルを貴妃に?
問いただしたいけど、今はそんな場合じゃない。
庭園での事を思い出し、ハッとなる。
仮面の男たち……あいつらは一体?
それに………………
「イザベル……」
「何かしら?アルシディア様」
「……できれば、アヤって呼んで」
「…………別に呼び方なんて……まぁ、いいですわ。で、何ですの?」
どうでも…よくはないが、何でこの子こんなに俺につっかかるんだ?バルドの貴妃候補だからってのもあるだろうけど、それにしては……
「アヤ様?」
「あ、あぁ……伝言って誰から受けたんだ?」
「侍従ですわ。二人きりで会いたいから庭園に来て欲しいという内容でしたわ…私、嬉しくて。だから、参りましたのに……」
「庭園についてからの事は?何か見た、とか?」
「覚えていませんわ。首の後ろに痛みを感じたのが最後で、気がついたらこんな場所ですもの。隣に貴方がいらして驚きましたのよ」
イザベルは何も見てない。俺が見た、仮面の男たちや、あの暗いシルバーの………
暗いシルバー?
「ちょっと、まてよ。暗いシルバーって……」
今、その髪色が当てはまるのは二人だけ。
一人はバルド。
だけど、バルドがこんな事する訳ないし、する理由もない。
じゃあ、もう一人……ーーーーーーーー。
「イザベル。ユリウスって、イザベルのお兄……兄上だよな?」
「…………そうですわ」
「ユリウスは、イザベルを妹として大切にしてる?仲はいい、のか?」
「ッッッ!!何が仰りたいの?!そのような事聞く意味は何ですの!?」
イザベルが目を怒らせ、俺を睨む。
イザベルの態度からも、そうとう、ユリウスを慕っているのが分かる。
第一、ユリウスにも理由が思い当たらない。
訳分かんなくなった。
「嫌いですわ……」
「えっ?」
イザベルがポツリと言い、聞き返す。
キッと顔を上げ、涙目で俺を睨む。
「私、貴方が嫌いですわ!!私の大切なものを奪おうとする人なんかッッッ!!!!!」
突然の嫌い宣言に呆気に取られる。
いや、むしろ、俺からそれ奪おうとしてんのこの子なんだけど?
ここ、何日か。俺は、君が言うところのバルドから放っておかれてんだけど?
「どうやらお目覚めのようですね?」
「っっ!!」
不意に後ろからかけられた言葉に、俺は慌てて振り向く。
戸口を背に、男が四人。いずれも仮面をつけている。
暗いシルバーの髪の男はいない。
俺が見間違えた?それとも、五人とか?
「あの場は仕方なく連れてきたが、お前は誰だ?」
一人だけ白い仮面に、青みがかった鉛色の髪、高価そうな装いの男が口を開く。男たちの中で、おそらく、こいつが権限を持つのだろう。
「人に尋ねる前に自分が名乗れよ。それに、仮面つけたまんまで失礼じゃね?」
「無礼な奴め!この方にそんな口を……ッ」
「よい。どうせ、これから死ぬのだから、好きなだけ吠えさせろ」
憤った男の一人を、白仮面の男が制した。
「死ぬ…ですって?!あ、貴方たちは、私に何をするつもりです!!」
声を震わせながらも、イザベルが気丈に言い放つ。
「何って…死んでいただきますよ?貴女が生きていては困るんです」
「なっ……!!」
「それは、この子がクレイドルの縁戚…イザベル=ユーリィエルと分かってての言葉か?」
イザベルの前を塞ぐように俺は移動した。
まぁ、好きなタイプの女の子じゃないけど。それでも、女の子は女の子。それに、強気に振舞ってても、声と体の震えは誤魔化せない。小さくカタカタ震えてんの見て、庇わなきゃ男が廃る!
「ぁ…………!」
口を開きかけたイザベルに、陰でこっそり合図を送り黙らせる。
相手の正体が分からない以上、俺に関する情報も伏せた方がいい。
もし、相手が俺の正体を知り退く小者なら良し。が、逆だったらマズい。
「勿論だ。イザベル=ユーリィエル嬢と分かっているから、こんな事をする」
「目的は?何の狙いもなしにこんな大それた事しないだろ?」
話をしつつ、さり気なく視線を回す。
出入り口は一つ。
白仮面の両脇を男が一人ずつ固め、出入り口を男が一人塞ぐ形。
納屋は朽ちくが激しく、所々腐って穴が開いている。
これなら……!
「目的、ね。知ってどうする?どの道、死ぬ運命のお前たちには関係ない」
クスクス笑う白仮面たちから少しずつ離れ、一番朽ちが激しい箇所を確認。
「なるほど……でも」
「??」
言葉を途中で途切らせた俺に、白仮面たちが訝しむ。それを見逃さず、後手に持っていた干し草混じりの土を投げ付けた。
「なッッッ!!!!く、くそッ!!」
「アルヴィース様ッッ!!」
男が案じたのか、白仮面の名を呼ぶ。
考えてる暇はない。隙ができた。
「イザベル!!」
「えっ?きゃあっ!!」
呆然としていたイザベルの手首を掴むと、俺は朽ちた壁板を思い切り蹴った。
バキッメキッという音と共に、壁板が外れ大穴が開き外が見え、俺はイザベルを連れそのまま外へと飛び出した。
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