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第三部1章 嫁取り騒動再発 逃避の蜜月編

2.覚悟

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出立は迅速、且つ、秘密裏に行った。

「一国の皇太子のやる事じゃねぇな。コソコソと逃げるみたいに…あの古狸ども!問題解決したらひと泡吹かせてやる!」

怒り心頭に怒るバルド。

う~ん……無理じゃねぇかな?

俺は、クレイドルで女神の光の魔導として、かなり神聖視はされてるけど、所詮はただの十代の男。
バルドの嫁取り問題を沈静化させる為に魔大陸まで行き、一度は鎮まったけど……
結局、あの宰相たちが納得するのは、自分たちの思う通りに事が運んだ時だけ。って事だもんな…

クレイドルを発ち、現在上空、騎竜の上。
ただし、オーディリアではなく、セレストの騎竜、ネレイドに、俺とバルドは乗っている。

「姫は大丈夫かな?」
「竜舎には専属の世話係もいるし、なんとかなるだろう。黒竜の産卵期は滅多に来ないからな。無理させるわけにはいかん」

バルドの騎竜、オーディリアは現在産卵期を迎えている。アーケイディア大陸においても数少ない黒竜。産卵期は滅多に来ず、今回は希少なそれがきた。
かなり神経質ナーバスになってるから、確実に交配をさせる為、今回は留守番。
つがいに選ばれたのは…………

「うまくいけばいいけど……オーキッド」

交配相手に選ばれたのは、俺の騎竜オーキッド。まだまだ年若い竜で、オーディリアの方がかなり姉さんになる。

「なるようにしかならんな。うまくいけば、帰る頃には卵に逢えるだろう」
「ナ・コルテスにはいつまで?」
「さて、な…なにせ、あの枯れた爺いども。年の割にしぶとくて執念深いからな。簡単には引き下がらんだろうし……」
「長くなりそうだから、二人だけで行くのか?」

俺の言葉通り、今回はバルドと俺の二人だけ。
ナ・コルテスは国境を越えたクレイドルの友国。バルドのお祖母さん、太后様の生国で、現役を引かれた前クレイドル国王、バルドのお祖父さんと今は一緒に住まわれている。

「それもある。前国王の膝元だ。古狸どもも滅多な事はできんだろうし…あまり、大所帯で押しかけるのも違うだろう」
「そうだけど……」
「うん?何かあるか?」
「いや……バルド、さ。一応、皇子で皇太子だろ?」
「一応じゃねぇが、そうだが?」
「いくら、友国って言っても、護衛もなしってどうなの?」

宰相たちが無茶をするとは言い切れないが、ただ黙ってるとも思えない。強引に連れ戻そうとする事だって考えられる。
まぁ、危害までとはいかなくても、荒っぽい事になるだろうと言う事は、想像に難くない。
俺の不安を他所に、バルドがクッと不敵に笑う。

「お前が不安になるほど、俺は頼りないか?」
「え…いや、そうじゃない、けど…」
「簡単にどうこうなるほど、弱くねぇよ。お前と、自分に降りかかる火の粉くらいは払える」

それは知ってる。
バルドは弱くない。城の護衛兵が束になってかかっても敵わないくらいに……
でも、それは相手が正攻法で来た場合。
もし、そうじゃなかったら…………

「あ!わっ?!」

暗く沈んで考え込んでたら、不意に体を引き寄せられ抱き込まれた。

「守られてろ。俺から離れるな」
「バルド……?」
「お前一人守るくらい、俺一人で十分だ」

静かに力強い言葉に、体から強張りが消えていく。
決して過剰とは言えないって分かってるから。

「分かってる。でも、バルドの事は俺が守るからな?」

俺が念を押すと、一瞬目を瞠り、バルドがクッと笑う。肩を震わせて笑い、ギュッと強く抱きしめられる。

「お前は……お前だけだ、俺が勝てんのは」
「バルドより全然弱いけど…」
「そういう意味じゃねぇよ」

意味が分からず首をかしげる俺の唇に、バルドが軽くキスを落とす。チュッと小さく鳴る音に、恥ずかしくて顔が熱い。

「よくできるよな?こういうこっ恥ずかしい事…」
「好きなら当然だろう?俺は触れたければ触れる。お前は俺のモノ。遠慮する必要があるか?」

はいはい。聞いた俺が馬鹿でした。
女の子といちゃいちゃラブラブは俺も憧れてたけど、まさか自分が同じ男とそうなるとは……ほんと、今もまだ信じられない。
しかも、恥ずかしいとは思っても、嫌だとは思ってないんだから…俺も相当感化されてるな…

「ナ・コルテスでは、ラァムの実を使う」
「は?え……それ、て?」
「古狸どもを黙らせる為じゃねぇよ。俺が、お前との子が欲しいからだ」
「ッ!!」

思いの外、真剣な顔と声音で言われ言葉を失う。

「アヤ」
「……な、に?」
「お前も、覚悟決めろ」
「バルド…………」

合わさった視線が逸らせない。
逸らす事を許されない。
バルドの視線が熱くて痛い。

もう……駄目なんだ。今のまま、温い水に浸かっているかのようには居られない。

誤魔化しはもう、効かない。

考えなきゃ、いけないんだ……ーーーーーーーーーー

そっと固く目を閉じた俺の耳の奥底に、バルドの言葉が静かに落とし込まれた。


「俺の、唯一の妃になる覚悟…そろそろ、受け入れろよ?」








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