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第三部1章 嫁取り騒動再発 逃避の蜜月編

*腕に抱かれた卵の見る夢

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プチエピソード      
アレイスターお兄ちゃんの話になります。ちょいとダーク入ってます。
興味ない方は飛ばして下さいm(_ _)m





謁見の間。玉座に座り、アレイスターは柔らかい布地に包まれたを腕に抱いていた。
国主が身につける服とは違い、今はゆったりとした寛いだ格好で、長い後ろ髪は緩く編み込まれ、前側に垂れ下がらせている。
豪奢な椅子に座り、あやすかのように体をゆっくり揺らす様は、一枚の絵を彷彿とさせる。
聖母のような柔らかい笑みを浮かべていたが、不意に何かを感じ、ニッコリと微笑んだ。

「動いた……」

小さく呟き、布地に包まれた卵の実に優しく口付ける。頬を寄せ、一度目を閉じ開く。

「今、動きましたよ?抱いてあげて下さい」

アレイスターは一人ではなく、傍には男が一人いる。歳は三十代後半。厳めしい見た目に、苦み走った渋さを称え、男らしさを兼ね備えている。
アレイスターの言葉にも、堅く引き結ばれた表情を緩める事なく、淡々と返す。

「私は近衛にて……玉体においそれとは触れられません」
「玉体なんて…まだ、生まれてもいませんよ?」
「なればこそです。万が一があります」
「貴方が傷付けると?」
「滅相もない」
「なら……」
「陛下」

男の呼びかけに、アレイスターが寂しそうに顔を歪める。
それを見て、男の表情が変わる。苦悩を秘め苛立ったような瞳でアレイスターを見つめ、苦しそうに眉をひそめ、アレイスターから目を逸らす。

「ヨシュア……」

アレイスターがそっと呼び、卵を玉座に置いて、ヨシュアと呼んだ男の胸に手を当て、そのまま体を寄せていった。
頬を胸に当て、縋り付くアレイスターに、ヨシュアの動きが凍りつく。

「私を…見て下さい。拒まないで…」
「陛、下…!」
「違う…!違います。そんな名前で呼ばないで…」

いやいやと首を振り、泣きそうな顔と声で訴える。
持ち上がりかけた手は空で止まる。ギリリと歯を食い縛り、痛みを堪えるかのような苦悶の表情のまま、ヨシュアが口を開く。

「セシル……」

セシルはアレイスターの継ぎ名だ。余程でもない限り呼ばれないし、呼ぶ事は不敬になる。
自分が許したそれをされ、アレイスターの顔が柔らかく嬉しそうに破顔した。

「ヨシュア…」
「離れて、くれ。駄目だ」
「何故?私が、嫌?嫌いですか?」
「そうじゃ……「ないですよね?だって……」

続けようとした言葉は、強引に体を離された事で途切れた。両二の腕を掴まれ、引き剥がされるように。
アレイスターの目が見開かれ、くしゃりと歪むと、眦から透明な雫が伝う。
あまりに美しい光景に、が、ヨシュアは唇を噛み締め、目を伏せる。

「ヨシュア……」
「求めないで、くれ。これ以上、求めるな」
「いやです…!」

二の腕を掴む手を振りほどき、アレイスターがヨシュアの胸に飛び込む。

「やめろ!離れろ、セシル。こんなのは駄目だ」
「駄目じゃないです。何が駄目なの?」
「全てだ!俺は側近の近衛、貴方はこの国の主。身分が違う!歳も十も離れている。それに、お亡くなりの正妃様…妹に申し訳ない」
「それは駄目な理由になりませんよ?私が嫌いなら理由になります。でも、そうじゃないなら……私を抱いたのだから、否定しないで…!」

弾かれたように顔を上げ、ヨシュアがアレイスターの顔を見、玉座に置かれた卵を見、苦しそうに顔を歪める。

「どうか、していた。貴き御身に触れるなぞ。不敬の極みだ」
「私が望みました。何も悪くありません」
「許されない……」
「私が許します」
「貴方が許しても…俺は、俺自身を許せない」
「じゃあ、誰に許しを請うのですか?!」

泣き濡れたアレイスターと視線が合い、ヨシュアが固く目を閉じる。

「頼む……泣かないでくれ。そんな目で…見るな」
「泣かせているのは貴方です。お願い…嫌いじゃないなら、抱きしめて」
「……困らせないでくれ」
「迷惑、ですか?今、貴方を求めているのも…国境警備から呼び戻したのも?」

アレイスターの問いに、ヨシュアは応えず背を向ける。溢れる涙を拭うこともなく、アレイスターがその背中に取り縋る。

「分不相応に、貴方の体をけがした。磔刑たっけいに処されてもなお足りないくらいの罪だ」
「私が命じました!」
「セシル…?」
「命じたのは、私。私を抱くよう、貴方に強要した。誰に聞かれても、私はそう答えます!貴方を害するのは、誰であろうと許さない」
「王権を、私的に使ってはなりません」

厳しく、言葉を改めて窘められ、アレイスターは叱られた子供のように萎れる。
伸ばした手は、届く前に体をさりげなく逃がされ空を掻く。

「ヨシュア……」
「お忘れ下さい。私は、元の国境警備に戻すのがよろしい……離れていた方がいい。お互いの為にも…」

軽く頭を下げ、ヨシュアがそのまま謁見の間を出て行く。
空で止まった手が下がる。
項垂れたアレイスターの目が、玉座に置かれたままの卵の実を映した。
涙に瞳を潤ませたまま微笑み、そっと抱き上げて椅子に座り、頬を寄せたアレイスターの耳に、トクトクいう鼓動が聞こえる。

「大丈夫ですよ……貴方の側にいてくれるようになります、絶対に……」

慰めるかのように、ほんわりと表面が温かくなった卵の実に、アレイスターは優しく口付ける。

「早く……私のところへ堕ちてきて…」

卵の実を抱きしめたまま、アレイスターはそっと囁き瞳を閉じた……ーーーーーーーーーーーーーーーーー








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