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番外編② 恋の調べ〜側にいる者たちに吹く風は〜
*素直になるにはどうしたらいいの?④
しおりを挟む「何で……嘘ついてまで逃げたのに、戻った?」
「イアン……」
真剣な眼差しに、逸らすことが出来ずにセレストは固まる。
嘘や誤魔化しは効かないと判し、溜め息ついた。
「お前が、そういうのも込みで、俺と本当になりたがってるのが分かってたからだ」
「怖かったから、逃げた。だろ?嫌だったから…」
「違うッッ!!あぁ……いや、違うけど違わないというか……嫌な、わけじゃなくて。怖かったからもそうだけど……俺の覚悟が足りなかった」
「って、いうと?」
「お前は、それくらい真剣に俺を思ってるのに、俺はどうだろうって思って……」
「それは……」
「勘違いするな。今更、お前との関係を無しにするとかではない。ただ………」
「ただ?」
強いイアンの眼差しに、直視できず僅か視線を逸らす。
「ちょっと、時間が欲しく、て………」
「時間ってぇのは?」
「お前、を…………そ、の…………れる、時間が」
「うん?」
「~~~~~~~~~!お前を、受け入れるのに覚悟する時間だ!!言っておくが、俺はそういうの込みで誰かを好きになった事も、付き合った事もない!なかった!!全ッッ部!お前が初めてだッッ!緊張しても仕方ないだろ?!覚悟決める時間くらいくれてもいいだろうがっ!それを、あんないかにも何かあります的な約束取り付けて、こっちがちょっと引いたら話も聞かず…………ッッ?!」
手首を掴まれ引き寄せられ、セレストはイアンに抱き竦められた。
体格のいい体、腕の中にすっぽり覆われる。
「悪ぃ……焦って、お前の事考えてなかった」
「何だ、焦るって?」
「だってよ~…お前、ほんっと!人気あんだもんなぁ。口開けば冷たくてきっつい事平然と言うけど…面倒見は良くって、でもそれをひけらかさなくって…美人で根は優しくって。恋人としちゃ、嬉しい限り、自慢にはなるが……逆に、誰かに取られやしないかって、不安にもなる。だから、さ……丸ごと全部欲しかった」
「……………………馬鹿」
小さく呟いたセレストの言葉に返答はなく、ギュッと抱きしめる腕の力が強まる。
(いや……馬鹿は、俺もか…こいつが、こいつは離れてかないって、決めつけて安心して……優しいのはお前だ。優しさにつけ込んだのは……俺だ)
暫く、無言が続く。何か言いたいのに、言葉にできない。つくづく、素直とは無縁だと自分自身に呆れ、セレストは深く溜め息をつく。
途端、ビクッと反応するイアンに、若干苛立つ。
(何、ビクついてんだ?まさか、今の溜め息か?!俺が怒ってるとでも?!)
「セレスト?」
「………………………………」
伺うようなイアンに、益々ムカムカするが、原因を作ったのは自分でもあると、ゆっくり息を吐き落ち着かせる。
「怒ってるわけじゃない。そ、の……悪かっ、たな…俺も、お前に甘えすぎ、て、た……」
「……………………」
「……………………」
モゴモゴと躊躇いつつも、言葉にすると、イアンが言葉を失い黙り込む。つられて、セレストも無言。
「……………………何か、言え」
「……………………へ?」
「へ?じゃない!!人が謝ってるのに何かないのか?!」
「悪ぃ……セレストが、俺に謝るなんて…」
「お前の中で俺はどんなだ?悪いと思えば、俺だって……ん、うっ?!」
急に息が止まる。
唇を奪われ塞がれて、呆気にとられて、ぽかんと開けた唇の隙間から舌が入り込み絡め取られた。
一瞬もがきかけ、体から力を抜く。自分からも絡めて、暫くしてからゆっくり離れる。
「人が喋ってるってのに……」
「すまん……だけど」
セレストがハァ~…っと溜め息をつくが、今度はイアンもビクついたりしない。若干、控えめながらも軽く抱き寄せられる。
「セレスト……」
「待て!!」
「ッッ!!!」
再び、顔が近づきかけるが、手のひらを向け、止めがかかる。ピタッと律儀に止まるイアン。
シュンと萎れる様子に、小さく息を吐く。
「セレスト…駄目、か?」
「駄目だ」
キッパリ言うと、益々萎れる。垂れる耳と、シッポが見えるようで苦笑が漏れた。
「…………ここでは、な」
顔を少し逸らしつつ、小さく言うと、背中から強く抱き竦められた。
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