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番外編② 恋の調べ〜側にいる者たちに吹く風は〜
*この気持ちに名前をつけるなら?①
しおりを挟むキャアという、黄色い声が耳に届いた。宰相、レズモントから読み終わった書を預かり、城の書庫へ向かう途中。
何だろうかと、ふと足を止め、エリオはそちらへ視線を向けた。城の本殿から、書庫や使用人などが集う棟を繋ぐ廊下の一画。侍従の青年、三人ばかりが集まり、何やら色めき立っている。
青年たちとは面識はある。仲は、あまりよろしくない連中だった為、エリオは顔をしかめた。
今はまだ仕事中の筈。城に勤める侍従は、皆、下級中級の差はあれど貴族の子息。使用人と違い、やる事はきつくはなくともそれなりに忙しい。こんな場所で油を売っていていいわけがない。
青年たちの視線の先を覗き見て、エリオは納得した。
城勤めの護衛兵たちだ。庭の一画で鍛錬中。本殿側の庭園と違い、こちらの庭はそういった事によく使われる。丁度、鍛錬の時に居合わせたのだろう。見学していたようだ。
護衛兵とはいえ、地方の兵士と違い民間出の兵士はほぼいない。貴族やそれに準ずる者がほとんどなので、出自高く人気が高い。
かと言って、実力も求められる為、金持ち貴族のボンボン坊ちゃんがなれるものではなく、精鋭揃いの為、名ばかり護衛は勿論いない。
それに加えて……
「ルシオ様、素敵…」
「えぇ~?ラティフ様のが格好いいよ!」
狙って集めたのかと言いたいくらいに、皆、個が違ういい男揃い。青年たちが思い思いの者の名を挙げていく。
「確かに皆素敵だけどね~…狙い目一番は、やっぱりラキティス様でしょ!」
侍従の中の一人の青年が、まるで我が事とばかりに言う。淡い蜂蜜色の髪に、エメラルド色の瞳の美青年。
クレセント公爵家の末っ子で、クリスティアンだ。
侍従の中でもとびきりの美人の中に余裕で入るが、性格の悪さもとびきりだと、エリオは思っていた。
とにかく、何でも自分が上に立ちたい性格で、侍従の中でも自分の意に従わないエリオを目の敵にしている。
「ラキティス様!確かに、クリスが言う通りかも~!でも……」
「何?」
「ラキティス様って、出自は公子だけど”元”でしょ?あんまり期待できないんじゃない?」
「馬ッ鹿だなぁ~!知らないの?!貴族と違って、王族に連なる方は、たとえ地位や継承放棄したとしても、王席は抹消されないんだよ?」
ふふんと得意げに笑うクリスティアンに、言われた侍従の青年が首を傾げる。
「意味、分かんない~、どういう事~??」
「もう!誰が将来自分に有益になるか分かんないんだから、ちゃんと学びなよね!王席が抹消されないって事は、王座に就く事はなくても、王族である事は消えないの!絶対!だから、ラキティス様が望んだとして、王族としてのラキティス様の名前だけあれば、名前の後ろ盾欲しさに支援する上級貴族や皇族はいくらでもいるって事!!」
高飛車に言い放つクリスティアンに、エリオは半ば感心する。
エリオとて、貴族の端くれ。綺麗事で生活できると思ってない。利用できるものは利用する。大いに賛同だ。
「案外、頭いいんだな…末っ子の甘ったれボンボンかと思ってたけど」
離れてるのと、あちらからは角度的に見えず聞こえないのをいい事にさらりと毒舌。
「勿論!ラキティス様はあのお姿も素敵だから、申し分なし!!素敵すぎるよ!絶対、僕のものにするんだから!」
うふふと笑うクリスティアンに、またまた感心。
「すっごい、自信。自分が選ばれるって思いきってるのが凄い…」
前の自分を見ているようで嫌になる。
まるで、昔の自分。高嶺の花を手に入れようと、誰彼構わず攻撃しまくっていた……
変えてくれたのは……
クスと笑い、ふと視線を感じて顔を上げる。
視線の先には、ラキティスがいた。
見て、る?
訝しむが、視線はすぐ外され、ラキティスは他の兵たちと談笑を始める。
その笑顔を見て、クリスティアンたちが再びキャアキャア騒ぐ。
「気のせい…かな?ま、あんな極上な男がそんなわけないよね」
自嘲し、ずり落ちかけた本を抱え直す。
「長居しすぎた。早く返して戻らなきゃ」
さっさと踵返して書庫へと向かう。
その後ろ姿をラキティスが再び見ており、そのラキティスの視線の先に気付いた侍従の青年がクリスティアンに耳打ち、クリスティアンから憎々しげな目が向けられていたのに、その二つの視線に、エリオは気付く事もなく…………
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