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番外編② 恋の調べ
*プレゼントは何、贈る?①
しおりを挟む「え?!誕生日?」
午前中のお茶の時間。カモミールに似た花びらを浮かべたお茶を飲みながら、俺はアリッサの言葉に顔を上げた。
「さようですわ、アヤ様」
「誕生日って、バルド…え、待っ、えぇ?!明日?!」
「アヤ様、お茶が溢れますわ。カップを」
動揺のあまり、手元が疎かになっていたらしく、焼き菓子が乗った皿を給仕するローレンに言われ、慌ててテーブルにカップを置く。
「ご存知ありませんでしたの?てっきり、知っていらっしゃるとばかり……」
「知らない……知らなかった」
オロオロしだす侍女二人。二人以上に、俺は青くなる。
どうしよう……
そんな事とは知らなかったから、プレゼントも何も用意できてない。
「アヤ様、大丈夫ですわ!まだ、半日!半日ありますわ!今から、急げば……」
「急いでも、そもそも何、あげればいいわけ?」
「………えぇ~っ、と、…そ、そうですわね」
よくよく考えたら、バルドは皇子で皇太子で。そんな、やんごとない身分の彼氏に何あげたらいいわけ??
ん??彼氏………??
「アヤ様?如何なさいました?お顔が赤く……」
「な、な、何でも、なぃ……」
自分の考えにカァーっと赤くなった顔を、二人から逸らす。
フゥッと息をゆっくり吐き、気分を落ち着けた。
動揺してる場合かっての!
「あ!でも、バルドは皇子なんだし、国を挙げてお祝いしたりすんじゃね?」
「いえ。殿下は騒がしいのは好まれません。ですから、民が独自でお祝いをする事はありますけど、表立って派手派手しい事はなさいませんわ」
よくある、城のバルコニーから民に向かって手を振る王族の図だとか、馬車で城下を練り歩くとかはなさそうだ。
アリッサ曰く、アレイスター様の場合はそれがあるみたいだけど……
ひとまず、豪華なお祝いで、俺のお祝いが霞む心配はなくなったが……プレゼントでそうなる心配は消えない。
「花束は如何です?」
「城には花が溢れてるのに?それに、男が花束貰っても嬉しくねぇよ」
俺だって、そんな女の子にするような事したくない。
「宝飾品とか?」
「バルドにはむしろ、剣とかじゃね?第一、仮にも皇子が持つ物だから、安物渡せねぇし。お金もない…」
宝飾品貰って喜ぶとは思えないし、剣は立派なの持ってるから今更だ。情けないけど、そんなの買うお金も持ってない。
「手料理を振る舞うとか…」
「アリッサ、駄目ですわ。料理長が腕によりをかけて作りますの。お仕事を奪っては…」
俺が言う前にローレンが先んじて言う。苦笑を浮かべると、侍女二人がシュンとして項垂れる。
「アヤ様、申し訳ありません…私共では、お役に立てませんわ」
「ううん、いいよ。大丈夫だ。あと、半日あるしさ…他の人に案が貰えるかもだし、自分でももちょっと考えてみる」
「大丈夫ですか?」
「うん!」
心配そうな二人に、安心させる為、俺はあえて笑顔で返事した。
*
*
*
*
*
「はぁ~~~~~~~……とは言ったものの、どうしよう」
「で、何で俺のところへ?」
ソファに座り、煎れてくれたお茶を飲む。
「いや、今日は警備休みだって聞いたし、バルドの好きな物とか、セレストなら詳しいかなって……」
「俺の休みなんて誰……いや、いい。そんな事より、お前が知らなかったって方が驚くんだがな」
「う~ん…いや、正直いろいろありすぎて、そういう事話す余裕もなかったっていうか…」
「………………一緒に居るようになってから、大分経つと思うが?」
「まぁ、そうなんだけど…さ」
しどろもどろにお茶を飲んで誤魔化す。
うぅっ…セレスト、呆れてる。
「今、言うべき事じゃないな。グレイ…殿下の好まれる物、ね……食べ物の好き嫌いはあまりないな。強いて言えば、菓子とか甘い物はあまり食べないくらいか。あぁ、酒は好んで飲まれるから、ちょっといい感じの酒を贈るのはどうだ?」
「お酒かぁ…いいかも!好きな種類はなんだろう?」
「サンカス産の葡萄酒はよく飲まれてる」
「サンカス産?!高級品じゃん!………無理だ」
サンカス産の葡萄酒は、俺も飲んだことある。以前、酔っ払って記憶をなくしたのがそれだ。あの後、何故かバルドがお墨付きを出して、サンカス産の葡萄酒や果実酒は高級品になった。今じゃ、簡単に手を出せる代物じゃない。
「城の貯蔵庫に行けばあるだろう?貯蔵番に言えば……」
「それじゃ、意味ない。うぅっ…お酒、いいと思ったんだけどなぁ~…」
城の物を自分が手に入れたかのようにして渡すのは嫌だ。何か、後ろめたいし。ほんとの意味でのプレゼントにならない気がする。
「時間がないんじゃないのか?拘ってる場合じゃないと思うが?」
「う、ん…だけど」
迷う。時間がないのも事実だし。正直、城の地下貯蔵庫に行けば簡単に手に入る。目と鼻の先に欲しい物があるというのは魅力的だ。
「うぅぅ~~~~……………………!やっぱ、駄目!すっげぇ、迷うけど!迷うけど~~~!いい!やめとく!他の考える!」
「頑固者。まぁ、いい。なら、がんばれ。気が変わったら言えよ?一応、貯蔵番には話通しておいてやる」
呆れたように、だが微苦笑するセレストに、俺も小さく笑う。
やっぱり、100%納得できてないから無理だ。無理くり納得させたとしても、後で後悔する。
自分でも、自分の不器用さに呆れるが、やっぱりお祝い事に負の感情は持ち込みたくない。
「ありがと、セレスト。もうちょっと考える。駄目なら、頼むかもね」
とりあえず、考え直しだ。
庭園に行ってみよう。外出れば、何か案が出るかも。
セレストにもう一度礼を言い、俺は部屋から出た。
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