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1.たとえそれが、、、②

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強く引かれる力に思わずよろける。
倒れかけた体が、硬く引き締まったそれに受け止められた。
思わず閉じていた目を開け、そっと上向く目に、こちらを冷静に見下ろす瞳。
薄く光を弾く澄んだ茶の瞳。

「ラキティス様……」

呆然と呼ぶ僕の声にも、その人は特に反応はない。
城下にある酒場、旅回りの歌団も生業とするマダム・エルザの店の団員。今は、城の近衛騎士で、女神の光の魔導で、皇太子グレインバルドの妃であるアヤの筆頭護衛騎士だ。
元々は、炎の魔導の国サラタータの公子で、女神の炎の魔導。ラキティスは公子の名だ。
アヤや近しく親しい者たちはキサと呼んでいる。
かくいう僕自身、呼べばいいと言われたが未だに呼べない。

「あの……」

先程まで考えていた人が目の前にいる。
あまりに急な事に狼狽うろたえた。

「……………………来い」
「え?あ、の?ッわ⁈」

一言だけ短く。
腕を引かれ、有無を言わせず引っ立てられた。
無言のまま、ずんずんと歩く姿に、後ろ姿を見つめたまま目を白黒させる僕にはお構いなしだ。

「あの、どこに?」
「……………………」

無言だ。
何か言ってくれても良くない?
急に現れたかと思えば、急に人を連れ去る。
ラキティスが何を考えているのか分からない。
そこまで考えてから、フーッと気持ちが落ちていくのを自覚した。
分からないも何も……僕はラキティスの事をよく知らない。
今、僕が世話になってるのはマダム・エルザの店。
マダムの店には、ラキティスも勿論戻る事があるし、店にはファランが居る。ファランはラキティスの妹だ。
それに、店の者やマダムもラキティスをよく知る者たちばかりだ。
だから、ラキティスの事を知りたければ彼らに聞けばいい。
でも…………聞けない。
そもそも、僕はこの人にとって何?
簡単に言ってしまえば、城で働く者同士。共通の知り合いがいる者同士。
共通の知り合いとはアヤの事。胸の奥にチクリとした痛みが走る。
アヤが居るから?アヤの知り合いだから、僕を?
聞けば早いのだ。
だけど………聞くのが怖い。
もし…………「そうだ」って言われてしまったら?
僕は、どうするんだろうか?
モヤモヤ考えるうちに、一室へ着き、中へと連れられる。
ソファの側へと立たされた。

「脱げ」
「……………………は??」

短く一言。
意味が分からず、思わずマヌケな声を出す僕に、ラキティスが顔を顰める。
何の説明もなしにいきなりそんな事を言われたのだ。
僕の方こそ、顔を顰めたい。

「手間を取らせんな。さっさと服を脱げ」
「なっ⁈」

言われた内容を理解し、僕の顔が一気にゆだる。
陽も明るい、しかも誰が来るかも分からない一室で、この人は何を言いだすんだ⁈
絶句し立ち尽くす僕に、ラキティスが今度は呆れたように溜め息をついた。

「何考えてる?真っ昼間から恥ずかしい奴だな。怪我の手当てするから服を脱げと言ったんだ」
「な、そ、、ッ!あ、なたに、言われたくない!!…………………………怪我??」

真っ赤になって言い返し、はたとなった。
目をパチクリさせる僕に、ラキティスが服の袖を捲り上げる。

「服脱いで、座って、向こう、向け」

一句一句切るように言われた。
理解はできてる。
が、納得はできてない。

「何をおっしゃって………僕は、怪我なん」
「素直に自分から服脱ぐのと、俺に無理矢理かれんのと、どっちがいい?」

選択肢になってない。
無言の睨み合いが続き、ラキティスが再度溜め息をつく。

「強情っぱり……気使って選ばせてやったってのに!」
「だか、ら……ッ⁉︎」

強引に手首を掴まれ、ぐいっと体がラキティスの方へ引かれた。
慌てる僕とは裏腹、少し怒ったようにラキティスが僕の背に手を添えた。
グッと力が入れられる。
途端、ズキリと鈍く走る痛みに、思わず顔が歪む。
無意識にビクッと震える体に、ラキティスがフッと小さく笑んだ。
意地が悪く、少しばかり危険をはらむ悪い笑みだ。
目端に滲む涙目で睨むが、相手は涼しい顔だ。

「言う事聞くか?お前がこのままなら、力をどんどん込めていく。どこまで耐えられるか試してみるか?」
「ッッッ!!」

あまりな言葉に返す言葉がない。
確信する。
この人が僕に構うのは単なる気紛れだ。状況に応じて、ただそうせざるを得ないからそうしてるだけ。
そう思ったら、一人意識して意地を張ってるのが馬鹿らしくなった。
ラキティスの胸に手をつき、ぐいと突っ張って体を離す。
特に抵抗もなく腕と体が離れた。
ふっと小さく笑う相手に、口惜しくて睨みつつ、当て付けのように溜め息をつき、背中を向け、服の留め具に手をかけた。












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