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第1章 とにかく普通と平穏を 騒がしいのはお断り!
18.普通の奴は居ないのか??
しおりを挟む「名前は、何だったか?」
「は?」
問いなのかそうじゃないのか、またまた誰に向けた言葉なのか分からない事を言われた。
キョトンとしたまま、ゆっくり周りをチラ見するが、アニエスは見たくもないとばかりにそっぽを向き、リリヤは青い顔で顔を伏せ気味、カレスは苦々しい顔で肩を竦めるのみ。この場の誰も応えない。
今のは、、俺にか?
ゆっくり自分を指差す俺に、レグルスが顎を軽くしゃくる。
自分に従って当然とばかりなそれに、怒るより呆れてしまう。
感じ悪ッ!!
「カナデ……だけど?第13皇子」
つうか、知ってんじゃね?
「カナデ……カナデ、、確か、母親は第8貴妃だったか?」
「そう、だけど…だったら、何?」
「帝の覚えめでたき貴妃だが、あれさえなければ、な」
「あれ?」
あれ、、、とは?
「なぁ、あのさ?俺、の、母親……貴妃は、何……」
「お前が望むのであれば、俺の庇護下に置いてやるはやぶさかではないが、問題を起こした貴妃の子とあらば、母上がいい顔をしないであろうな」
「いや、だから、俺の母親何をや……」
「置けば退屈はしないだろうが、母上の不興を買うは得策ではない」
「……………………」
……………………………人の話、聞けッッ!!!!!
何なんだ⁉︎
出てくる奴出てくる奴、皆んな、話聞かねぇ!
意図的に避けてるのか、はたまた偶然か。母親が何かしたのは分かるが、その何かを聞こうとすれば邪魔が入ったり、はぐらかされたり……
まぁ、一番は誰も彼も人を無視して会話にならないっていうのが大きな理由だが。
「兄上。刻が経ちますが、よろしいのですか?父上をお待たせしているのでは?」
やんわりと、だが、会話をぶった切るようにカレスが促す。
つとそんなカレスに一瞥をくれ、レグルスがフッと小さく笑んだ。
無言で微笑むカレスとレグルスとで対峙がなされる。
「お前は常に何を考えているのか気取らせぬ奴だと思っていたがな…なるほど。実に興味深いが、いいのか?俺などに悟らせて。弱点なり得るものを晒すなど、お前らしからぬ醜態に思えるが?」
「お気遣いいただき恐れ入ります。なれど、心配には及ばないかと……弱点などになりはしません」
「ならない……な。お前ならならないのであろうよ。まぁ尤も、お前相手では、”ならない”と言うより”させない”と言った方が正しいのだろうがな」
「さすがは兄上。私という者をよく理解して下さっている」
「我が異母弟ながら喰えん奴だ。やはりお前と腹の探り合いをすると疲れる。相手をするなら馬鹿に限る」
「一応、褒めて下さっていると受け取ります」
「安心しろ。俺、最大の讃辞だ」
お互いがお互い、静かに笑みを湛えたまま舌戦が繰り広げられるが、意味はさっぱりだ。
俺の話をしていたはずだが、何故か、カレスの弱点とやらの話になっていた。
というか、いつの間にカレスの弱点なんて出たのか…
そもそも、弱点なんて言ってたか?弱点って何だ?
思いきり?マークを飛ばし、うんうん考え込む。
「……様。カナデ様?」
「うん?は?へ??」
そんなに時間は経ってないはずだが、呼ばれる声に我に返った。
「あ、れ?レグ……っとと!第1皇子殿下は?」
「国帝陛下の元へ向かわれましたわ」
慌ててキョロキョロするがレグルスの姿がなく、聞いた俺にリリヤが応えてくれた。
別に声かけて欲しかったわけではない。
ただ、完全無視した形になってしまったし、あの気難しく嫌味っぽい第1皇子のこと、あとで難癖つけられなきゃいいけどなと思っただけだ。
まぁ、居ないのであれば仕方ない。
それに、あんな面倒臭そうなの、いつまでも相手してたくないしな!
「カナデ」
「は?あ、あぁ、何?カレス」
不意にカレスに呼ばれ、向き直る。
名前呼び捨てが癖になっていて、ついついそう呼んでしまい微苦笑を浮かべられた。
兄上とかなんとか呼べと言われていたが、こちとらこの世界の自覚はまだまだ足りないし、数多いる兄達とやらも馴染みが薄い。
兄上なんて時代錯誤な呼び方、生まれてこの方した事もないのだ。しろと言われてできるものじゃない。
そんな顔されたって、すぐすぐは馴染めないんだ!
ふぅっと、小さく溜め息をつかれた。
なんだか俺が悪いような気がするが………気のせい!!
「しょうがないな。まぁいいけどな。で、カナデ。聞きたいんだけど、何でいつまでもこんな所に居て、何で兄上に絡まれていたんだ?」
「御前演武場に向かう途中だったんだよ。絡まれてって、別に絡まれてねぇし」
「引き篭もりの義母弟が表に出るようになったのは喜ばしかったがな。まさか、ここまで魅力的だったのは誤算だ。余計な虫ばかり…しかも、取るのが厄介なのばかり寄せ付ける」
「は???????」
何やらぶつくさ言われるが、意味が分からん。
「カレ……」
「カレス様!」
俺の声に被せるように、アニエスのカレスを呼ぶ声がした。
う~ん……とことん、嫌われているらしい。
ほぼほぼ接点ないこの時点で、ここまでされる謂れが分からん。
「会場に向かわれませんと、遅れますのはよろしくございませんわ」
「あぁ、そうだな。が、その前に。え~っ、と、お前は名前何だったか?」
「……………………アニエスです」
一瞬言葉に詰まり、軽く頭を下げるように俯くアニエスが唇を噛み締めたのが見えた。
まぁ、そりゃそうだろう。
筆頭侍女とか言っていたし、そこまでの地位なら、仕えて日が浅いとは考えにくい。
なのに、名前すら覚えて貰えてなかったは悔しすぎる。
「お前は俺の宮を出て、御前所行き。アニエスに次ぐ地位は誰だ?」
「え?あ、ぁ、…ぅ、あの、わ、私、、、で、す?」
サラッと言われたカレスの言葉に、アニエスならずその場に居た者全員固まってしまう。
可哀想に、指名された侍女の1人が狼狽えまくり、アニエスとカレスをカクカクと壊れた首振り人形の如く、交互に見遣って言葉を詰まらす。
「ふん?じゃ、お前が今から筆頭侍女な。話は以上だ。カナデ、行くぞ?」
「は、はぁ~⁈ちょっ、、」
「まっ、お待ち下さいませ!カレス様!!」
手首を掴まれカレスに引かれるが、唐突すぎてついてけない。
慌てふためく俺に構わず歩き出そうとしたカレスを、我に返ったアニエスの必死な声が引き止めた。
「何故ですか⁈何故、私が御前所に異動なのです?私は、カレス様の筆頭侍女で……」
「主人は誰だ?」
「ぇ、、?」
一瞬言われた意味が分からないと、言葉を詰まらすアニエスに、カレスが悠然と構えた。
「俺が側仕えに求めるのは従順、華やかさ、それから賢さだ。自分の感情を主人の思惑に当てはめ、勝手に動くような勘違いは俺の宮には必要ない」
「カレス、、様」
「筆頭侍女を勤めておきながら、俺の考えも正確に読めんとはな……」
「や、!まっ、、カレ…!」
相変わらずカレスの纏う空気は柔らかで、柔和な笑みを浮かべてはいるが、発せられる気は冷たく、アニエスを見据える目は冷え切っている。
それ以上不必要なモノは見たくないとばかりに、カレスが俺の手を引っ張り踵を返す。
カレスに縋りつこうとしたアニエスの手が空を切り、そのまま崩れ落ちるように床に座り込む。
「いやぁーーーーーッッ!!!」
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