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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 27 エレオノーラの母
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そのころ、リュトヴィッツ王国ではアンナマリーだけでなく、エレオノーラもアカデミーに行くため入学準備を行っていた。
取り戻した記憶は、父と母と過ごした幸せな物だけではなかった。継母が来てからは、屋敷の片隅で息をひそめるように生活していたことしか思い出せない。確かめたわけではないが、自分の過ごしたあの家にもう居場所はないのではないかと考えていた。
疎まれている家に帰るより、自分の力で生きる方法を身に着けたほうが、はるかに安全だ。
(もう、この国で生きていくしかない)
馴染みのある人達がいる王宮で、それも事務方の官吏になれたら、なんとかいきていけるのではないかと考えていた。
そのためには、アカデミーでの学位が必須となる。
アカデミーに入るための入学試験があり、ある程度の成績があれば入学できる。しかし、奨学金が得られる特待生は10位までの10人と決まっている。エレオノーラはその10人に入るために、猛勉強をしていた。
早朝、学科の勉強をして、アンナマリーの家庭教師の授業に同席させてもらう。
この国の学科試験はとにかく暗記が多い。頭の中はパンパンだ。
授業を受ける部屋で、アンナマリーの机の横にエレオノーラ用の机が用意されている。そこには覚えたいもの、前日できなかったものなど、書物や紙がうずたかく積まれていた。
一つ一つ見返しながら、地道に復習していく。
そこへ、アンナマリーがやってきた。そろそろ家庭教師が来る頃なのだろう。
「毎日ほんとによくやっているわよ、あまり無理しちゃだめよ?」
エレオノーラが早くに来て勉強をしていることを知っているアンナマリーは声を掛けた。
「知らないことが多くて、覚えるのが大変です」
エレオノーラの目の下のクマは、日ごとに濃くなっていた。
王宮侍女たちによるスペシャルエステでもごまかせないほどだ。
「あら、でも歴史はいつも得意みたいじゃない?」
「そうですね…なんだか聞いたことのある話が多くて」
「じゃあ、生まれはリュトヴィッツ国内だったのかしら?」
「どうなんでしょう…家名がわかればはっきりするのでしょうが…。父は爵位が低くてほとんど実業家のような感じでしたし、母は、社交はあまり得意ではなかったみたいで、お付き合いもなかったので、どこの国なのか…」
「そうよね、探したけれど、この国の貴族で行方不明の令嬢はいなかったものね…。でも、だんだん思い出してきたのね!」
「はい、似たような風景をみると、あ、これ知ってる!という感じで思い出すことが増えましたね。例えば、皆さんつけていますよね、エメラルド。母もつけていたのです。」
前に、アンナマリーがつけていた宝石の髪飾りに見覚えがあった。
この国の貴族は、皆よく似た宝石を身に着けている。ハンナに聞いたところ、リュトヴィッツ王国の特産であるエメラルドだという。透明度が高ければ高いほど価値が高く、貴族はその透明度を競うのだそうだ。
エレオノーラの母も、小さなエメラルドのペンダントをいつもつけていた。
「へえ、他にどんなこと思い出したの?」
「リュトヴィッツ王国の紋章に覚えがありました。母の持ち物にあったような気がします。あと、ローゼンダールの都市名は聞いたことがあるところが多かったです。なので、ローゼンダールに住んでいたのかもしれません」
「ちょっとまって、持ち物に王国の紋章?」
「はい」
エレオノーラがうなずくと、アンナマリーは眉をひそめてじっと考えこんでいる。
「何に紋章が入っていたの?」
と、アンナマリー。
「母が亡くなる前、木でできた箱を預かっていたのを思い出したのです。その、木箱は装飾が施されていて、その装飾の中央に紋章がありました。」
「その中身は?」
アンナマリーの表情は変わらない、心なしか緊張しているようだ。その様子をエレオノーラは不思議に思いつつも、
「わかりません。開けないように、と言われていましたから、見たことがないのです。そのまま忘れていて、家を出るときに慌ててトランクに入れたような気がします。」
「ちょっとまって、あなた、家を出たの?もしかして家出?」
「あ、そうですね。どうでしょう…家を出ましたけど、家出ではなかったような…誰かに連れられていった、のかな…」
(ぼんやりとしていてわからない…誰に連れていかれたような気がするけど…)
また、頭の中にもやがかかったようで、混乱していた。
「それって、誘拐?!…って、大丈夫?顔が真っ白よ!」
アンナマリーがいつの間にか、心配そうな顔をしてエレオノーラを覗き込んでいた。
「あ、すみません、何か思い出せそうだったのですが…また引っ込んでしまいました」
「なんだか、あなたを見ていると危なっかしくて目を離せないわ」
はっとして、顔色がもとに戻ったエレオノーラをみて、ほっとした顔を向けるアンナマリーだった。
取り戻した記憶は、父と母と過ごした幸せな物だけではなかった。継母が来てからは、屋敷の片隅で息をひそめるように生活していたことしか思い出せない。確かめたわけではないが、自分の過ごしたあの家にもう居場所はないのではないかと考えていた。
疎まれている家に帰るより、自分の力で生きる方法を身に着けたほうが、はるかに安全だ。
(もう、この国で生きていくしかない)
馴染みのある人達がいる王宮で、それも事務方の官吏になれたら、なんとかいきていけるのではないかと考えていた。
そのためには、アカデミーでの学位が必須となる。
アカデミーに入るための入学試験があり、ある程度の成績があれば入学できる。しかし、奨学金が得られる特待生は10位までの10人と決まっている。エレオノーラはその10人に入るために、猛勉強をしていた。
早朝、学科の勉強をして、アンナマリーの家庭教師の授業に同席させてもらう。
この国の学科試験はとにかく暗記が多い。頭の中はパンパンだ。
授業を受ける部屋で、アンナマリーの机の横にエレオノーラ用の机が用意されている。そこには覚えたいもの、前日できなかったものなど、書物や紙がうずたかく積まれていた。
一つ一つ見返しながら、地道に復習していく。
そこへ、アンナマリーがやってきた。そろそろ家庭教師が来る頃なのだろう。
「毎日ほんとによくやっているわよ、あまり無理しちゃだめよ?」
エレオノーラが早くに来て勉強をしていることを知っているアンナマリーは声を掛けた。
「知らないことが多くて、覚えるのが大変です」
エレオノーラの目の下のクマは、日ごとに濃くなっていた。
王宮侍女たちによるスペシャルエステでもごまかせないほどだ。
「あら、でも歴史はいつも得意みたいじゃない?」
「そうですね…なんだか聞いたことのある話が多くて」
「じゃあ、生まれはリュトヴィッツ国内だったのかしら?」
「どうなんでしょう…家名がわかればはっきりするのでしょうが…。父は爵位が低くてほとんど実業家のような感じでしたし、母は、社交はあまり得意ではなかったみたいで、お付き合いもなかったので、どこの国なのか…」
「そうよね、探したけれど、この国の貴族で行方不明の令嬢はいなかったものね…。でも、だんだん思い出してきたのね!」
「はい、似たような風景をみると、あ、これ知ってる!という感じで思い出すことが増えましたね。例えば、皆さんつけていますよね、エメラルド。母もつけていたのです。」
前に、アンナマリーがつけていた宝石の髪飾りに見覚えがあった。
この国の貴族は、皆よく似た宝石を身に着けている。ハンナに聞いたところ、リュトヴィッツ王国の特産であるエメラルドだという。透明度が高ければ高いほど価値が高く、貴族はその透明度を競うのだそうだ。
エレオノーラの母も、小さなエメラルドのペンダントをいつもつけていた。
「へえ、他にどんなこと思い出したの?」
「リュトヴィッツ王国の紋章に覚えがありました。母の持ち物にあったような気がします。あと、ローゼンダールの都市名は聞いたことがあるところが多かったです。なので、ローゼンダールに住んでいたのかもしれません」
「ちょっとまって、持ち物に王国の紋章?」
「はい」
エレオノーラがうなずくと、アンナマリーは眉をひそめてじっと考えこんでいる。
「何に紋章が入っていたの?」
と、アンナマリー。
「母が亡くなる前、木でできた箱を預かっていたのを思い出したのです。その、木箱は装飾が施されていて、その装飾の中央に紋章がありました。」
「その中身は?」
アンナマリーの表情は変わらない、心なしか緊張しているようだ。その様子をエレオノーラは不思議に思いつつも、
「わかりません。開けないように、と言われていましたから、見たことがないのです。そのまま忘れていて、家を出るときに慌ててトランクに入れたような気がします。」
「ちょっとまって、あなた、家を出たの?もしかして家出?」
「あ、そうですね。どうでしょう…家を出ましたけど、家出ではなかったような…誰かに連れられていった、のかな…」
(ぼんやりとしていてわからない…誰に連れていかれたような気がするけど…)
また、頭の中にもやがかかったようで、混乱していた。
「それって、誘拐?!…って、大丈夫?顔が真っ白よ!」
アンナマリーがいつの間にか、心配そうな顔をしてエレオノーラを覗き込んでいた。
「あ、すみません、何か思い出せそうだったのですが…また引っ込んでしまいました」
「なんだか、あなたを見ていると危なっかしくて目を離せないわ」
はっとして、顔色がもとに戻ったエレオノーラをみて、ほっとした顔を向けるアンナマリーだった。
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